2014年2月10日 のアーカイブ
「ベルリンからの手紙」の巻。後篇。
メールはペンキ屋からであった。
昨秋にドイツへ留学してからは初のメールだ。
早速、読み始めると在籍中とは見違えるような自由闊達に書かれた文章であった。
内容は年始の挨拶に始まり、語学学校での奮闘ぶりやあちらでの体験談が綴られていた。
同級生で日本人は彼女だけらしい。
入学当初はそれが不安の種だったようだが今はもう解消し、趣味である崖登りの仲間も出来たみたいた。
その崖登りもフランスへのツアー参加を企てたとあったから、相変わらずの行動力だ。
そして文末には同級生と思われる集合写真が添付されていた。
厳粛なムードが漂う写真であった。
何かこう圧倒的なものが迫ってくるものがあった。
この写真には彼女が写っていないから多分、シャッターはペンキ屋が押したのだと思う。
ひとり、ふたり、さんにん…。
数えてみるとそこに写っているお友だちは11人だった。
更によく見るとなるほど東洋人っぽいのは1人だけで、他の学生さんの頭髪はすべて金色だ。
美術好きが高じてドイツに留学することを思いつき実行する。
自分にように未だ時代錯誤の鎖国の中で生き、箱根の山を越えたことすらない者にとっては驚愕とも思える行動力だ。
ましてやひとりポツねんと見知らぬ土地で過ごすことなど、とても出来やしない。挑もうとしても途方に暮れるだけだ。
それを平然と実現したペンキ屋は、自分とはまるでスケールが違う次元の途轍もない大物だったのではなかろうか。
ペンキ屋のような行動力に富んだ娘が、うちの事務所を踏み台にして羽ばたいてくれた事を嬉しく思った。
そして一度しかない人生を素晴らしく生きているペンキ屋に敬意を表したくなった。
読み応えのある手紙であった。
ペンキ屋の無事で元気な姿が想像できて、安堵することができた。
ひと息ついてから、彼女に返信を出した。
さらにLINEを用いてその旨を告げると間髪を入れずに応答があった。
そしてそれにはこう書かれていた。
「こちらは今、夜の十時です。
これから友人のパーティに出掛けます。ベルリンの夜は長い」。
朝の6時にベルリンへ出したメッセージが、5分後に戻ってくる…。
これはこの世の出来事だろうか…。
そう考えると、気絶しそうになった。
お仕舞い。
2014年02月09日(日)。
吉右衛門。
次回は「あしたのジョーを訪ねて」の巻です。