吉右衛門へら鮒釣り2011

  ◎第十一回釣行
08月13日(水)

戸面原ダム。
石田島、北東側立木。
戸面原ボートセンター。
曇り日、凪。
気温/29度、水温/28度、水色/澄み、減水/4.1米。 

「石田島北東側立木。蝉時雨が降りそそぐ、晩夏の光景に魅せられた」の巻。

腕に痛みが走るようになってきた。
発症し始めた頃は釣行の時だけに限られていたが、最近では日常的にも痛むようになってきた。漠然としていた痛みの箇所も今ではしっかりと特定できる。右肘の裏側から下の部分だ。
原因は仕事で使う鞄かと思っていた。
私の鞄は重い。電子書籍を読む為のiPad。出先で触れ合ったもの
を撮る小型デジタルカメラ。そして更に電話をしたり音楽を聴いたりする端末も持ち歩くから、個々には軽い品々も、枯れ木も山の賑いで、それなりの重量となって伸し掛かってくる。女性スタッフにも持たせたことがあるが随分と驚かれたものだ。
そんな状態に陥っても、釣りには行きたい。
渋谷のサンスイ釣具店へ小物を買い求めに行った時のことだ。
痛みに堪えかねて腕をグルグルと廻す仕草をしていると、武重店長から、痛みの原因は釣りではないか、と言われた。ほかにも同じ症状の方が幾人も来店されるそうだ。
そう言えば最初に痛みが走ったのは、宇藤木川の釣りであった。
しかし、私は魚を沢山釣るわけでないし、竿の合わせもどちらかといえば大人しい方だ。
それでは、何故こうなってしまったのか。
よく考えてみると、思い当たることがあった。
私の釣りは、突然、魚信がやってくる。
前触れがなく浮子が衝撃的に沈むから、驚いて竿を上げる。それが強い負荷を生み、腕を痛めるのだ。
腕が痛いのには困ったものだが、不思議なことに妙な感情が湧いてきた。
痛みの原因が釣りだとすれば、名誉の負傷とまでは言わないが、何故か、嬉しさを隠せないのだ。
湿布が貼られた腕を目にした周囲から、
「その腕、どうしました?」
「いやあ、釣りで痛めましてね。ダムに小舟を浮かべて、へら鮒を釣りをしてるんですよ…」
このような会話をすることに快感を覚えているのだ。
きっと自分がへら鮒釣りに興じていることを、世間さまにアピールしたいのだと思う。
腕を痛めて喜んでいる。そんな自分の心がわからない。

六時
曇り日、微風。
戸面原ボートセンター桟橋。
出航前にボートセンターの管理人である相沢さんから、耳寄りの情報をもらった。
昨日の釣果が三枚だった底釣りポイントがあるという。
それは甘美な囁きだった。
過疎好きな私にはもってこいの話だ。
釣れた魚は地に居着いたヤツらしく、型までは訊かなかったが、多分それなりかとは思う。前回、沢山釣ったチョーチン釣りとは正反対の釣りだけに、さぞかし静寂を味わえるだろう。
そして肝心の場所であるが、石田島の立木であった。
石田島の立木といっても岩盤側のメジャーな方ではなく、島の北東側に位置する桟橋側のマイナーな方だ。
(例によってYahoo!の地図を下に掲出した)。
この場所は春に前島で竿を出した折り、横目で眺めていたポイントでもある。あの日は朝から入釣していた御仁もいたが、九時過ぎには離脱していったような記憶がある。
私もいつか舳先を結びたいと思っていたポイントだけに、これは願ったり叶ったりだ。

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本日の入釣場所の、正面図。
周辺図は文末に掲載。

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本日の入釣場所の、対面図。
帰路に撮った。
今回よりイラストを臨場感ある絵に替えてみた。

 
Yahoo!地図より。

◯本日のデータと予定。
・目標/三枚。
・竿 /朱門峰凌、15尺。
・浮子/忠相パイプトップ、13番。
・道糸/1号。
・鉤素/0.5号、300粍+360粍。
・棚 /天々。
・餌 /ペレ道+粒戦細粒+バラケマッハ+つなぎグルテン。
・納竿/十五時。

七時十分。
石田島、北東側立木。
曇り日の空とべた凪の湖面には、釣趣をそそられる。
そのうえ、景観もよいときているから、これだけで釣行の喜びの半分くらいは満たされたようなものだ。
いつも手こずる棚取りも、珍しく順調にこなすことが出来た。
目標は三枚とした。
昨日は盆が近いとはいえ平日。それゆえ、多くの釣り人で賑わったとは考え難い。そのなかでこのマイナーポイントを選んだ御仁は腕に覚えのある名人ではなかろうか。
その名人と肩を並べる…。
ちょっとおこがましいが、頑張ってみたいと思う。
さあ、釣りを始める。
今季十一回目の釣りだ。
朝のさわやかな空気を吸って、最初の餌を投げ入れた。
浮子は動かないが、ブルーギルが煩わしい。
溶解具合を試そうと餌を湖面に落としてみると、舟陰から素早く寄ってくる。そして餌が付着した指を入れると、図々しくも指を啄むヤツまでもが現れる。こうも活発な動きを見せられると、湖底に落とす餌の無事を考えずにはいられない。すると矢張りだ。浮子の立つ位置が左右にズレ始めた。恐らく沈下の最中に、弄ばれているのだろう。しかし、対処方法がわかないからどうにもならない。されるがままだ。
ここで周辺に変化がおきた。
変化といっても浮子ではない。
前島で鳶(トンビ)が舞いだした。
鳶は前島の象徴である一本木の上を何度か旋回し翼を休めた。
彼らは夫婦者であろうか…。
おそらく上の枝に留まったのが亭主で、下の枝が女房であろう。
まさに絵に描いたような、夫唱婦随だ。
私も家内と連れ添い、彼此、四十年に成る。
家内は自分勝手で利かん気の私にずっと寄り添ってきてくれた。しかし、これから先も傍にいてくれるのだろうか…。
また、そうしてくれたとしても私は彼女を守り通していくことが出来るのだろうか…。
竿をほったらかしてこの光景に見蕩れていたら、そんな思いに支配されてきた。

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鳶夫妻。
望遠レンズを持ち合わせていなかったので、
トリミングで拡大した。

十時。
間もなく、餌を打ち出して三時間になる。
その間、浮子は一度だって動いていない。
前回の上郷の寮下は釣れ過ぎて困ったが、今回はその真逆の展開
となっている。しかし、いくら釣れなくとも私くらいこのような展開に年季が入ってくると、何とも思わなくなる。
それが当たり前と思えてくるから不思議なものだ。
昼までは、未だ二時間ある。それまでに浮子が動き出せばよい。
そのように気楽に考えていた時だった。
魚信が突然やってきて、トップの先端が湖面から消え失せた。
いつものパターンだ。
驚いて反応すると、腕に衝撃が走った。
私の仕掛けた罠に魚が食いついたのだ。あとは例によって、腕の痛みに堪えながらの取り込みと成った。あまり大きな魚ではなかったが、地魚のようだ。左手を添えながら寄せてくると玉網にすっぽりと収まった。
こちらの過疎でも魚と出会うことが出来た。
この安堵感というか喜びは何ものにも勝るものだ。
朝、この景観に望んだ時。釣行の喜びの半分は云々かんぬんとしたが、それに加えて釣果を示すカウンターの数字が「1」を刻むと、満足度はほぼ百に達した。
しかし、今回設定した目標値は三枚。
それを考えると、もう少し頑張ろうと思う。
そして、九十分が過ぎた。
正午を報せるチェイムが湖に鳴り響く。
それに釣られるように弁当を開き、ゆで卵の殻を剥いていると久方ぶりに浮子が動いた。しかし、取り込み中で手が離せない。
次の動きに期待して餌を入れると、難なく釣れた。
今度は前兆の確認が出来ていたから、すーぅと、竿を前に出すだけで捕獲できた。
これで、地魚を二枚釣上げた。

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本日の第一号。
型は壱尺と少し、戸逆橋を背景に撮った。

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本日の第二号。
型は推定壱尺弐寸、こちらの背景は前島。

十三時。
本日ただ今の釣果、二枚。
目標まで、あと一枚に迫ることが出来た。
残り時間は二時間ある。
これは達成の可能性が大きいと、ほくそ笑んでいたら、意外にも様相が一変して沢山釣れ始めた。
浮子のボディとトップの接合部の辺りで変化が起きる。
大きく持ち上げる、食い上げ。
一気に湖面に没する、消し込み。
どれもが大きくて派手な動きで釣れてくる。
しかし、魚は尺にはほど遠い、八寸クラスだ。
もしかしたら、この過疎に放流べらの群れが集ってきたのではないか。
過去にこの場所で放流べらが釣れた記録はない。
今朝見てきた若奥さんがまとめる、釣果表の何処にもその記載はなかった。
それを思い出すと半信半疑であったが、浮子の廻りでもじりが始まった。
そして今、もじった奴の横顔を見た。
その顔は間違えなく放流べらであった。
放流べらか…。
文句を言うつもりはないが、この魚を六枚釣上げた。

十四時。
私がこしらえる餌は、そんなにも美味なのであろうか。
その餌を求めて可成りの数の、放流べらが寄ってきた。
しかし、厄介なことにこの新参の魚たちは上層にいる。
困ったものだ。
私は上層の魚を湖底に導く術を知らない。
どうすれば十五尺の湖底に引き込めるのか…?
そんなことに悩むより、浮子を上げればよいではないか、とも言われそうだが、それは出来ない。今回は底釣りの日だからだ。
今回の目標は三枚だったが、それは地魚を意味していた。
現在の釣果は地魚が二枚と、放流べらが六枚の、合計八枚だ。
放流べら六枚が地魚一枚に匹敵するかどうかはなんとも言えないが、出来ることなら、もう一枚地魚を釣上げたい。放流べらであれば釣果を二桁に乗せたい。
そう思って頑張ってみたが、私の技術ではどうにもならないことだった。放流べらの動きに翻弄されるばかりだった。

十五時。
納竿時間となった。
追釣出来たのは、放流べらが一枚きりで、目標に届くことは叶わなかった。しかし、今回も楽しい釣りが出来た。
そして、この美しい景観はなんだ ! 。
蝉時雨が振りそそぐ、晩夏の光景に魅せられた。
こんな素敵な思いが出来るのも、相沢さんのお陰だ。
相沢さんは私に技術がないのを知っている。それに過疎が好きな偏屈さも知ってくれている。それ故、この場所を案内してくれたに相違ない。
私は釣り会に所属していない。
それだけに何処へ行くにも、いつも、ひとりだ。
こちらにも年に数回しか訪れないから、一見さんに毛が生えたようなものだ。
そんな私にこのようなサービスをしてくれる。
これには御礼を言わずにはいられない。
そんな相沢さんへの好意に感謝して、一件落着。
縄を解いて、桟橋へ戻る。

お仕舞い。

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本日の入釣場所の、周辺図。
釣り座から撮った


○本日の釣況。
・07:10~15:00、15尺底/九枚、両団子。

○2014年データ。
・釣行回数/十一回
・累計釣果/125枚(真鮒1匹含む)。

2014年08月31日(日) 。
吉右衛門。



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