戸面原ダム。
石田島、桟橋側立木。
戸面原ダムボートセンター。
天候/曇り、凪時々、さざ波。
水色/小濁り、水位/減水4.65米。
「魚籠を出した」の巻。
水が減っている。
こうして桟橋に立ってみると陸から見降ろした時とは違い、その減り具合がより実感できる。前回、この戸面原ダムの桟橋に立ったのは先々月の半ば過ぎ。あの日は湖水が満ちていた。それだけに今年もこの季節が巡ってきたことを実感す。
わたしがこちらに草鞋を脱いで何年になるか。よくは覚えていないが、確実に云えるのは季節の移り変わりをこちらのダム湖で感じさせてもらっていること。このような思いに耽っていると時間がきて釣り人の幾人かは目的地に向かって漕ぎ出した。そのゆき先を目で追うと、矢張り上郷方面が人気のようだ。
さて、これからわたしも桟橋を離れるわけだが、ゆく先は未だ決まっていない。
実はわたし。
十日前の金曜日、馬の背に入釣すべく準備を進めていた。あいにくの悪天候で取りやめにしたが、地魚の釣りがしたくて、ひとり盛り上がっていた。で、今回はその時の道具を担いできたので、上郷へゆきたくとも、あちら方面で群れをなしている魚に対応する釣り鈎を持ち合わせていない。さらに、肝心の馬の背は減水が進んで背の部分では竿が出せなくなっている。となると、本湖の周辺で茶を濁すしかなさそうだが、どうするか。
悩ましいことではあるが、とりあえずの優先順位を、
一、前島で底釣り擬き。
二、石田島(岩盤側)の人気のある立木で宙釣り。
三、石田島(桟橋側)の滅多に人の入らない立木で底釣り擬き。と決めて桟橋を離れた。
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本日の本湖の減水図。
写真に記した番号は上述の漢数字をアラビア数字に替えて表記した。望遠で撮っているので遠近感が失われている。
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先ずは前島から。わたしはこの島が好きで以前、何度か竿を出したことがある。しかし、この数年はご無沙汰気味で舟をどのように留めていたか、さっぱりと覚えていない。忘却の彼方へいってしまった。昨日も入釣者がいたらしいから工夫次第ではとは思うが、あまりの難解さに構図すら浮かんでこない。
困ったものだが仕方がない。前島を諦め次点の石田島の宙釣りに向かおうとしたが、こちらは既に対岸に陣取る釣り人がいる。それなりに距離があるから釣りをするには問題なさそうだが、ひとつ懸念材料がある。それはわたしがこの釣行記には欠かせない写真を撮ることだ。特に最初のワンカットである(入釣場所の正面図)を撮る時にこちらの方が写り込むことは避けようがない。撮る前にしっかりとお断りをすれば済む問題であろうが、遊びにきて、面倒なことには触れたくないので、やめておいた方が無難だろう。
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マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。
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☻本日の予定。
・目 標/型を見ること。
・釣り方/底釣り擬き。
・釣り竿/普天元独歩、十四尺。
・浮 子/亀治郎、二番。
・釣り糸/1号。
・鈎 素/0.4号、350粍+420粍。
・釣り鈎/アスカ針8号+7号。
・納 竿/十五時。
八時。
石田島の過疎の立木。
結局、最下位候補の石田島の桟橋側の沖に群生している立木に舟を留めざるを得なかった。
この場所は過疎の最たる場所。
池主の相沢さん曰く。近頃は入釣者を見かけることもない中、先日、珍しく見かけたが、直ぐに移動して立ち去ったそうだ。
このような人の寄り付かない場所に陣を構えたからには、
85%の可能性でオデコを覚悟せねばならない。
なんとも不毛な釣りになりそうだが、よいところもある。最近ぼんやりとわかってきた底釣りかできることだ。まだまだ擬きの域を出るに到らないが、うっすらと光が見えてきたから、その練習にはなる。
で、釣り竿を選ぶべくスマートフォンを使っておのれの書いた釣行記から過去のデータを探ると、2014年の敬老の日にここで竿を出していた。その時に振った竿は3.8米の減水で十五尺。そして鈎素をいつもより延ばして湖底に届かしたとある。ということは、今朝はその時より三尺ほど浅くなっているから、十二尺が適竿になる。ならばその竿を出したいところだが、魚の警戒心を解くためにと、生意気に二尺長い、十四尺を出すことにした。
さて、釣りを始める。
餌を落とし始めると、不毛だのなんだのと言っていたのも忘れ、もしや、との淡い期待が生まれる。そのもしやに縋って今日はいち日、釣り糸を垂れてみたい。
九時半。
案の定、釣れない。
あまりの厳しさに期待など、とっくの昔に消し飛んだ。
過去のわたしは、このような過疎の釣りが好きで終日頑張れたものだが、いつしか心変わりをしたせいか、すでに心は撤収に向かっている。
昼まで釣れなければ帰ろう。
そう決めて惰性とも思える覇気のなさで餌を打ち続けていると、退廃した心とは裏腹に徐々にではあるが、釣況に変化が現れた。
まずはもじりがあった。これをもじりと言えるかどうかはわからないが、右前方、二五尺ほどの位置で一尺程度のへら鮒が湖面から元気よく飛沫をあげて飛び出した。その様はまるで鰻屋の床の間の掛け軸に描かれた鯉のよう。どうせ冷やかしだろうが、これで魚が最低でも一匹は棲息していることが確認できた。そしてさらに、投げ入れた浮子が立つこともできずに沖の方へと曳かれてゆく。放流べらだといいな…。
おのれに都合よく解釈したが、そのようなわけはなく。竿をあげると、プルプルプルッ。やはりこいつだったか、ブルーギル。
そして、これでもかと三連荘。
次に浮子がぼんやりと縦に沈んだ。すかさず合わせると一瞬、釣り鈎が魚体に触れたが、すぐに外れてしまった。魚の正体は不明だが重量感などまるでなかったから、おそらく今度こそ放流べらかと思う。冷やかしもじりにブルーギル。そして放流べらと周囲で起き始めた変化に身を乗り出すも、そう甘いものではない。またも、浮子の挙動は鎮静化していった。
十時半。
釣り人が移動してくるのが見える。
その数は二艘。宇藤木方面から桟橋を通過してこちらの方に近づいてくる。ここで初めて宇藤木方面に向かった釣り人がいたことを知る。で、これから上郷の方へでも転戦するのかとその移動風景を眺めていると、二艘目の方が通過の際に声をかけてくだすった。なんでも馬の背におられたそうで、周囲の釣況と云えば道跡に入っていた釣り人が宙釣りで釣果を得ただけらしい。わたしの釣況も尋ねられ、自嘲気味にありのままを話し始めた時だった。話の合間に眺めていた浮子が突然、ズンっ!。重みをもって沈みこんだ。オッ!と驚きながらもこの思わぬ事態に反応すると、ゴツンッ!。一瞬にそれとわかる魚を釣り鈎が捕えた。
釣れましたッ!。
不覚にも何処の誰とも知らない方に叫んでしまった、わたし。
そして格闘すること数分。なんとか玉で掬うことができた。
やったッ!。
思いがけず、大きな魚を釣り上げた。
嬉しいなあ…。なんとも幸せな気分に浸りながら、記念写真。そしてルンルン気分で魚を池に戻そうかと思った瞬間、不意にある考えが脳裏に浮かんだ。
そうだ。魚籠を出そう。
魚には迷惑な話であるが、ここ何年か、わたしは魚籠など出したことがない。そうしよう、そうしよう、と思ったが不安がないわけでもない。こちら戸面原ダムの競技会参加者外の魚の桟橋への持ち帰りは、40糎以上。この魚がその規定を超えているかと云えば微妙なところ。写真判定に持ち込まれることは間違えない。で、そうでなかった時のバツの悪さを思うと気がひける。
とりあえず、その辺りのことも含めて連絡だけはしておこう。
スマートフォンを持つと、すかさず奥さんが出た。いつもの鈴を転がすような声だ。その奥さんに、微妙な大きさだが魚籠を使わせて欲しい、と懇願すると、いいですよッ。あっさりと許してくだすった。そしてさらにこうも付け加えてくれた。
桶はありますか?。なんならお持ちしますけど…。
なんという優しい心配りだろうか。わたしのような人生の裏街道を這いずり廻ってきた輩には、天使の囁きに聴こえてきた。
さすがにそれは、バッカンがあるので、とご辞退申し上げたが、奥さんの優しさに、嬉しさが二倍になった。
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久々に登場した魚籠。本来の位置である竿掛けと玉網置きの間には立木があって、脇に出した。 |
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正午半。
本日ただ今の釣果、一枚。
あれから浮子は、またも深い眠りに入った。
とはいえ、もうすでに満腹感に包まれているから別に起きずともよい。あと半刻も遊んだら店仕舞いをするつもりだ。
わたしのような姿勢で釣りをしていると、今朝のような出来事は
一年に一度あるかないかの貴重な事だ。それだけに、ほかの釣り人の皆さんとは興奮の度合いが違う。今回の釣りにしても、この場所を狙っていたわけではない。舟が留められなかったり、写真が撮れなかったりで止む無く流れ着いたのが、吉と出ただけだ。
そのようなことを思案していると、何が起きたのか。俄かに浮子が覚醒をして、またも大きな魚が釣れ出した。
キューンッと糸なりがして釣れた魚、ひし形をしたこれぞへら鮒という体型の魚。そのような魚が誰にでも分かる魚信で釣れ出した。
嗚呼、この快感!
これはどうだろう。我が戸面原ダムでの釣行史上で一、二を争う時間ではなかろうか。
久々に酔いしれた時間と釣果は、六十分で六尾。
痺れるような時間を過ごせて、一件落着。
大満足の、底釣り擬きであった。
お仕舞い。
☻本日の釣果。
・へら鮒/7枚、
・ブルーギル・数匹。
☻2017年データ。
・釣行回数/4回
・累計釣果/117枚。
※お断り。
この釣行記はiPad等の端末に合わせて編集しています。
2017年6月11日(日) 。
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