2014年3月2日 のアーカイブ

「あしたのジョーを訪ねて」の巻。後篇。


年明けの或る日曜日。私は泪橋(なみだばし)へとやってきた。

劇画で、丹下ジムのあった場所だ。


泪橋は南千住駅の南側に位置している。

劇画ではドヤ街を流れる川に架かった橋なのだが、現実は違う。

名前に橋の字は残されているが川は暗渠化され、今は東西に走る明治通りと南千住から言問橋へと結ぶ吉野通りとの交叉点にその名を留めているだけだ。

この泪橋こそが劇画の中心となる舞台で、人生に破れた多くの負け犬がこの橋を渡ってドヤ街へ流れつき、日雇い労働者となる。

それは現実の世界でも同じだが、劇画ではジョーがこの辺りの住民の期待を背に、泪橋を逆に渡っていく。

このような設定が多くのファンを魅了してやまなかったのだと思う。

それにしてもだ。

調べてみると、川が流れていたのは随分と昔のようだ。

そして連載が始まった1.968年当時も既に川は無かった筈だ。

それなのに原作者の梶原一騎はどのような発想で、この場所を選び描いたのだろうか。

あまりにも壮大で夢のある物語だけに暫し、交叉点の上で考えこんでしまった。


泪橋をあとにして南へ下ると、交番がある。

この交番を左に折れると昨年訪ねた玉姫公園があるのだが、今回は公園とは反対に歩を進めると、商店街があった。

商店街の入口アーチには大きく、「いろは会商店街」とある。

この商店街はまさにそれで至る所に、劇画の横断幕やバナーが掲げられている。

今はひっそりとシャッターが目立つが連載当時はどうであったのか。

劇画のような賑わいで、ジョーと西がアルバイトをしていた乾物屋の「林屋」はここにあったのだろうか。


この後、道往く人に劇画の背景によく登場するガスタンクの存在を尋ねてみた。正直、その存在には半信半疑であったのだが意外にも、白髭橋の方にあるという。そして、橋を渡った向島には百花園もあるそうだ。

百花園は紀ちゃんがジョーをデートに誘った場所だ。

こうも劇画の風景が実在すると自分も劇画の中に引きづり込まれてような気さえしてくる。

どうらや原作者は土地勘があったに相違ない。そして漫画家のちばてつやさんも、この地を幾度も訪れ取材をしたのだと思う。


ブログにすると僅か数行に過ぎないが、かれこれと半日以上もこの地で過ごしてしまった。

それはあっと言うまであった。

そして白髭橋の附近まで足を延ばし最後の被写体であるガスタンクをカメラに収めると、こんなことを思いながら帰路に就いた。

登場人物の矢吹丈、白木葉子、力石徹、西寛一、林紀子が現実の世界に存在したとしたら、彼らは還暦を過ぎたおじいちゃん、おばあちゃんではないのか。

私がこの劇画を目にした高校生の時、ストーリーは少年院編だったと記憶している。

その時、白木葉子が16歳であったような気がするから、

彼女は私と同学年かもしれない。


私はこの劇画を今まで何度読み返しただろうか。

おそらく十度を数えるのでないか。

職場の連中は世代的に読んだ事はないだろう。

一度しかない人生でこの劇画を読まないのは大きな不幸だ。

要らぬ節介かもしれないが、リクエストがあれば、経費で全巻を買いそろえて吉右衛門文庫に並べてもよい。

それだけの価値がある劇画だと思う。


お仕舞い。


2014年02月28日(金)。

吉右衛門。


次回は「あまちゃん」の巻です。


写真のキャプションです。

上から、

泪橋交叉点、前方は浅草。微かに見えるのはスカイツリー。

同上、表示。

いろは会商店街。

商店街には、このようなバナーが幾所にも吊ってある。

ガスタンク。































































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