吉右衛門へら鮒釣り2011

  ◎第壱回釣行
04月28日(月)

戸面原ダム。
道跡。
戸面原ボートセンター。
曇天、風一時強風。
気温/21度、水温/不明、水色/小濁り、減水/2.1m。 

「初釣り」の巻。

館山道の富津中央ICを出て、南へ進むと湊川にぶつかる。
そしてこの川と絡みように敷設された国道465号線を行くと、右手の視界に山々が広がってくる。戸面原連峰だ。
今回の目的地である戸面原ダムは、この山の中にある。
随分と遅くなってしまったが、今年もここにやってこれた。
釣りを再開して八年、釣行記を書き始めて七年目の春だ。
今更の話であるが、今年は釣行回数を二桁に乗せるべく二月からの始動を企ていた。しかし、日頃の所行が災いしてか悪天候に見舞われた。雪が降ったのだ。
三月は仕事が忙しい。書き入れどきだ。職場の皆さんは休日も返上して働いてくれている。そんな時に仕事を休んでに釣りに行くのは、いくらオレがひとでなしであっても憚られる。
そこで仕事が一段落した四月に入り勇躍準備を整えたが、またも悪天候に見舞われた。自分が予定をすると狙い澄ましたように低気圧がやってきて雨を降らす。
それと人間が贅沢になってきたのもある。自由人に近い生活をしているから予報に雨風のマークが出ると、直ぐに腰が引けて取りやめる。いつでも仕事を休める気安さからだ。
しかし、それにも限度があった。さすがにこの時期まで初釣りがズレると飢餓感すらも湧いてくる。そこで今日の予報もあまり芳しくないが、多少のことならと固い決意でやってきた。
今年始めの釣行記の冒頭で、初釣りが遅くなった言い訳をぐだぐだと書き殴ったが、今回の釣行には釣り以外にも楽しみがある。
それは昨年何回か取り上げた、昔の釣りの関係だ。
多分、この釣行記を読んでくれたのだろう。
自分が所属していた、「つつじ野べら会」の会員だったMさんが戸面原ダムを訪れた際に手紙を残してくれているという。
それをボートセンターの管理人である相沢さんから訊かされた。
とても意外なことだっただけに驚きもしたが、嬉しくもある。
ボートセンターに着くのが楽しみだ。

六時四十五分。
出船時間に遅れること六十分。ひとり桟橋に立つ。
今朝は川筋へと旅立つ。宇藤木橋を潜り「川の崩れ」の先に生えている立ち木に舟を結ぶのだ。
実をいうと、今回は心密かに馬ノ背か向田湾処(わんど)の流れ込みを狙うつもりでやってきた。しかし、馬ノ背はこれから吹くであろう強風の影響をもろに受けるので難しい。あそこは広場のど真ん中にあるだけに仕方がない。そして次なる候補地の向田も入店前に立ち寄ってきたが、肝心の流れ込みが枯渇していて、釣趣に欠ける。
どちらも駄目とわかった時点で、昨年から自分の中で流行っている底釣りが出来ないのは残念だが、諦めざるを得ない。
そこで避風対策として川の崩れに向かい、宙釣りをすることにしたのだ。消去法で選んだ場所だけに喜び勇んでの出陣とは言えないが、相沢さんに見送ってもらい出航。宇藤木橋を目指す。
舟が馬ノ背と鎌の鼻の中間附近に差し掛かった頃だ。
不意に脳裏を魚粉の匂いがかすめた。
それは多分、馬ノ背に未練があるからだろう。
躊躇いが生まれた。
既に湖面には、さざ波が立っている。
馬ノ背は無理に決まっているが、辺(へち)ならどうか。
自分はまだ竿を出したことはないが、辺には「道跡」なるポイントがある。ここも隧道湾処(とんねるわんど)からの風で難しいとは訊いてきたが、如何なものか。
ちょっと見学しておこうか…。
そう思って舟を旋回したことが、今日の運命を別けた。
道跡とは何処だろう…。
辺に沿って櫓を漕いでいくと陸に鉄柵がみえる。そして樹々には釣り人が結んだと思われるビニール紐の残骸がある。
ここが道跡か…。
眺めていると、背後から大きな声が飛んできた。
「もっと、ヒダリッ!。左の方だよ」
声は、杉林からだった。
言われるがままに左へ漕いでいくと、
「紅葉の木のしたーっ!、ロープが下がってるーっ!」
今度は舟に立ち上がり、両手を拡声器のような格好にして叫んでくれている。
ここまでしてくれては、黙っているわけにはいかない。
大声が心臓に響くと知りながらも、振り返り、
「ありがとうございましたーっ!」と、返礼しておいた。
そして言われた通り移動してみると、なるほどだ。
紅葉の木には、ロープがぶら下がっている。
ほんの寄り道気分だったが、このまま立ち去るのも惜しい気がしてきた。
天敵の風は、まだ辺には及んでいない。
辺は凪いでいる。
風が悪さを始めるまで、ここでやってみるか…。
そう決めて舟留めのシミュレーションを始めたが、減水の影響でロープを結ぶ樹木が高い。地肌が露呈しているだけだ。
思案に耽っていると、へらじいさん推奨のペグとトンカチが鞄にあるのを思い出した。
(へらじいさん。いつも重宝させてもらっています。)
これを取り出して左右のロープを結んだはよいが、舳先を結ぶペグがどうにも頼りない。地肌が軟弱で簡単に抜けてしまう。
ここは扇の要だけにしっかりと固定せねばならない。
ボートセンターに戻って、何か借りてこよう。
桟橋へ戻る途中。杉林の方に御礼申し上げると、こう言われた。
「13尺でやると浮子が山陰に入るよ。でも釣れてないんだ。昨日が十五枚、一昨日は十七枚だったかな…」
なんでこんなに細かく知っているのだろう…。
それにあの方は誰だろう…。
桟橋へ戻り舳先の支えを物色していると、焼却炉の脇で格好の鉄パイプを見つけた。早速、相沢さんに貸与を願い出ると、もっとよい物があるという。そこで引っぱり出してくれた物は、プロレスの黄金期。あのアントニオ猪木と死闘を演じたタイガー・ジェット・シンが使っていた、サーベルのようなものであった。
これは凄い。これを突き刺せば舳先はピタリっと固定できる。
喜び勇んで道跡に戻り、周辺の水深も測り準備にかかる。

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本日の入釣場所の、正面図。
周辺図は文末に掲載。

◯本日のデータと予定。
・目標/五枚。
・竿 /朱門峰嵐馬、14尺。
・浮子/忠相パイプトップ、13番。
・道糸/1号。
・鉤素/0.4号、300粍+360粍。
・棚 /底。
・餌 /ペレ道+バラケマッハ+つなぎグルテン+粒戦細粒。
・納竿/十五時。

八時半。
本年の釣行の安全と戸面原ボートセンターの発展を祈念し、第一投を放り込む。
2014年の釣りが始まった。
何の因果だろうか。始めると同時に、「待ってました」とでも言わんばかりに風の勢いが増してきた。
その影響で餌の着水が難しい。
餌落ち目盛りから四節沈むように調整(三節残し)したつもりだがどうもうまくいかない。目標の着水地点から右にずれると凸がある。湖底に岩でもあるのだろうか。そいつが邪魔をしてボディが露出したままトップが水に浸らない。さらに風に負けまいと沖めに投げると今度はトップの先端までもが水没する。
このことは先ほど凪の状態で測量した時点でわかっていた。
しかし、この程度のことなら竿尻を使って帳尻合わせをしよう考えたのが、甘かった。
自分自身の底釣り技術は、採点すると、10点満点で2.5点程度だと思う。その技術では到底歯が立たない状況だ。
頭の中では上針を浮子の真下にピッタリと着底しているつもりだが、実は着いているのは錘のような気がしてならない。
その推測が当たっていると鉤素の長さは300粍+360粍だから、300粍も湖底を這っていることになる。幾らなんでもそれでは浮子は動かないだろう。
初釣りは強い風と不安に苛まれる始動となった。

九時三十分。
六十分が経過した。
浮子が動かないのは覚悟のうえだったが、寒さが辛い。
鎌の鼻から吹き抜けてくる風と南郷岬から廻り込む風が、容赦なく頬を叩く。念のためにと着てきたブルゾンは離せないし襟足には手拭き用のタオルを巻く。そして更にどこかのアウトレットで衝動買いしたヤッケを頭からスッポリと被り、寒さを防ぐ。
この風はやがて雨も連れてくるのではないか…。
そうなると釣りどころではなくなる。移動か中止を考えねばなるまい。
えらい日に来てしまった。
滅入るものがあった。
最初から宇藤木橋の先に行けばよかった…。
あそこはまだ空き家だろうから移動してもよいが、雨が降ろうというのに、桟橋より遠くに移動するのは如何なものか。
移動が嫌ならギブアップということになるが、今回に限ってはおいそれとギブアップは出来ない事情がある。それは昨年の初釣りもオデコだったからだ。オデコと言っても最近のオデコ率を考えれば、今更どうということはないが、オレもへら師の端くれ。
幾らなんでも、二年連続の初釣りオデコは御免被る。

十時。
それはギブアップの決断をくだせずにいた時だった。
浮子の挙動がおかしい。
波間から、ふッと上がってきた。
不自然な動きだ。
あれは餌が溶けたものではない。何者かが持ち上げたのだ。
魚信なのかもしれない…。
この日はじめて、竿を持つ手に緊張が走った。
ここで押さえ込んでくれれば…。
祈りは通じた。浮子が波間に小さくも鋭く沈んだ。
すかさず竿を持つ手を伸ばすと、ゴツンっ!。
やったッ!。
魚がかかった。しかも大きな魚のようだ。
魚も驚いたのだろう。沖へ走ることに一瞬の間が空いた。
それからの魚の抵抗は、危害を与えておいてなんだが、可成りのものであった。
しかし、慌てない。
昨年三島湖のダムサイドにて、腰が抜けた竹竿で大きな魚を幾匹も釣り上げた経験が冷静さを生んだ。
適度に泳がし頭上の紅葉に仕掛けが絡みつくことに気をつけ、相手が疲弊するのを待つ。強引に寄せればもっと早く勝負はつくのだろうが、そこは慎重にゆっくりと引き寄せ、玉で掬う。

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本年の第一号。
推定、壱尺参寸弱。

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再び、本日の正面図。

十時半。
この快感と安堵感はなんだ!。
毎度のことだが自分にとって、オデコと一枚の壁は厚くて高い。それだけに壁を乗り越えられた時の喜びは途轍もなく大きい。
そして今回はそれを乗り越えることが出来た。
それが嬉しくてたまらない。
その快感を得る為に釣りを遣っているようなものだ。
随分と泣きが入ったが、ギブアップしなくてよかった。
そしてこの魚を釣り上げた御礼を、杉林の御仁へ報告せねばなるまい。
そうそう、話は前後するが、あの方のお名前がわかった。
いつもボートセンターの釣果欄を賑わしている、名人の山田さんだった。これはサーベルを借りに行った時、相沢さんから教えてもらった。
納竿後に改めて挨拶にいこう。

十一時半。
本日ただ今の釣果、一枚。
薄日が射して波が穏やかになってきた。お陰で寒さも和らいだ。これならあれ依頼、浮子に変化はないが続行しよう。
長閑な一日となった。
このままダラダラと、十五時まで過ごしてもいい。
そう思いながら湖面をぼんやりと眺めていると、ツンっ!
浮子が沈んだ。
本日二回目の魚信でも大きいのが釣れて、両目が開いた。
二枚なんて中途半端だから、五枚を目指そう。
五枚に挑戦すると又も大きいのばかりが釣れて、十三時に達成。
今度は生意気に十枚に挑戦すると又々大きいのばかりが釣れて、
十四時二十分に達成。
思いがけず二桁の釣果を得た。
望外な数字だがこれに満足せず、もう少し頑張れば昨日の釣果である十五枚にも届くのではないか。
これが達成できれば、今朝の採点数値を「3」に上げてもいい。
納竿までの四十分で五枚の釣果は難しいかもしれないが、今日は空振りが少ないからいけるかもしれない…。
珍しく意気込んでラストスパートをかけたが、追釣出来たのは一枚のみ。あと三十分頑張れば可能性もなくもないが、これだけ釣れれば満足だろう。それに場所をご指南頂いた名人の山田さんとサーベルを貸してくださった相沢さんにも御礼が言いたい。
そう考え直すと、一件落着。予定通りの、納竿と相成る。
スタートの頃の嘆きは何処へやら、
終わってみれば愉快で痛快な一日であった。
湖上には、鯉のぼりがはためいていた。

お仕舞い。

○本日の釣況。
・08:30~15:00、14尺底/十一枚、両団子。

○2014年データ。
・釣行回数/一回
・累計釣果/11枚。

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本日の入釣場所の、周辺図。

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サイズは大体、こんなもの。

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もうすぐ、五月。
帰路に撮った鯉のぼり、誰がやったかお洒落なことをする。

2014年05月05日(月) 。
吉右衛門。



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