2019年6月28日 のアーカイブ
無題
わたしには出勤する前に立ち寄る処がある。
馬喰町駅から江戸通りを南西の方角に歩き、小伝馬町の交叉点を右に折れたところにある風情のある公園だ。
その名を、十思公園と云う。
この公園は数多くの歴史愛好家が訪れる由緒ある公園であるが、その説明は次回に廻すとして、こちらで今日の一日を思案したり、取引先等に電話を入れてから事務所に入ることを常としている。
前置きが長くなったが、五月の或る晴れた日のこと。
こちらの公園で例によってボンヤリと思案に耽っていると、保育士さんが(お散歩カート)で幾人もの園児を乗せてやってきた。
ふた組くらいの人数であろうか。結構な人数であった。
保育士さんが、その子等をカートから降ろすと、ひとりの坊やがわたしの座るベンチに駆け寄ってきた。
何をしようとしているのか…。
気になって注目していると、その子につられたかのようにお友達も集まりだした。
結句、あっと云うまに数人の園児に囲まれてしまった、わたし。
おそらく最初の子がリーダーだったに相違ない。
おじちゃん、なにをしてるの?。
片言での問いかけに、
おてんきがよいから、おそらをみていたのだよ…。
ぼくはなにをしにきたの?
おゆうぎをしてから、すなばであそぶの…。
そう、いいなあ…。
このような会話を始めると、次々に他の子らが話しかけてくる。
こうしていると、何やら妙な嬉しさがこみ上げてきた。
昔、夢中で仕事を追いかけていた時には、このようなことは一切なかったのだから。
こうした幸せ感に浸っていると、
そんなわたしの心中など知る由もない保育士さんが恐縮しながら駆け寄っていた。
すみません、お仕事の邪魔をして…。
いえいえ、ボンヤリを空を眺めていただけですから…。
と、言ったものの。
○○ちゃん!ダメでしょっ!お仕事の邪魔をしては。
こう言ってわたしに笑顔で会釈をしながら、園児らに振り向き、
おじゃちゃんにバイバイしなさい。
おじちゃん、バイバイ。
聞き分けのよい園児らはわたしに手を振りながら 、素直に公園の中央に方に歩きだした。
みんなもバイバイね。
立ち去る園児に、精一杯の笑顔で手を振るわたし。
突然、お訪れた幸せは、数分のできごとだった。
そして変われば変わるものだと思った。
ひと昔前には、幼児が集まることなど有り得なかったのだから。
還暦を過ぎ孫が生まれ、わたしも少しは穏やかになれたのだろうか。
風雪は人を鍛える。
零和元年6月20日
吉右衛門