2012年9月17日 のアーカイブ
歌姫誕生、の巻
潮風になびかせたスミレの髪が頬にかかっている。
晩夏の海風は心地よかった。
場所は鹿島灘に面した、阿字ケ浦。
食道の女将に案内されたところであった。
「私、あの沖に浮かぶ白い船まで泳げますよ」
スミレは、沖往く船をみて微笑んだ。
彼女は泳ぎが達者であった。
中学校まではバタフライの選手だったという。
人間も鍛錬次第ではそんなにも泳げるようになれるのか…?。
然し、沖を往く船までの距離を考えると、
自分には想像すらも出来ない芸当だと思った。
「そろそろ帰ろうか」
景色に見蕩れているスミレを促す。
日立の出張の帰路に立寄ったのだが、
時計の針は、16時。
これから鹿島灘を左に見ながら南下、
北浦を経由して潮来から東関東自動車道に乗って帰社する予定だ。
事務所までの距離はザッと200km。
ひとりで運転するには、辛い距離であったが、
出来ないこともないと思った。
意気軒昂であった。
いざというときは、根性で押し切るつもりであった。
しかし、北浦の辺りから睡魔が忍び寄ってきた。
懸命に振払うが、睡魔も執拗だ。
スミレに気取られまいと振る舞うが、段々と心に動揺がでてきた。
スミレが異常に気づいて休憩を申し出てくれたが、
田圃に車を停めて、若いお嬢さんと寝るわけにはいかないだろう。
「悪いけど、歌でも歌ってくれないか」
「恥ずかしいから、嫌です…」
消え入るような声で、断わられた。
「じゃあ、演歌を流してもいい…?」
「いいですよ」
iPodを接続して演歌を流す。
吉幾三の雪国が流れた、静かに聴いているスミレ。
次は石川さゆりの津軽海峡冬景色、
天城越えでは、
天童よしみの珍道物語ではステレオの音量を下げ、
スミレの十八番である、
長山洋子のじょんがら女節では、
勝手にスイッチを切り
懸垂巻用の丸棒を三味線にみたてて、
掛け声と共に、アカペラで歌いだした。
こんな風に書くと戯れ言かと疑われてしまうし、
本人も否定するかと思われるが、
これは事実だ。
そして、その歌唱があまりにも見事であったので、
その歌詞を書き留めておく。
じょんがら女節
スミレさま。
お陰さまで、すっかりと眠気も醒めたです。
有難う御座いました。
そして、中森明菜さんの代名詞、
「歌姫」を貴女の呼称とさせてもらいます。
お仕舞い。
吉右衛門。
オマケ、
写真です。
キャプション、
上から、
沖往く白い船。
二枚目から、
自然な笑顔がでるようになった。