2012年7月17日 のアーカイブ

吉右衛門の営業日誌、常磐道を日立へ、の巻。


私の生まれは、1.953年の初夏。

先週、満59歳の誕生日を迎えた還暦の一歩手前だ。

趣味は営業。

そう、仕事でありながらもこの営業なるものが、趣味なのだ。

運がよかったと思う。

それは、趣味と仕事がイコールで結ばれたからだ。

27歳の時に営業を稼業としてから、そろそろ32年。

最早、老兵の部類に入る。

長引く不況と産業革命による若返りで、今も尚、

昔の名前ででている先輩は、私の知る限りにおいて、二人しかいない。

これは、そんな老兵の営業マンの、日誌である。


2012年7月10日、

今日これから目指すは、常磐日立。

この出張を前から楽しみにしていた。

というのは珍しく、相棒の恩田スミレが同行を求めてきたからだ。

彼女を傍に置いて一年半。最近は随分と力をつけてきたので、

ピンで営業を遣らせているが、なんの問題もない。

それと、体調を崩しているオレへの気遣いもあるのだろう。

気丈な性格も手伝ってか、何でも自力解決で済ませるようになり、

甘えてくることなどはなかった。

そんな彼女が、オレを頼ってきた。

嬉しかった。

這ってでも、行こうと思った。

その為、この日に照準を合わせて体調を管理し、

主治医に安静を解除してもらった。

今回の出張の経緯は、こうだ。

過日、日立市に在る新規開館の記念館から商談が舞い込んだ。

それをスミレが上手く纏めて、お座敷に呼んで貰えた。

しかし、事務所からの道のり150km。単独での運転はキツい。

それに安静も解除されたばかりで、不安もある。

このように書くと、それなら電車で行けばいいじゃないか、

との声が聞こえてきそうだが、それは許されない。

何故なら、オレの営業法度には、移動はベガ、相棒はスミレ、

との鉄の掟がゴシックで書かれているからだ。


11時、

愛車のベガ号で出発。

スミレも上述の不安は心得ていて、話題を沢山提供してくれる。

「九州の大雨をみていると、

家康が幕府を江戸に開いたのが分かる気がします…」

「オマエ、教養があるな」

「へっへっへ、それほどでも…」。

「なあ、先週、ネプチューンの番組を視たんだけど、

彼らは漫才もやるのか?」

「やりません。コント師ですから…」

「原田泰造はいい男だな、気遣いができて笑顔がよくて…」

「名倉潤も、ああ見えてボケもこなすんですよ」。

「あのお、それと前から言おうと思ってたんですけど、

今度、ふたりで漫才やりませんか」

「いいよ。『どうも吉右衛門でーす』、って出ていけばいいんだろ。

オマエは、出来るのか?」

「やりますよ。本さえ、書いてくれればっ!」。

……、

懸念することなど、なにもなかった。

取るに足りない会話を交わしていたら、いつの間にか現地に着いた。


13時半、

気合いを入れ姿勢を正し、理事長と事務局長にご挨拶。

早速、設立の趣旨と開設までの経緯、苦労話を拝聴する。

そして現地調査に入り質疑応答。最終的なリクエストも受ける。

厳かな雰囲気であったが、優しく語りかけて貰えた時間は素敵だった。

そんな先方に当方からも、ご利用の御礼に制作物の寄贈を申し出て、

一件落着。

いやはや、いい時間であった。

これだから営業はやめられない。


中略、

「海がみたい」、なんてくさい科白を吐いたのは、オレ。

「いいですよ」、と頷いたのは、スミレ。


16時、

海が見えてきた。太平洋だ。

ひと仕事を遣り終えた、スミレからは安堵感が漂っている。

オレも昨秋から続く闘病を思うと、

えも言われぬ満足感がこみ上げてきた。

爽快な気分だ。

そんな思いを胸に、ヒタヒタと海岸線を南下する。

90分も走っただろうか。

日立港を過ぎ那珂川を渡ると、大洗だ。

大洗に入ると適当な公園があった。

そこに車を停めベンチに腰掛け、海を眺める。

蒼い海と碧い空のハーモニー。潮風が心地よい。

そんな潮風に髪をなびかせて、スミレが照れながら告白する。

「最近、私、モテ期なんです。今日も上手くいったし、

先週の赤坂も無事納めました。多摩のプレゼンも取れそうだし、

調布の競争にも勝てました…」

「オマエ、凄くなったなあ」

と言ったきり、次の言葉が出てこない。

スミレが輝いてきたことは限りなく嬉しいが、反面、

何故か寂しさも感じる不思議な感情に支配されたからだ。

松林では、ニイニイ蝉が鳴いている。

「……、スミレちゃん、遅くなるから帰ろう」

やっと当り障りのない言葉を見つけて、背中を押す。

営業の夏、主役はスミレだ!。


お仕舞い。


弐阡壱拾弐年柒月壱拾壱日、大洗海岸にて。

吉右衛門。


次回は前回、割と好評だった回想記の続編を掲載します。

それと来週、ひこうき雲が飛込み営業デビューです。

応援してやってください。


写真キャプション、

上、相棒の恩田スミレ、

中、照れながらモテ期の告白をする、スミレ。

下、関八州を疾駆する、愛車ベガ号。



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