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「ジャイアントコーン」の巻。
あれは、東品川のコンビニエンスストアであった。
私は愛車、ベガ号の助手席にニコタマゴゴロウ乗せて彷徨していた。
北品川、八潮、鮫洲…。あまり土地勘の無い所だった。
14時46分。
あの日、私は港区にある文化施設への出前を頼まれていて、
出発予定の十五時を前に事務処理をしている最中だった。
普段と何も変わらない日常に、あの未曾有の天災に遭遇した。
16時半。
社内の応急的な処置を済ませると社員さんを自宅まで送ることにした。
私が受け持ったのは事務所より南側に住んでいた三名だ。
ベガに定員の四名が乗車したのはこれが最初で、その後もない。
コースは大田区を経由して川崎まで行く。
普段ならどうということのない道程だが、異常事態だった。
私は道に詳しい方ではないが、そこそこなら知っている。
主要道路が動かなくなっているのを察知し、ベガを裏街道に走らせた。
機転を利かせたのだ。
隅田川に架かる清洲橋を渡河し清澄通りから月島を経由して、
勝鬨橋から隅田川を渡り戻ってきた。
築地の渋滞を越えると混雑は割と緩和され、
汐留から突入した海岸通りもスイスイと走り抜ける事が出来た。
18時50分。
順調に走れていた海岸通りも天王洲を越えた辺りで動かなくなった。
痺れを切らしたのか、大田区在住の二名はココで降りた。
そして、ここからは二コタマゴロウと二人に成ったのだが、
過去に経験をしたことのない渋滞に嵌り、彷徨が始まった。
行けども行けども、ベガの行く手には車が溢れている。
ラジオから流れるニュースも、
この世の出来事とは思えないような事ばかりだった。
22時。
あの時、ニコタマとは車中でどんな話をしていたのか…?
話の内容は覚えていないが、空腹が襲ってきた。
それは彼女も同じだった。
そんな時、八潮の辺りをふらふらと彷徨っている最中、
彼女が見つけたのが冒頭の店であった。
強引とも言える右折をして店の脇の路地に車を停めた。
さすがにくたびれていた。
考えてみれば事務所を出立してから、五時間半。
初めてとる休憩であった。
彼女に食料の調達を頼み、
ベガから出て体操を始めると硬直していた身体がほぐれてきた。
彼女が戻ってきた。
そして手にしていたのが、「ジャイアントコーン」であった。
以来、ジャイアントコーンを見るとあの日を思いだす。
あの私が出来た事は、社員さんを無事に送ることだけだった。
それは篠やかな貢献だったかもしれないが、私なりに必死だった。
2014年03月11日、14時46分。
職場に居合わせた3名のスタッフと1分間の黙祷をした。
そしてジャイアントコーンを配った。
このことは来年も再来年も、その先もずっと続けて行きたいと思う。
合掌。
お仕舞い。
2014年03月16日(日)。
吉右衛門。
次回は「いつでも夢を」の巻です。
「あまちゃん」の巻。後篇。
場面は場末のスナックであった。
そこには娘の春子の歌に聴き入る忠兵衛と夏の姿があった。
それを演じた蟹江敬三さんと宮本信子さんの演技は凄まじかった。
二十数年ぶりに出戻ってきた娘への愛情を見事なまでに演じていた。
そして、そのシーンを自分に置き換えたら涙が止まらなくなった。
感度また感動であった。
2月11日から、このドラマを視始めた。
毎朝放映していただけに、週単位で小見出しが替わる。
それを踏まえて小見出し単位で視ようとすれば、一挙に六日分を視なければならない。一日単位では十五分の短いドラマもそれが六日となれば一時間半になる。しかし、その一時間半が一瞬に感じるところに、このドラマの面白さある。
面白さの源はなんだろう。
それは多分、親娘の情愛に適度な諧謔を織り込んだ脚本にあるが、それ以上に特筆すべきは豪華出演者の演技だと思う。
話は脱線外するが、私の少年期後半から青年期にかけての大ヒット作品と言えば、深作欣二監督の「仁義なき戦い」だ。
私はこの映画の大ファンでその熱きことには筋金が入っている。
映画館には何度も足を運び、ビデオ・DVDが発売されてからは全五作に番外篇を含めた八作を何度も何度も繰り返し鑑賞した。
この映画の面白さも役者さんにある。主役は無論の事だが、
脇を固めた役者さんの個性たるや主役を凌駕するほどであった。
あのキラ星の如く揃った役者さんが後年、当時を振り返り、
出演者が互いに負けじと張り合っていたから秀逸な作品と成った。
と専門誌のインタビューで語っていた。
人間、齡六十を越えると仕事というものが少しずつわかってくる。
鮨、散髪、按摩…。
それを生業にしているのは、どれも職人だ。
私がそこを訪れるのは、その職人たちの仕事に触れに行く。
そういった意味では、このドラマもそうだと思う。
役者さんの個性がぶつかり合って、
この素晴らしいドラマが創り出されたのだ。
閑話休題。
その素晴らしい役者さんは、上述のふたりだけでない。
杉本哲太さんのこのような役柄での演技は始めて視た。
小泉今日子さんは適役そのものだった。
塩見三省さんと荒川良良さんはいい味を出していた。
能年玲奈さんの目はキラキラと輝いていた。
そして海女を演じた五人の女性の演技と歌はズッと脳裡に焼き付いた。
昨夜。
「あまちゃん」の第12週72話を視聴した。
天野アキがアイドルを目指して上京していくところで終わった。
これから舞台が東京に移るようだから、ちょうど折返点辺りといったところか。
これからどうように展開していくのか。
見終わった時点でまた記事にしたいと思う。
そして最後に、
このドラマの挿入歌である
「汐朝のメモリー」の歌詞を書いて終わりにしたいのだが、
書くと怒られるし金をとられるから、それはヤメておく。
お仕舞い。
2014年03月09日(日)。
吉右衛門。
次回は「ジャイアントコーン」の巻です。
「あまちゃん」の巻。前篇。
私は今。世間様から遅れることちょうど一年。
この朝の連続テレビ小説を視聴している。
昨年夏。
日本橋蛎殻町の鮨屋へニコタマゴロウを連れて行った時のことだ。
彼女から不意にこのドラマの話を向けられた。
しかし、彼女が笑顔で物語の筋を話してくれたのだが、何のことだかさっぱりわからなかった。
そう、このドラマの存在すらよく知らなかったのだ。
実は私。
「あまちゃん」に限らず、この歳になるまで朝の連続テレビ小説なるものは視た事がない。
正確には池袋で工員をしていた頃。昼休みの食堂に「鳩子の海」が流れていたのは知っていた。
しかし、身を入れて視ていたわけではないから筋は疎か出演者さえも殆ど覚えていない。
では、何故縁がなかったのか。
それは多分、放映時間に通勤電車で揺られていたこともだが、何より仕事に夢中になっていて、テレビを視る余裕が無かったのだ。
当時を思い起こしても視聴していた番組といえば野球にニュース、そして子供らと視た歌番組しかない。
そんな私も近年は人並みに、テレビを視聴するようになった。
それは世間の動きに乗り遅れない為の情報収集とボケ防止が目的だ。
メニューは問わない。
報道番組から情報バラエティ番組まで、一日二時間を目標に視聴する。
そんな中、年明けに視聴した複数のトーク番組に招かれた
「あまちゃん」の出演者(杉本哲太さん、古田新太さん、片桐はいりさん、美保純さん)がホストの巧みな誘いに応えて、ドラマの秘話を明かすのを視て、昨年夏のニコタマの話を思いだした。
そんなに面白いのか…。
そう思うと無性にこのドラマを視たくなった。
思い立ったものの、一年前に終了したドラマの視る術がわからない。
そんな時であった。
ニコタマと仕事のお疲れさま会を中華飯店で催している最中、
「あまちゃん」を視聴したい旨を告白すると、彼女は好物の担々麺と春巻きを食べるながら饒舌に教えてくれた。
NHKオンデマンドを利用するのがよいという。
しかし、それを利用するにはパソコンでの視聴か、大画面で視たければテレビにインターネット回線を接続しなければならいともいわれた。
これには困った。
パソコンの小画面で視るのではつまらないし、もうひとつの選択肢であるテレビにネットを接続するなどという高等技術の持ち合せもない。
そこで電話屋さんに相談を持ちかけると既に我が家で利用している、ヒカリテレビで視聴できるという。
よかった…。
こうして、「あまちゃん」を視聴することが可能になった。
続く。
2014年03月05日(水)。
吉右衛門。
次回は「あまちゃん」の巻、続編です。
「あしたのジョーを訪ねて」の巻。後篇。
年明けの或る日曜日。私は泪橋(なみだばし)へとやってきた。
劇画で、丹下ジムのあった場所だ。
泪橋は南千住駅の南側に位置している。
劇画ではドヤ街を流れる川に架かった橋なのだが、現実は違う。
名前に橋の字は残されているが川は暗渠化され、今は東西に走る明治通りと南千住から言問橋へと結ぶ吉野通りとの交叉点にその名を留めているだけだ。
この泪橋こそが劇画の中心となる舞台で、人生に破れた多くの負け犬がこの橋を渡ってドヤ街へ流れつき、日雇い労働者となる。
それは現実の世界でも同じだが、劇画ではジョーがこの辺りの住民の期待を背に、泪橋を逆に渡っていく。
このような設定が多くのファンを魅了してやまなかったのだと思う。
それにしてもだ。
調べてみると、川が流れていたのは随分と昔のようだ。
そして連載が始まった1.968年当時も既に川は無かった筈だ。
それなのに原作者の梶原一騎はどのような発想で、この場所を選び描いたのだろうか。
あまりにも壮大で夢のある物語だけに暫し、交叉点の上で考えこんでしまった。
泪橋をあとにして南へ下ると、交番がある。
この交番を左に折れると昨年訪ねた玉姫公園があるのだが、今回は公園とは反対に歩を進めると、商店街があった。
商店街の入口アーチには大きく、「いろは会商店街」とある。
この商店街はまさにそれで至る所に、劇画の横断幕やバナーが掲げられている。
今はひっそりとシャッターが目立つが連載当時はどうであったのか。
劇画のような賑わいで、ジョーと西がアルバイトをしていた乾物屋の「林屋」はここにあったのだろうか。
この後、道往く人に劇画の背景によく登場するガスタンクの存在を尋ねてみた。正直、その存在には半信半疑であったのだが意外にも、白髭橋の方にあるという。そして、橋を渡った向島には百花園もあるそうだ。
百花園は紀ちゃんがジョーをデートに誘った場所だ。
こうも劇画の風景が実在すると自分も劇画の中に引きづり込まれてような気さえしてくる。
どうらや原作者は土地勘があったに相違ない。そして漫画家のちばてつやさんも、この地を幾度も訪れ取材をしたのだと思う。
ブログにすると僅か数行に過ぎないが、かれこれと半日以上もこの地で過ごしてしまった。
それはあっと言うまであった。
そして白髭橋の附近まで足を延ばし最後の被写体であるガスタンクをカメラに収めると、こんなことを思いながら帰路に就いた。
登場人物の矢吹丈、白木葉子、力石徹、西寛一、林紀子が現実の世界に存在したとしたら、彼らは還暦を過ぎたおじいちゃん、おばあちゃんではないのか。
私がこの劇画を目にした高校生の時、ストーリーは少年院編だったと記憶している。
その時、白木葉子が16歳であったような気がするから、
彼女は私と同学年かもしれない。
私はこの劇画を今まで何度読み返しただろうか。
おそらく十度を数えるのでないか。
職場の連中は世代的に読んだ事はないだろう。
一度しかない人生でこの劇画を読まないのは大きな不幸だ。
要らぬ節介かもしれないが、リクエストがあれば、経費で全巻を買いそろえて吉右衛門文庫に並べてもよい。
それだけの価値がある劇画だと思う。
お仕舞い。
2014年02月28日(金)。
吉右衛門。
次回は「あまちゃん」の巻です。
写真のキャプションです。
上から、
泪橋交叉点、前方は浅草。微かに見えるのはスカイツリー。
同上、表示。
いろは会商店街。
商店街には、このようなバナーが幾所にも吊ってある。
ガスタンク。
「あしたのジョーを訪ねて」の巻。前篇。
この記事をひこうき雲の妹君、黒木葉子さんへ捧げます。
あれは昨年の暮れのことだ。
仕事で事務所から足立区の綾瀬へ向かう途中であった。
日光街道を北上し三ノ輪の交叉点から明治通りを白髭橋へ向かっている途中、愛車のナビゲーション表記に「玉姫公園」なる地名が表示されていることに気がついた。
若いスタッフの方には馴染みがないかもしれないが、玉姫公園とはあの有名な漫画、「あしたのジョー」の主人公である矢吹丈が、のちにボクシングの師匠となる丹下段平と運命の出会いをした場所だ。
あしたのジョーは私が中学から高校の頃に連載されていた劇画である。
中学から高校…。
今の私には、遠い昔であった。
そんな郷愁に好奇心までもが入り混じると、覗いてみたい衝動に駆られてきた。
しかし哀しい事に、今は仕事中。
勤務中に玉姫公園へ寄る事は、あるまじきことだと思う。
私にだって立場があるし、その程度の自制心は持ち合せている。
今度の休日に来よう…。
そう決めて素通りするつもりだったが、そうは出来なかった。
自制心が猛烈な好奇心に襲われ、あっさりとKO(ノックアウト)されてしまったからだ。
ここが玉姫公園か…。
劇画とは随分違うが、それはそうだろう。
連載開始が45年ほど前だから、約半世紀も経っている。
しかし面影はあった。
瞼を閉じて目の前の光景に45年前の想像画を重ねてみると、なるほどと思った。
矢吹丈、丹下段平、白木葉子、力石徹、西寛一、林紀子…。
これらの登場人物の顔が次々と浮かんできた。
すると遠くの彼方へ消え去っていた自分の青春も甦ってきて、不思議な感情に支配され、あの頃に戻ってみたくなった。
高校時代は楽しかった。青春であった。
勉強ができなくて追試の連続だったが、生徒会と部活に勤しんだ。
複数の部活の部長を兼務し、各種委員会の委員長も掛け持ち、挙げ句に生徒会長迄に登り詰めた。
天下を取った気になって、いい気に成っていたことが思いだされる。
あらから社会に出て、40年以上の歳月が経過した。
今と成っては何処でどうなってこうなったのかは、自分でもわからないが、グラフィック関係の隅っこにちょこんと座るオヤジに治まった。
エリートとはほど遠い私がどうにかやってこれた土台は、あの頃に作られたのだと思う。
あしたのジョーを訪ねて玉姫公園へ寄ったのに、何故か思考がおかしな方向に流れた。
もう少し探索してみたかったが、そうはいかない。
KOされた筈の立場と自制心の凄まじい逆襲が始まった。
生真面目な性格と自分の立場が恨めしく思えた。
そう思うと未練を断ち切り、綾瀬へと向かった。
続く。
2014年02月16日(日)。
吉右衛門。
次回は「あしたのジョーを尋ねて」続編の巻です。
下部に掲載した写真キャプション。
上から、
名称表示、
玉姫公園、遠景図、
同上、近景図。