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「駐車場から出られなくなった」の巻。
先週の或る日。都内へ病院へ通う家内を駅へ送った時のこと。
病院へは一時間の長旅ゆえ、始発駅へと向かったのが不幸の始まり。
駅への道中。思考が昼食に流れると昨秋、駅の構内にとても美味しいパン屋さんがオープンしたのを思いだした。そうだ!。あの店でコロッケパンと玉子パン、それに塩パンも買おう。
ちょっとしたルンルン気分になると、駅の傍の駐車場に到着。
気をつけてね…。
家内とは入場券とパンを買ってもらった後、別れたのだが、気をつけなければならないのは、おのれの方だった。
クルマに戻り駐車場を出ようとすると、ない。
どこを探しても、ない。
いつもジャリ銭を入れている、蝦蟇口がないのだ。
慌てふためく、わたし。
とりあえず、日頃培った営業で、この窮地を脱すべく駐車場に備え付けてあった電話で交渉に臨むも、にべもない。
「お金を用意してもらうしかありませんね!」
あっさりと断られて、チョン。
わたしの持ち物と云えば、クルマの鍵と携帯電話だけ。
百円玉の二、三枚をどうっやって都合つけるか。
冷静になって考える。
先ず脳裏に浮かんだのは昨夏まで世話になっていた洋服屋の店長が隣のデパートに移籍しているから、彼女に借りること。
駅前の釣具屋がわたしの通う渋谷の店と同系列ゆえ、そこから話を回してもらうこと。
いずれにしても、どうにかなるであろうが、問題は時間。
時計の針は未だ、9時を指した処。
店が開く10時までをどうやって時間を潰すか。
とりあえずのところ、怪獣捕獲ゲームしか頭に浮かばないが、これをやるにも雨が降っているし、運動靴ではなく下駄履きのままだ。それに何と言っても小糠雨とはいえ、下駄履きのジジイが傘も差さずにスマートフォンを操作している姿は、甚だ、格好が悪い。
で、途方に暮れかかっているとロータリーに停まる、一台のオートンが目に入った。
そうだっ!。あれに乗せてもらって往復してこよう。
しかし、問題は貌。
わたしは親を恨むしかない悪相だけに、冷たくあしらわれる可能性が充分にある。が、だからと云って、このままではいられない。
トンっトン!。
意を決っしてドアを叩いた。気配に振り向いた運転手さんは、わたしと同年輩に見えた。白髪混じりの初老のオジさんだった。
平身低頭でお願いをする。
「あのお、わたしは決っして怪しいものではありません。不覚にも財布を忘れまして…。あそこに駐めてある屋根の赤いクルマが出せずに困っています。申し訳けないですが、わたしの自宅まで往復してもらえませんでしょうか。間違っても、籠抜けなどは致しません。必ず、必ず、戻って参りますからっ!」
「……」
沈黙が流れた。
運転手さんの顔は険しい。
これは断られるか!。
半分諦めかけた。
が、運転手さんの顔に笑みが浮かんだ。
そして戻ってきた返事は、「いいですよ」。
嗚呼、天は我を見捨てず。
必死の願いが叶った。
ひとのよい運転手さんでよかった。
こうして自宅を往復。
安堵安堵の三度笠で、駅に戻ってきて運賃を払おうとした時のこと。
「いやぁ。運転手さん、ありがとうございました。わたしはヤ〇○顔だけに、断れるかと思っていたのですよ」
こう云って、僅かばかりの心付けも含めてお支払いをすると、こう言われた。
「アッハッハ、わたしは顔で判断はしまねんから」だって。
お仕舞い。
未校正につき、誤字脱字、乱筆乱文をお赦しください。
17年5月28日。
吉右衛門。
付記。
多忙のため、休載しておりましたブログを復活させます。
それにあたり、運営の移動も行います。
長く一生懸命頑張ってくれていた編集長の、飛行機雲が退任。
新任の編集長は、メロンパン。
副編集長は、アクトレス(仮称)。
お誕生日会のお知らせです。
スタッフの皆さん。
お疲れ様です。
今年二度目のお誕生日会のお知らせです。
今月の三日、ニコタマゴロウさんが誕生日を迎えられました。
皆んなでお祝いをしましょう。
明日(21日)ケーキを買ってきます。
15時に集合です。
よろしくお願いします。
2017年03月20日。
吉右衛門。
ちょっとした恐怖に陥った時の体験を記事にしました。
この記事は私のホームページに掲載したものを抜粋したものです。
http://www.kichiemon.info/fish……01-13.html
ちょっとした恐怖に陥った時の体験です。
お時間がありましたら、読んでやってください。
釣りも釣ったり、五十枚。
午後の二時間半で三十枚近くが釣れた。
こんな豊漁はいつ以来のことか。
頰を抓りながら水面を眺めていると、あちらこちらで浜へ引き揚げる舟が見える。エゴに入った釣り人はとっくに帰ったし、ユースホステル組もロープを解き始めた。こうなると十六時までやろうとしていた私も撤収しないわけにはいかない。そう決めて釣り竿を拭いていると、一通のメールが舞い込んだ。そしてこのメールの処理に手間取ったことが思わぬ、恐怖をよんだ。
それはメールの処理が終わると同時だった。
それを待っていたかのように、青く晴れ渡った空が雲に覆われ、夏の太陽が姿を消す。
あたり一面が、薄気味悪い墨色に染まった。
と、思った瞬間、凄まじい突風が吹きだし、愛用している紺色の帽子がフっ飛ばされた。見れば五番ブイの奥の溶岩の際を彷徨っている。急ぎロープを解き救出に向かおうとするも、この風だ。容易く艪を操ることができない。
これは天変地異にでも出会したのではないか。
もう帽子どころではない。
一刻も早く浜へ戻らねばならない。
なのに帽子を救い出そうとする私。結局帽子は救い出したが、強風が高波をよび、どうにもならなくなってきた。
これは、どうすればよいのだ。
思いがけない、窮地に陥った。
とりあえず、辺地に沿って迂回して戻ろう。
そう思ったが、それは浅知恵だった。
辺地は高波に洗われ、飛沫さえもが上がっている。そこに舟を入れれば、あっけなく転覆しかねない。
盆と正月気分はとっくに消え去り、呆然とする私。
冷静になって考える。
ここに留まって、天気の回復を待つか。
いやいや、待つと云っても回復する保証などどこにもない。それに、ヘタをすると高波に浚われそうだ。
さらに、この異様な空模様。
いつ豪雨に晒されたって不思議でないし、雷だって落ちてきかねない。
何年か前に戸面原の前島で大風を経験したこともあるが、あの時とは池の器が違う分だけ、スケールが違う。
迂回策も待機策もダメとなれば、残された手は、沖へ突っ込むしかない。
この荒波に突っ込むのか…。
想像しただけで眩暈がしそうだ。が、家族のこと。会社のこと。自分の置かれた環境を考えると、奮い立つしかない。
それでも頼みの綱が救命胴衣だけというのは、あまりに心細い。
なにかよい手はないか。
そうだッ!。
舟が波と並行にならないように、舳先を風上に向ければよいのではないか。
が、しかし、問題は私の腕力が、この強風を、この高波を、凌駕できるかだ。
長考一番、決めた。
八方が塞がった以上、もやは、火事場のくそ力に頼るしかない。
ずいぶん枯れたとはいえ、私も男。勝負に出よう。
いったれ!。
逆風に突っ込んだ!。
猛烈に舟を漕いだ。人生で一番力を入れて漕いだ。
死に物狂いとはこういうことかもしれない。
三歩進んで二歩押し戻されるような状況だが、二進も三進も行かないわけではない。
とにかく頑張ることだ。
怯む心を叱咤しながら懸命に艪を動かすと、なんとか途半ばまでこれた。
するとどうだ。漕げば漕ぐほどに、風が弱まってきた。
危機一髪。どうにか脱出できたようだ。
浜が近づくた時の喜びというか、安堵感といったらなかった。
本日は豊漁の喜びと、山の気象の変化の恐怖。
この両方を味わえて、一件落着。
釣行年表に赤のゴチック文字で記したくなるような一日だった。