| 戸面原ダム。西川淵。
 戸面原ボートセンター。
 快晴/夏日、無風。
 気温/24度、水温/32度、水色/澄み、減水/1.0m。
 西川淵探方、の巻。 湊川は南房総を流れる河川で、等級は二級となっている。最初の滴が零れる水源は富津市の房総丘陵にあって、戸面原ダムを経由した水は県道88号線と絡み合うようしてに流れ、浦賀水道へと注がれる。
 また、隣を流れる小糸川(豊英ダム、三島ダム)、小櫃川(亀山ダム)とを総じて、房総三川と呼ばれているとも、誰彼なしに訊いたことがある。しかし、この呼称は、濃尾三川(木曽川、長良川、揖斐川)のそれから拝借したものと思われるが、房総のはどれも二級河川であるだけに、あまりにも言い過ぎだと思う。
 この川における最大の施設は戸面原ダムであるが、このダムには南西(上郷橋上流)と東(宇藤木橋上流)に二本の水源がある。そこで、どちらが湊川の名を持つ本流であるかを調べてみたら、上郷橋の方であった。
 これは意外だった。
 地図をみた限りでは、距離においても、支流の数においても、本流に相応しいのは宇藤木橋の方だと思っていたからだ。
 さて、前文をこのような形で書き出したのは、今回の釣行先に、ダムの上流にある西川淵を選んだことにある。
 この自分にとっての未踏の地で、何が起きるか楽しみだ。
 午前六時。戸面原ダム桟橋。
 夏の出舟時間に遅れること三十分、まったりと舟をだす。
 事務所できいた処に寄ると、目的地である川筋方面には、杉林、宇藤木も含めて誰も向かってはいないようだ。
 それはそうだろう。
 季節は初夏。
 この時期に川を遡る物好きは、いるわけないだろう。
 そう思っていたら、いた。
 昨日開催された例会参加者のうち二名の方が挑んだそうだ。
 そして、釣果は八枚と三枚で、八枚の合計が五kgだったというから、平均で約600g、とまずまずだ。
 では一体、誰が挑んだのだろうか…。
 想像するに、一元さんとは思えない。
 昨日は日曜日。石田島周辺から上郷の先までは、銀座通り並に混雑していたことが予想される。その事からして混雑を避けて一発勝負に出たか、過去によい思いをしたかのどちらかだろう。
 何れにしろ、この時期に西川淵を選択したことからして可成りのベテランとみたが、如何がであろうか。
 そんなことを考えていたら、舟は宇藤木まできた。
 そして橋を潜り川を遡り始めると、夫婦者であろうか二羽の川鵜がオレの姿を見つけるなり、上流の方へと翔んでいった。
 第1カーブの手前まできた。
 ここが宇藤木橋と西川淵との中間付近で、この先を曲がると間もなく目的地だ。
 そうそう、舟が目的地に到着する前にもう一度前文に戻るが、今、遡っている、この川の名は何というのだろう…。
 オレは昔から妙にこういった事にこだわる。
 名前もそうだが、歴史やら何やらを異常に知りたがる。そこで、後日、ボートセンターの管理人である相沢さんにも問合わせてみたが、回答はというと、宇藤木川とも高后川(たかごがわ)とも呼ばれているようで、よくはわからないそうだ。
 どなたか、ご存知の方がいらしたら教えてください。
 あたり一面に、水性植物が群生している。西川淵に着いてみて、驚いた。
 想像もしていなかった光景であった。
 川はアルファベットの(Uの字)を描くように湾曲して流れる。そして、その流れを囲む外周は、屹立した崖と生活道路、それに山々が連なったお馴染みの光景だが、内周には前述の通り、見事なほどに水性植物が群生している。
 自分は植物のことはさっぱりわからないが、気になるのでUの字の終わり辺まで行ってみると、あちらもこちらと同じで、左右対称の光景であった。
 釣り師的に浅ましく考えると、ここら辺一帯は魚にとって格好の産卵場所なのだろう。そうだとすると、矢張り、ここは春の魚場であることに間違えない。
 物珍しさに誘われ随分と道草を食って、ポイントに戻った。
 今日、舟を結ぶポイントは、「西川淵入口」というらしい。
 ここには格好の立木が幾本も生えていて、舟を結ぶにはお誂えむきだ。そして、そこに造作もなく結んだはよいが、準備の最中、傘を忘れてきたのに気がついた。
 これは、まずい…。
 この炎天下。傘がなくては陽射しから身を守るものが帽子だけとなった。
 熱中症が頭に浮かんだが、今更どうなるものでもない。
 愛車に戻ればトランクに落下傘型の大傘が常備してあるが、幾ら何でもこんな上流まできてそれを取りに戻る勇気はない。そんなことをするなら、そのまま荷物を纏めて帰ったほうがいい。
 
 
                  
                    |  |  |  |  
                    |  |  
                    | 西川淵付近の鳥瞰図。 赤のイラストが入釣場所。
 帰路に道路から撮った。
 |  
                    |  |  ◯本日のデータと予定。・目標/五枚。
 ・竿 /嵐馬、14尺。
 ・浮子/忠相パイプトップ、13番。
 ・棚 /底。
 ・鉤素/300粍+350粍。
 ・餌 /ペレ道+バラケマッハ+つなぎグルテン+粒戦細粒。
 ・納竿/陽射しに耐えられなくなる迄。
 午前八時十五分。名も知らぬ川での釣りが始まった。
 毎度のことだが、出舟から第一投まで、概ね二時間を要する。
 何でこんなにも時間が掛かってしまうのか。原因は底の計測作業にある。これが下手糞で上手くないから、他の釣り師では考えられないほどに時間が掛かる。しかし、今朝は付近をウロつき廻っていたからで、底の計測は容易に出来た。
 それは、出舟前にもらった相沢さんの助言だった。
 「底は13尺!」。
 この指示が的確であったからだ。
 閑話休題。
 いつものことだが、浮子が動かない。
 塵が浮遊する川面を眺めること、10分、20分、30分…。
 更に60分が過ぎ90分まで経過したが、動かない。
 それでも諦めずに餌を打ち続けていると、沈下中にコツン!。
 何ものかが軽く突っつき、着底してからも触られた。
 これは間違えなく、ブルーギルだ!。
 浮子が動いたのは嬉しいが、穴釜の経験で、底にもブルーギルが棲息しているのを知っただけに、トキメキはない。
 午前十時。iPhoneが鳴った。
 「今日も猛暑になりそうなので注意して帰ってきて欲しい」
 電話の主は愚妻であった。
 「わかった…」とだけ言って電話を切った。
 普段は電話などを掛けてくることがない能天気な奴だけに、
 不覚にも日傘を忘れてきた、とは言えなかった。
 殊勝な気持ちになった。
 暑くなるか、目処がたたなければヤメよう…。
 そう決めて湖面を見ると、浮子が大きく突き上げられてボディまでもが露呈してきた。いくら向こう見ずなブルーギルとはいえ、ここまで大きく動かされては合わせないわけにはいかない。
 そう思って、腕を前に突き出すと、えっ?…。
 意外にも手応えは、ブルーギルのそれではなかった。
 そう。浮子を動かしていたのは、へら鮒であった。
 そして、少しばかりの格闘の末に釣りあげた魚は、大きかった。検寸の価値があるサイズだった。
 こんなことならあの時、桶を積んでくればよかった…。
 出舟して直ぐに桶を積み忘れたことに気がついた。積みに戻ろうかとも考えたが、戻らなかった。それは、魚の平均が600gでは大したことはないと考えたのと、桶を積むことへの気恥ずかしさからだった。
 向田湾処で桶を積んでこなかったことに後悔をした。それで次の馬ノ背では勇躍と積込んで出掛けたが、不要だった。あの時の、空の桶を持って帰った気恥ずかしといったらなかった。
 今、誰も居ないこの現場で、自前の定規で計測して、
 「こんな大きな魚を釣った」と言っても、所詮は自己申告。
 「嘘をつけ、バカヤロー!」と言われたら、それまでだ。
 こんな事もあるから次からは、旅の恥は掻き捨てようと思った。
 
 桶はなくとも、釣れてよかった。釣りに来て一番安堵できる瞬間は、最初の一枚を釣った時だ。
 カウンターをポチっと動かし、数字の「1」を目にすると、大きな安心感さえ生まれる。
 この一枚を釣ってからはボチボチと釣れだしたが、それはいい。後に置いておく。
 今日の釣りは、今季六度目だ。
 そのうち四度は餌を底に着けた釣りをしている。自分でいうのも何だが、耳学問だけでやったきた割には、段々とサマになってきたような気がする。
 初釣りでオデコを喰らった時のことを思いだした。
 あの日は大雨の翌日だった。その影響で水は途轍もなく濁った。
 「今日は宙はダメですよ…」
 そう言われて桟橋を出たが、宙でも何とかなると思った。
 しかし、浮子は動かなかった。助言の通りだった。
 それでも何とか釣ろうと、杉林から前宇藤木へと転戦したが、
 結果は同じだった。
 対岸の向田湾処では辺地(へち)を狙った釣り師が、幾度も竿を曲げていた。底釣りに興じている様子だった。
 釣れないのは、場所の問題ではない。釣り方の問題だった。
 まっ茶色に染まった湖面を眺め、宙釣りだけではどうにもならないことが身に沁みた。
 この経験が、狭小な釣り感を打破するキッカケとなった。
 底釣りをやってみよう…。
 帰路の館山道で、そう思った。
 早速、次の釣りで向田湾処に向かった。
 白状するが、あの時の記事ではあのように書いたが、あの移動は予定の行動だった。
 兎に角、挑戦しようと思った。
 そこで思いがけず、大きな魚と巡り会った。
 脳天まで痺れるような、快感が駆け巡った。
 あの初釣りの日にまぐれでも釣れているか、向田湾処で何事も起こらなければ、今季の釣りはこうではなかったと思う。
 底釣りは、自分にはとても出来ない高等な芸当だと思ったが、真似事とはいえ、禍いを転じさせることができた。
 そんなことを回想していたら、結構な釣果となっていた。
 十二時。本日ただ今の釣果、十枚。
 最初の一枚目を釣ってから、僅か二時間で十枚の釣果。
 十二分で一枚のハイペースだ。
 これだけ釣れば充分だ。それに今は雲に隠れて大人しくしている
 お天道様が顔を出すと、ジリジリと肌を焼かれる。
 愚妻の心配も頭を過りだした。
 今、直ぐにヤメても問題はないが、折角だから、穴釜で樹立した底釣り記録である十枚を更新したくなった。
 そう思って続行すると難産であったが三十分後に釣れて、序でにもう一枚釣って、一件落着と相成った。
 何事もない、まったりとした一日であった。
 次回の釣りは、初めての池に行く。
 お仕舞い。
 
                  
                    |  |  |  |  
                    |  |  
                    | 地図上のA。 宇藤木より、宇藤木橋を望む。
 この橋を潜って進む。
 |  
                    |  |  
 
                  
                    |  |  |  |  
                    |  |  
                    | 地図上のD。 イラスト奥の立木に結んだ。
 このイラスト位置はイメージです。
 |  
                    |  |  ○本日の釣況。・08:15~12:45、14尺底/十二枚、両団子。
 ・合計 十二枚。
 ○2013年データ。・釣行回数/六回
 ・累計釣果/49枚。
 
 2013年08月23日(金)  。 |