2016年4月10日 のアーカイブ

「きっと待ってたんですよッ!」の巻。後編。


あらから、一ヶ月が経った。

代替品を入手できたとはいえ、決して諦めてたわけではない。

そんなわたしに天は好機を与えてくれた。

あの日の現場を訪れる機会が生まれたのだ。


見当をつけていた訪問先が違った今、残す可能性は三ヶ所。

営業先の二カ所と食事に寄ったハンバーガー屋だ。

ハンバーガー屋に関しては当日問合せてみたが、

対応してくれたのは年端もいかないアルバイト。

コーデュロイのハンティング、と、云っても、

まったく理解してはもらえなかった。

そこで今日は、木更津で入手した代替品を持参してきた。

これを見せて有無を確認するのだ。


ここは西東京の、とある町。

ひと仕事を終え帽子の探索に向かうが、あいにくの悪天候。

朝から大雨が降っている。

それだけに視界が悪い。

車での走行には腰がひける状況だ。

しかし、そんなことを云っている場合ではない。

今日を逃すと、今度、何時ここに来れるかがわかない。


ハンバーガー屋はその町の、小さな駅の傍に或る。

この駅は郊外であるにもかかわらず、各駅停車しか停まらない。

そんな環境だから当然のごとく、駐車場などはない。

それゆえ、近所の駐車場に停めるのだが、

この駐車場は細長いウナギの寝床のような形状をしているから、

運転がへたなわたしには、とても停めにくい状況だ。

前回も苦労したが、この日もそうだった。

進入は前向きで入るのだが、駐車スペースは後ろ向き。

当然の事ながら、途中で転回する必要がある。

何度も何度も切り返して、方向転換をしていた時だった。

ルームミラーに異物が映っているのに気がついた。


あれは、何だろう…?。

不吉な予感が脳裏を過る。


車庫入れが終わった大雨のなか、確認に向かう、わたし。

ずぶ濡れになったが、そんなことには構っていられない。

異物は裏返しになっていた。

まるでボロ雑巾のようだった。

しかし、その雑巾にはロゴがある。

読みづらくはあったが、読み事ができた。

ロゴは、Papas、とあった。

異物の正体が確認できた。

やはり、そうであった。

それは愛しの帽子の、変わり果てた姿であった。


推測だが、あの日、

運転席から転がり落ちて、そのままになっていたのではないか。

そう考えると、このひと月の間、風雨にさらされながら、

尚かつ、何十台、いや、百数十台の車に踏みつけられたのではないか。


可哀想な事をしてしまった。

帽子を抱きかかえるようにして、車に連れ戻った。


とりあえず、

心配を掛けたスタッフと家族に無料通信アプリのLINEで、

「帽子発見!」の速報を出した。

事務所では飛行機雲と南海の美人剣士に送った。

すぐに返信がきた。

それは何れも、心温まるものだった。

こんなにも周囲の人に喜んでもらえた帽子は、果報者だと思った。

今度は電話を入れた。

飛行機雲が出た。

帽子の無事を伝えると、

「きっと待ってたんですよッ!」

そこまで云った飛行機雲の声が聴き取りづらくなった。

どうやら感激のあまり、嗚咽してくれているようであった。


飛行機雲のことを想った。

なんて優しい心の持ち主かと思った。

村一番の花嫁になれると思った。

そして女優の二階堂ふみさんに似ていると思った。


こうして散々な目にあわせた帽子であったが、

無事に帽子を自宅へ連れて帰ることができた。


お仕舞い。


附記。

最後に写真を掲載して終わりにします。

三週連続の駄文をお読み頂きまして、ありがとうございました。


2016年04月08日。


吉右衛門。


写真キャプション、

上から、

発見当時、

蘇生手術後の陰干し、

記念に刺繍を入れた、

木更津での購入品と記念写真。


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