吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第七回釣行
5月26日(火)

三島湖。
桟橋、舟小屋脇。
ともゑ釣り舟店。
晴天、中風。
気温/25度、水温/20度、水色/小濁り、水位/減水4.05m。 

「苦節四時間で釣上げた老兵に、数年後のおのれをみた」の巻。

石田島の釣りから帰った翌日。
四月に受診した人間ドッグの結果が送られてきた。
おもむろに封を開けてみると消化器内科と呼吸器内科の方から、要来院、とあった。さらに読んでみると、そこで専門医からの説明を受けた後、再検査の運びとなるらしい。
困ったことになった。
業績不振を挽回すべく営業に勤しんでいる中、とんだことで水を差さされてしまった。さらに、この夏予定をしている、富士山の釣りへも行けなくなる。
わたしは既に持病として循環器、それに最近では血糖の値も要経過観察となっている。これに今回の結果が凶となって加われば、釣行記が「闘病記」にもなりかねない事態となる。営業はもとより、とても釣り竿担いで富士山へ行くような話ではないだろう。
しかし、よく考えてみれば今まで、散々美味いものを食べては、アハハっ、と笑い過ごしてきた人生だから、当たり前といえば当たり前の結果ともいえる。
早い話。またもや身体が悲鳴をあげたのだ。
またもやと書いたのは、この釣行記でも過去に幾度か記述したことがあるように、わたしには十六年前と四年前に大病を患い、危機一髪で生還した経験がある。それゆえ、その後の人生は、グリコのオマケのようなものだと思っている。
その間絶対にあり得ないと思っていた、日本ハムファイターズの優勝を四度もみれたし、念願だったへら鮒釣りも再開することができた。釣りに出掛けた回数もこの記事を書くにあたって調べてみたら、前回の石田島がちょうど百五十回目であった。
百五十回も釣り竿をかついでほっつき歩けば、今更、富士山もないだろう。
仕事の方は跡継ぎの息子が頑張るから、あまり気にはならない。
問題は家族だ。
今年の春。可愛がっていた愛犬の一頭が多臓器癌で旅立った。
十一才の若さだった。残す二頭もこの夏十七才と十四才になる。いわば老犬の部類だ。
そうなると残すは女房だけとなる。
女房は健康でピンピンしている。その彼女にメシを食わすことがわたしの最後の使命として残る。彼女は所帯を持ってこのかた仕事に出たことがない。いうならば、わたしが狩りに出てイノシシやら何やらを捕らえて食わせてきた。それだけに、わたしが、もうこの辺でよいです。と、言って人生を放棄した瞬間、路頭に迷わすことになる。こんなことになるのなら、四十年前に口説くのではなかったとの後悔もあるが、今となってはそうならないように、頑張るしかない。
甚だ、気が滅入る話であるが、おのれの健康がどうであれ、わたしはまだ当分、狩りを続けなければならぬだろう。

八時。
三島湖、ともゑ釣り舟店桟橋。
三島湖へやってきた。今季初のことだ。
遅ればせながら先ほど乗船券と一緒に、放流バッチの購入も済ませてきた。これを買うとへら師としての市民権を得たような気分になれる。
今回三島湖へきたのには、明確な目的がある。
最果てのダムサイドの手前にある、ポンプロープの大オダの脇に竿を出して、チョーチン釣りするのだ。
わたしの目的といってもその程度のものだが、公式出舟時間から三時間遅れて出航。昨秋以来の三島湖を愉しみながら櫓を漕ぐ。豚小屋から三ツ沢を過ぎ、鳥小屋を見渡す辺りまでくると、数名の釣り客が竿を振っているのが見える。この方々に迷惑を掛けまいと対岸に張ってある一本松ロープに沿って進んで行くと、目的地が見えてきた。

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快晴の三島湖の下流域。
三ツ沢から、鳥小屋を望む。

接近してみると、意外なことに気がついた。
舟を留めるロープの位置が以前とは違って見える。
わたしの位置からだと正確な確認はできないが、ロープが流芯の方へ移動し、大オダの辺りにまできているようだ。
これだと大オダの脇に餌を打つことができない。
しかし、それは何かの事情だから仕方がないとして、それ以上に憂鬱な障害がある。
それはブラックバス師の多さだ。
自前の舟を操船している連中は、それなりに経験を積んでマナーもわきまえているからよい。しかし、問題は浮き輪のようなものに入って疑似餌を投げている連中だ。彼らは経験が浅い分だけ、マナーに疎い。それだけにわたしの浮子の傍へ漂流してこようものなら、ひと悶着は避けられない。
それを考えると関わりを持たない方が互いの為だ。
最下流まで遠征してきて、ご苦労なことだが、これは引き返した方が無難だろう。

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本日の入釣場所の、正面図。

 
マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。

☻本日の予定。
・目標/五枚。
・釣り方/チョーチン、両団子。
・竿  /朱門峰凌、十一尺。
・浮子 /忠相、パイプムクトップ九番。
・道糸 /1号。
・鉤素 /0.4号、450粍+600粍。
・針  /サソリ7号+アスカ7号。
・持参餌/凄麩、天々、グルバラ、バラケマッハ。
・納竿 /十五時。

九時半。
三島湖、ともゑ釣り舟店桟橋。
桟橋へ戻るや車からとっておきの、肘掛け付きパイプ椅子を持ってきて、陣を構えた。
豚小屋の一番升で竿を出すつもりで引き返してきたが、風を懸念した結果、陸に上がることにした。しかし、それは表向きの理由で正直なところを告白すると、大オダ脇への入釣を諦めた時点で意欲が削がれてしまい、こうなってしまった。
しかし、そうは言ったものの、桟橋の釣りは嫌いではない。
むしろ好きな方だ。
わたしが、ともゑ釣り舟店さんへの通い始めた頃は、桟橋を中心に竿を出していたといっても過言ではない。桟橋が今の形状になってからは、ご無沙汰気味だが、けっして避けていたからではない。
そんな桟橋で、今季七度目の釣りが始まった。
改めて周囲を見渡すと、ロケーションはC級だが悪くないし、ウシガエルが長閑な声を聞かせてくれている。それに何より、船小屋と桟橋のお陰で、風はそよとも吹かないし、湖面はべた凪だ。
今回は大オダの脇での「二桁釣り」を目的としてきたが、こちらでも何とかなるかもしれない。釣りたければ、頑張ることだ。
そんなこんなで自分を鼓舞しながら餌を打っていると、三十分も経った頃だろうか。偏向グラス越しに、魚が浮子の廻りをうろつき始めたのが見えてきた。しかし、浮子は動かない。
魚は上にいるのではないか…。
このところ上層の魚を相手にしていたせいか、浮子下を短縮することに、躊躇いがなくなった自分がいる。
けれどもここは、我慢我慢。
今日はチョーチン釣りをしに三島湖へやってきたのだ。
そう自分に言い聞かせて、ジッと我慢をしていると、バシャ!。
船小屋の出っ張りあたりで、もじりがあった。
オっ!と、魚は近い。
浮子に向かって、動けッ動けッ!、と、まるで呪文を唱えるように祈っていると、ツンっ!。
待ってましたッ!。待望の、カラツンがあった。
よしッ、釣るぞッ!。
身を乗り出し、気分は最高潮。
ひとり桟橋で盛り上がっていたら、白けるようなアクシデント。自慢の肘掛け付きパイプ椅子が倒壊して尻餅をついた。
この椅子にわたしの太った肉体を支えさすのは、いささか無理があったようだ。
こんな時に何たることだ…。
おのれの不幸を嘆きながらも、予備のパイプ椅子を取りに戻らねばならない。
しかし、そんなことは釣ってからでもよいではないか。
簀の子の上に座布団でも敷いて、胡座を掻いて続ければよいではないか。もうひとりの自分が激しく続行を主張したが、どうにもならない。異常なほど段取りと格好に拘るわたしの性癖が邪魔をして、釣りは中断。
予備のパイプ椅子を取りに、車へ戻ることになった。

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本日の入釣場所の、対岸から見た図。
陸に上がる前に撮った。

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本日の入釣場所の、鳥瞰図。
赤○印。
ともゑ釣り舟店のベランダから撮った。

十時半。
息も絶え絶え心臓破りの階段から戻り、予備のパイプ椅子をセットしてみたが、案の定、魚はいなくなっていた。
それは想定済みのことだが、直ぐに戻るだろう、との読みは甘かった。最高潮の盛り上がりは、双六でいう、ふりだしに戻った。
この時とばかり浮子下を一本半に縮めてみたが、ぼんやりとは動くが、事態が好転したとは言い難い。こんなことなら、四の五の言わずに、あの時釣っておけばよかった。
後悔しても詮ないことだが、わたしは死ぬまで、おのれの鬱陶しい性癖と付き合わねばならぬだろう。

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龜。
大オダから引き返してきた時、三ツ沢の辺りで撮った。
息をひそめて接近し、望遠レンズでとらえた。

十三時。
本日ただ今の釣果、零。
あれから、二時間半。
竿を持つ手に緊張が戻った。
時たま、カラツンが出るようになってきた。
下手な鉄砲でも何でもいいから、早く、玉網を濡らしたい。
そんな気持ちで浮子を眺めていたら、ポシャンっ!。
どこからともなく、浮子の真横に、疑似餌が飛んできた。
「オイっ!」。
これに、激しく反応してしまった、わたし。
疑似餌を投げ入れたブラックバス師は舟小屋が死角になって気づかなかったらしい。平身低頭で謝ってくれたというのに、追い打ちをかけるような所作で、不快な気分を味あわせてしまった。
還暦を過ぎたいうのに、このザマ。
情けない、の一語に尽きる。
わたしは釣りの修行も足りないが、人間修行も足りてない。
このホームページのタイトル「日暮れて途遠し」が頭をよぎる。
意気消沈。
ションボリとしていたら、浮子が力なく沈んでいくのが見えた。
これは、どうみてもスレだろう…。
そうは思っても浮子が上がってこない。仕方がないので竿をあげてみると、しっかりと針を銜えた魚が釣れた。
そして釣りあげた魚をみて、おどろいた。
苦節四時間で釣った魚は、老兵だった。
この魚はいつの頃、三島湖に連れてこられたのだろう…。
ここにきてからというもの。数々の艱難辛苦の道を歩んだのではないか。
上の唇は無くなっているし、背鰭も尾鰭もボロボロだ。
鱗も所々が剥げ落ちている。
釣り客に虐められこんな姿になっても、しっかりと餌を追う。
彼も生きる為に必死なのだ。
考えてみれば、わたしの数年後の姿だってこんなものだろう。
ご苦労さま…。
永年の苦役をねぎらい、そっと池に戻すと、忸怩たる思いで胸が締め付けられた。

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本日の第一号。
ご覧の通りの老兵を釣った。

十四時。
チョーチン釣りに戻して、続行。
浮子がどっぷりとなじんで、いい感じ。
しかし頭の中は、先ほどのことが焼き付いて離れない。
複雑な心境のなか二枚を追釣したが、この辺でやめたくなった。
折角の展開になってきたが、妙な感情に支配されて、一件落着。
竿を投げ出すようにして、納竿と相成る。

お仕舞い。

☻本日の釣況。
・09:30~10:15、11尺チョーチン/零枚、
・10:30~13:45、11尺1本半/1枚、
・14:00~14:30、11尺チョーチン/2枚。

☻2015年データ。
・釣行回数/7回
・累計釣果/35枚。

2015年06月06日(土) 。
吉右衛門。



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