2016年10月11日 のアーカイブ
怪獣捕獲日誌、弐。
16年10月5日(水)。
18時に帰宅すると同時に、ショートメールが届いた。
一昨日、海辺の公園で出会った青年からだった。
たった今、尻尾に火が点いている蜥蜴の大親分が出現したという。
この貴重な情報にスクラブル発進をかけようかと思ったが、
今日は週の中日で、クルマがない。
一台は事務所に置いてあるし、もう一台は修理中。
これはダメかと諦めた時、あることを思い出した。
そうだそうだった、自転車があるのだ。
二日前に試運転したばかりで甚だ自信はないが、
そんなことは言っていられない。
事故に遭えば、それはその時のこと。
家内に用意させて急発進。向かうは海辺の公園。
自宅からの距離はおおむね、四キロ半。
怪獣が消滅するまでを二十分として、
ロスタイムが五分はあっただろうから、残りは十五分。
それをわたしのようなレーサーが漕いで間に合うのだろうか。
普通に考えたら絶望的なことだが、
救いは、田舎道であること。
下り坂を駆け抜けること。
地元であるだけに道を熟知していることだ。
兎にも角にも、競輪選手にでもなったような気持ちで、前へ前へと進む。
あるまじきことだが、信号を一つ無視をした。
すみませーっん、通してくださーっい、と叫びながら女子高生を交わす。
そうして国道に架かった陸橋を越えると、海沿い街に着く。
この辺で時計を覗きたいところだが、
片手を離すと転倒しそうで出来やしない。
元々そんな器用な芸当はできやしないのだから。
兎に角、ペダルを漕ぐ。一生懸命漕ぐ。
オレは何としてでも、蜥蜴の大親分を捕まえたいっ!、
絶叫しながら進むと信号を見えてきた。
あの信号を曲がれば、残りは40m。最後の直線コースに出る。
そして信号を曲がると彼方に見えた信号が真っ赤に点灯している。
あれが青に変わるまで漕ぐぞ。
最後は立ち漕ぎで突っ走り、青信号を無事に通過。
公園に入り浜へと向かう。
そして自転車を降りるもスタンドの立て方も、ライトの消し方もわからない。
もう、なんでもいい!。
自転車を転がし、全力疾走で浜へ突進する。
そして、アプリケーションを立ち上げるも、
残念でした。
立ち上げた画面のそこには、蜥蜴の大親分の姿はなかった。
ダメだったか…。
しばし天を仰ぎ、
傍に居た連絡をくれた青年に御礼を言いつつ経過を訊くと、
すでに五分くらい前に消滅していたそうだ。
それでも、何年ぶりかで懸命に自転車を漕いだこと。
浜辺を全力で疾走したこと。
妙な清々しさに包まれて、額の汗を拭っていると、
青年とその友人たちが、
「お疲れさま」声をかけてくれた。
どうもありがとう。
そう言って、一件落着。
浜を後にする。
八月十三日からゲームを始めてから、おおよそ五十日。
かつてない経験ができて、おのれの中の何かが沸々と蘇ってきた。
続く。
2016年10月4日。
殴り書のままで未校正です。
誤字脱字等がございましても、
寛大に対処くださいますよう、よろしくお願いします。
吉右衛門。