戸面原ダム、
前宇藤木立木。
戸面原ボートセンター。
晴天、時々風。
気温19度、水温11度、減水1.9m、澄み。
釣行四周年記念。
嘘のような、夢のような一日だった、の巻。
あの日を境に世界が一変した。
前回の釣行記の序文で、飛込みの営業がどうとか、第一線に戻れただとかほざいて喜んでいたが、とてもそのような気楽な状況ではなくなってしまった。何せ、市場から仕事が消え失せてしまったのだから……。
何か突然、途轍もなく大きな試練に立たされてしまったが、最愛の人を失った方や被災された多くの方々の事を思えば、この程度の事なんか、どうって事はない。
長く生きていれば、いろいろな事に遭遇する。このような事を運命というのであろうが、こればかりは自分のような小人にはどうする事も出来ない。
前号と同じ事を書くが、自分は1.953年生まれ。
生年が半世紀早ければお国の事情で出征、という事になっていたであろうし、五年、十年早くても大変だっと思う。何せ、この世代の方々は激戦の狭き門をくぐり抜け、ニッポンに高度成長をもたらした優秀な方々だからだ。こんな時代に身を置いたらオレのような出来悪は真っ先にふるいにかけられていたに違いない。
それが今日まで、大病を患った事以外は大した試練をうける事なく、面白可笑しく生きてこれた。
何処かの誰かが人生の浮き沈みについて、よい事も悪い事もトータルで考えればフィフティ-フィフティと言っていたが、そう考えると、オレもそろそろ帳尻合わせをしなくはならない。
そう、今日まで楽をしていたツケを払う時が来たのだ。
一陽来復を待つ、なんて呑気な事は言っていられない。
何とかしなくはならない。
オレの力が通用するかは判らないが、兎に角、ガンバル!。
職場が風雲急を告げつつあるのに、オレは釣りに行く。
午前四時十五分。
愛車のエンジンを駆け、戸面原ダムへと出発。
一時間と少しの道中、今日の釣りに思いを馳せる。
今日は記念すべき日。
そう、釣りを再開したのが四年前の昨日であったから、それを記念しての、四周年釣行なのだ。
さて、今日は何処に入ろう。事前に予約状況を確認したところ、例会が無いようなので、釣り師の数は遊びと試釣とで十名程度だろう。それなら逸早く桟橋に立てば大本命の前宇藤木だって夢じゃない。もし溢れでもすれば四年前に彷徨の末に辿り着いた馬ノ背って手もある。まあ何にせよ、今日は仕事を忘れて一日を楽しく過ごさせてもらえれば、それだけで充分だ。
午前五時二十分。
現地着。
前宇藤木に入る夢は、果敢なくも消えた。
駐車場の事務所側は既に一杯だし、湖側も桟橋側から埋まっている。一、二、三、……と几帳面に数えてみたら十五台もいる。普通に考えて、一人一台とは考え難いから二十五名くらいは居るのであろう。
困ったなあ……計画の変更を余儀なくされてしまった。これからメシを食って桟橋に立つと恐らく最後方に成ってしまう。
さて、どうしよう。ひとしきり考えて出した結論は……、
うーん、決めた!、今日は第二候補の馬ノ背に入ろう。
そう心に決めて入店。挨拶をして舟代を支払っていると相沢さんから入釣希望の場所を尋ねられた。空かさず、
「馬ノ背に入ろうと思うのですけど……」と応えると、
「馬ノ背は癖があるのですよ、それに底釣りだし……」。
痛い所を突かれた。そうなのだ、オレは底釣りが出来ないのだ。
今日から五年生だというのに、四年もやって底釣りの出来ないヤツなんているのだろうか。
…………。
朝メシを食いながら考える。
前宇藤木と馬ノ背が駄目なら何処に行こう……。
そうだっ!、ハタと思いついた。
来る時に車を停めて、満開の桜を撮っていた場所。あの赤い橋(名前は忘れた)から湖面を覗いたら、モジリがあった。
あそこに入ろう。
もう本命場所はおろか、上郷方面だって無理だろう。マイナーな場所だから釣果零も考えられるが、元気にもじってる魚が生息しているくらいだから、十匹程度なら釣れるかもしれない。
予想もしなかった展開で気持ちは暗いが、来ちゃったんだから仕方がない。もう何でもいいから、あそこに行こう。
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当初の入釣予定場所。
立木に留めて、
もじった魚を釣ってやろうと企んだ。 |
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午前五時五十分。
入釣場所を決め、最後尾で桟橋を降りる時に見た上郷方面の光景は、まるで昨日阪神競馬場で行われた桜花賞競走のよう。石田島辺りで激烈な先行争いを繰り広げている。
我関せずと、大凡二十番目位で出航しようとすると、相沢さんがとんでもない情報をくれた。
今から行っても大本命の前宇藤木を独占出来る、と言うのだ。
「えええーーーっ!、ホントですかーっ!」。
信じられない。二十数名が出舟し宇藤木方面に進むのは、目の前の二人だけ。然も、然もだっ!、この方たちが目指しているのも、馬ノ背らしい。
事態急変。
この夢のような展開に狼狽えながら、前宇藤木での具体的な入釣場所を窺うと、これから見回りに行くので陸から教えてくれる、と言う。
ありがとうございますっ!、なんて良い方なんだろう。オレのような年に五、六回しか訪れない独立愚連隊に対しても、こんなにも親切にしてくれるなんて……。
お陰で、なんだか希望が湧いてきたぞっ!。
予想もしなかった幸運に感謝しながら、ルンルン気分で前宇藤木へと向かう。
…………。
前を行く馬ノ背組に別れを告げ、南郷岬からはひとり旅。
前宇藤木には過去に三度の入釣経験がある。それは、何れも小ワンドより宇藤木橋側であった、然し、今回の着舟場所はワンドの手前側のようだ。たいした距離ではないので、景色を楽しみながらゆっくりと櫓を動かしていると、らしき付近に到着。
はて、何処だろう。キョロキョロと周囲を見渡していると相沢さん登場。そして、大声で指示をくれる。
「あそこに生えてる六本の立木に留めてくださ−いっ!」
「はーいっ!、それで竿は何尺ですかーっ!」
「15から始めてくださ−いっ!」。
こう言い残すと見回りに行ってしまわれた。
ありがとうございます。心より御礼申し上げます、謝謝。
指示に従い舟を立木に寄せてみたが、留め方がわからない。
岸からロープを引っ張るには距離がありすぎる。然らばと、立木群に突入して根のしっかりした木に舳先を結び、右舷を数本の木に結んでみる。結んだ木が脆弱なのが気にはなるが、まあ、いいだろう。
…………。
舟を留めて改めて正面を見ると満開の桜の木が数本。背後からは
ホーホケキョ、とウグイスがさえずり、見上げた空は青が七で白が三のハーモニー。
長閑なものだ。こうした空間に身を置いていると、ひと月前にあった事が夢のように思えてならない……。
◯本日のデータと予定。
・目標/50枚。
・竿 /嵐馬.16尺。
・浮子/忠相グラスムクトップ.12番。
・鉤素/100粍+600粍。
・餌 /ペレ宙.2+オールマイティ.1+しめカッツケ.1水.1。
(数字の1は200cc)
アルファα21.1+新ベラグルテン1+水2。
(数字の1は50cc)
・予定/納竿、15:00。
午前七時。
さて、ぼちぼち釣りを始める。
目の前の湖面は、いかにもって感じで釣れそうなムード。
もしかしたら一投目で釣れるのではないかっ!、ほのかな期待を込めて竿を入れてみたが……なんて事はない。トップは何の抵抗も受けずにあっさりと沈下してしまった。
今回試すバラケエサのレシピは自分で考えた。いつもはバラケが強過ぎて失敗するので集魚役の粉を替えてみた。然し、上手くいかない。硬いし重いし水中の溶解具合にも問題があるようだ。
でも折角作ったのだし、とせっせと打ち込んでいるとトップの沈下速度が遅くなってきた。そして、その後の何投目であったかは忘れたが、初めて出くわす魚信に合わせると、「ありがとう!」本日の第一号、開始十分で釣れてしまった。
釣れ始めると早い、最初のヤツから三連荘達成。
こんなにも魚が歓迎してくれるならリャンコで釣りたい、と最初の作戦タイム。上針を6号(アスカ)に縮小し、ハリスも250粍に延長。
ハリスの長さを250粍+600粍にし、両針にグルテンをつけて、リャンコ1号作戦発令。
魚信の位置が高くなったのが気になるが、作戦が功を奏して釣れたきた。然も、リャンコの三連荘も達成して節目の十枚目を釣ったのが、七時半。
沢山釣れているのに贅沢は禁物だが、敢えて言うと、リャンコで掛けると玉で掬うには段差が邪魔だ。それと魚信もエサ落ち目盛り前後の微妙なのは嫌だ。もっと強い魚信で釣りたい。
こんな贅沢なリクエストに応えるべく、再び作戦タイム。
ナジミ幅が小さいのは、ハリスが水中で弛んでいるか緩んでいるからだろう、だったら単純に短縮すればいいのではないか?。
それを解消すべく、今度は下のハリスを350粍まで短縮して、
250粍+350粍にして再々開。
狙い通り大きくなった浮子の動きにトップも躍動するが、空振りがばかりで、どうにも上手くない。
まあ、釣れるだけ幸せではないか……そう思い直して、またもハリスの交換。
450粍+600粍にして再々々開。
今度は上手くいった。
直ぐに釣れだして、アッと言う間の大量生産。
開始僅か二時間で五十枚も釣れてしまい、嗚呼!驚いた。
午前九時。
早くも魚籠の中は大賑わい。
また、最初の両グルテン100cc攻撃も終了。
ひと息いれてエサを作っていたら風が出て来た。浮子は寝そうにないが、先ほど来の微妙な動きは判別出来そうにない。
それでは、と朝のバラケを改良して両団子エサも作成。
ペレ宙.1+オールマイティ.2+しめカッツケ.1+水.1。
(数字の1は200cc)
この修正で可成り軟化する事が出来て、なんだかいい感じ。
…………。
十五分のロスタイムを経て再開すると、待ってました、と言わんばかりに、またも大量生産。
信じられない事だが、空振りなんて滅多に無い。
ダブル、トリプル、フォース、そしてフィフス、……あとは数えきれないくらい釣れてしまって、
百枚目が釣れたのは、十一時二七分。
午前十一時半。
まだこんな時間なのに、一束も釣れてしまった。
これは生涯三度目の記録だ。
一度目は2008年春の三島湖の豚小屋、二度目は同年夏の三名湖の大土手桟橋、この時は十三時半頃迄に百十枚釣ったのだが雷雲が出てきてヤメにしたのを覚えている。
…………。
今日はどのくらい釣れるのだろうか。
取り敢えず、従来の記録である前述の三名湖の記録は更新出来るだろう。となるとこのままいけば……。
途方もない数字が頭を過った。それと同時に無性に喉が渇いて、心臓の鼓動が大きくなってきたのは、何故だ。
いけない、いけない、緊張してはいけない。
紀尾井町の主治医から慌てる事、根を詰める事、緊張する事は絶対に避けるようにと言われている。そう言えば、ゴルファーがグリーン上で倒れるのもそれらしい。
まあ、ゴルフのプレー中なら同情もされようが、たった一人で釣りをしていて自分の釣果記録に緊張して……なんて馬鹿馬鹿しくて言えやしない。
…………。
今、この場所で、そんな理由で死ぬのは嫌だ。
というわけで、緊張が解けるまで竿をボールペンに握り替えて、この日の周囲の状況を記しておきたい。
先ずは、自分の視界の中に人類の存在は無い。次に、ご近所はと言うと、目の前の往来で宇藤木橋を越えて行ったり戻ってきたりしている人の数を、足したり引いたりすると残ったのは五名。オレの場所からは見えないが、直ぐ先の小ワンドに中に一名。そして往来者からの情報で杉林に三名。あとは朝の馬ノ背組が移動していなければ二名。以上ココ迄が桟橋から大別する宇藤木方面軍の全容という事に成る。
正午。
時報が聞こえてきた。
もう三十分も休んだから大分緊張も解けたし、心の臓の鼓動も鎮まってきたので、午後の部を開始。
…………。
長く休んだのに、ペースはまったく落ちない。こんなに釣れるのは、魚口密度が異常に濃いのと、魚が空腹だからだろう。
魚から、何でもいいから早くくれ、と催促されている感じ。
そんな恵まれた展開で、時が流た十三時四十分、カウンターに表示されている数字は「137」。
密かに目標としていた百七十枚は無理かな……、と思っていると宇藤木橋上に相沢さんが現れた。
「どうですかあーーっ、釣れてますかーっ」
「はいっ!お陰まさで……。最後は百五十だと思いますよー」
「えええーーっ、そんなにですかーっ」。
普段が普段だから、驚かれるのは当たり前だ。だから、謙虚に二十少なく言っておいた。
…………。
更に時は流れて、納竿直前の十四時五六分。
本日ただ今の釣果は、百六十七枚。
この一時間、両グルテンに両団子をこき混ぜて猛烈にペースが上がってきた。そして、残り四分で三枚に挑戦。
計算では、先ずは一枚釣ってからリャンコで締めて最後を飾る。こんな夢を抱いていたが、そうは問屋が卸してくれず、最初にリャンコがきてしまい、尚かつ、悪い事に上針の魚に針を飲まれてしまった。この大事な時に……、とブツブツ言いながら針をハズした瞬間にホイッスル、十五時と相成った。
残念でした……目標時間には写真判定で届きませんでしたっ!。
然し、数の帳尻合わせはしよう、と直ぐに延長戦に突入。
…………。
延長戦の一投目、直ぐに釣れて百七十枚達成。
もう少し頑張ればあと十枚くらい釣れそうだが、さっきの突風でハリス付きの針ケースが飛ばされた。あのゴミは回収しないと迷惑をかけるだろう。
撤収、ゴミ拾いで規定時間に戻るのは愚図なオレには至難の技。
それにこんな釣果はオレには似合わない。だからもうヤメよう。
十五時二分、改めて納竿、と相成った。
南郷岬付近まで漂流していたゴミを回収して、桟橋に帰還。
相沢さんに沢山釣らせてもらった謝辞を述べ、更に奥さんにも戦況を報告をして、一件落着。竿頭になれた。
まさに嘘のような夢のような一日であったが、冷静になって考えてみると、創意工夫をして釣る、本来のへら鮒釣りの姿からは少々逸脱していた気がする。早い話が食欲旺盛な魚の群れをオレの竿が直撃した、ただそれだけ、という事ではないか。
それと沢山の魚を放流してくれている、釣り場主さんの努力を忘れてはいけない。
まあ、ナニはともあれこんな事は、もう二度とないだろう。
楽しかったです、ありがとうございました。
お仕舞い。
16尺天々・両グルテン+両団子。
170枚(07:00〜15:02)
合計 百七〇枚。
六寸零分〜九寸五分。
○この日の釣果。
◯2011年データ。
・釣行回数/2回。
・累計釣果/240枚。平均/120枚。
・次回、日程は未定だが場所は戸面原ダム。
2011年4月30日(土)
吉右衛門。 |