吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第八回釣行
4月18日(月)。

西湖、根場。
ユースホステル下、一番ブイ。
西湖レストハウス。
天候/晴天のち曇天一時雨、凪一時風。
水色/澄み、水位/不明。 

「根場の春は、とても贅沢な時間と空間だった」の巻。

だんだんと夜が明けてくると南の空から、てっぺんに白いものが残る富士の山が浮かびあがってきた。
夜明けの富士は青く染まっている。
今年も西湖の根場へやってきた。
これまで春先の西湖へゆくなど思いも寄らなかっただけに、よほど西湖に魅了されたらしい。しかし、へら鮒釣りが解禁されるのを待ってきたものの、フライング感は否めない。その証拠に浜で釣り舟屋の開店を待っているのは、わたしひとり。
はてさて、季節外れの西湖で、なにが起きるのか。
期待と不安が入り混じった、釣行となった。

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夜明けの富士山。

西湖根場の浜。
出舟。
それでも時間がくれば、それなりに釣り人が集ってくるものと思っていた。しかし、やってきたのはブラックバス釣りの青年がひとりだけ。
時期を誤ったのではないか…。
一抹の不安が脳裏をかすめたが、素晴らしい環境がそれを呑み込でくれる。
さて、時間がきた。
今年もお世話になるのは、西湖レストハウスさん。
こちらのご主人に小舟を用意してもらって、舟を漕ぎだす。
目的地は、西湖の西の果てに位置する、(ユースホステル下)。この時期は、ここでしかへら鮒とは出会えないらしい。で、ご主人からは幾つかあるブイのうち、(一番ブイ)に舟を留めるように薦めてもらった。

ユースホステル下に着いた。
遠くの方で幾つか波紋が広がっているのがみえる。浜にはなかったもじりだ。あれは四番ブイの辺りであろうか。定石で選べばあちらに舟を留めるべきであろうが、わたしが訊いてきたのは、一番ブイ。どちらにするかは悩む所だが、今後のことを考えると釣り船屋の助言に従っておいた方が何かと都合がよさそうだ。
舟を留め終わり、準備に勤しんでいる時だった。
「おはようございますっ!」
背後から威勢のよい声がする。
その声につられて振り向くと、わたしの真後ろにある舗装されたスペースに釣り人が現れた。突然というか、この予想だにしないできごとに面食らいながらも軽い会釈を返すと、早くも釣り竿が出てきて魚釣りが始まった。このあまりの手際のよさには驚くしかない。
この人は、いったい、なにを釣ろうとしているのだろうか…。
浮子はへら浮子だが竿掛けがない。長靴を履いてクーラーボックスを脇に置いている。このような風体からしていかにも地元の釣り人と思われるが、この時はさっぱりわからなかった。
そして数分後に、この人物の獲物を思い知ることになる。

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本日の入釣場所の、正面図。
先鋒、十八尺。


 
マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。

☻本日の予定。
・目 標/型をみること。
・釣り方/チョーチン(バラケ+グルテン)。
・釣り竿/普天元独歩、十八尺。
・浮 子/忠相パイプムクトップ、十五番。
・釣り糸/1号。
・鉤 素/0.4号、300粍+600粍。
・釣り針/アスカ針 7号+4号。
・持参餌/CD、Gt、GB、BM、α21。
・納 竿/十五時。

六時。
ユースホステル下、一番ブイ。
天気晴朗、湖面はべた凪。
右手に富士が見える。
心地よい冷気に包まれながら餌を入れ始めると、それを待ち侘びていたかのようにわたしの正面でも、もじりが出てきた。あちらでポコン、こちらでポコンとへら鮒が顔を見せ始めた。そんな光景に心を躍らせると、四投目で、浮子が怪しく動いた。
はやくも、釣れるのではないか…。
この意外ともいえる展開に、高鳴る期待。
開始早々、緊張の場面がやってきた。
餌を小さくかつ丁寧に丸めて湖面に入れてみる。
釣り竿を握る手に力がはいる。
息をひそめて浮子を見つめても、立ち上がったまま、なかなか沈降しようとしない。しかし、動き出して間もなくだった。
一気に加速して、消し込んだ。
しめたッ!
とばかりに竿を同調させたが、緊張は直ぐに落胆へと変わる。
ガッカリするような事態に遭遇した。
釣り針に掛かった魚は水面に貌を出しては、すぐに外れた。
浮子を動かしていたのはへら鮒ではなかった。銀色をした細い体型の魚だった。この類の魚でとっさに思い浮かぶのは、ハヤとヤマベだが、彼らとも違う。さすれば、今の魚は何だったのか…。小さな疑問が湧いた。
そして直ぐに、その魚の正体を知ることになる。
バシャバシャ!
背後に起こる水音に振り向くと、今みた魚を地元のオジさんが釣り上げている。そして釣り針から外すと貴重品でも扱うかのように、素早くクーラーボックスに仕舞いこんだ。
「その魚は何ですか?」
「これは、ヒメマスです」
「えっ!、ヒメマス?」
魚の正体はヒメマスだった。
これは予想だにしない魚種だった。
実はわたし。
ヒメマスなる魚についての知識は何も持ち合わせていない。八寸くらいの虹色の魚体をした魚かと勝手に思い描いていた。
しかし魚種を知ったところで、どうなるものでもない。
ヒメマスの猛攻を躱す対策を、急ぎ、講じる必要に迫られた。
長閑だった舟上が、俄に慌ただしくなった。
とりあえず、浮子の番手を二つ上げてみた。餌もバラけ性のよいものを配合から除外した。これらの対応で懐柔できればよいが、それができないとなると迷路に嵌る。
釣技の巧拙はこのような時に明暗を分けるのだと思う。
上級者は幾多の経験からヒメマスを躱す術を知っている。それだけにいかようにも対応するだろう。しかし下級者はそうはいかない。この事態に頭を悩ませた所でどうしようもないことはわかっている。しかし、それでもやらねばならぬのだから仕方がない。
十五分間くらいのロスタイムがあったろうか。
にわか仕込みの対応策で再開すると、浮子はすんなりと沈降するようになった。そして数投目に、ずどんっ!。
強烈な消し込みがあって、浮子が湖面から消え失せた。
やったっ!。
今度はヒメマスではなかった。へら鮒であった。
バンザーッイ!。心の中で快哉を叫ぶわたし。
そして、これが引き金になって夢のような事態に遭遇できた。
釣りも釣ったり、女将さんが弁当の出前にきてくれた十時半までに十九枚もの魚が釣れて、大漁謡節に酔いしれた。

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本日の第一号。
喉ッ首を背景に撮った。

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わたしを終日悩ませた、ヒメマス。

十一時。
紺碧な空と鏡のような湖面。
この贅沢な空間と時間はなんだ!。
竿を出しているのはわたしのほかには、オカッパリが数名しかいない。まるで根場を独り占めしたかのようだ。
わたしは十九歳の時、埼玉県の片隅にあった町工場の工員として
社会人生活をスタートさせた。以来、メシを食うため幾度か職を変え、地べたを這いずりまわって辛酸をなめてきた。これはそのことへの、ねぎらいの時間か。はたまた、忙しく働く社員を尻目にへら鮒釣りに興じている、罪な時間か。よくはわからないが、いずれにせよ、今後にそれほど時間があるわけではなし、好きにさせてもらう。
弁当を食べ自然を満喫してひと休みしていると、さっぱり釣れなくなった。散発でヒメマスらしき魚信があるだけとなった。

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根場にひとり。贅沢な時間と空間。

正午。
本日ただ今の釣果、十九枚。
弁当を食べて一服している間に魚がいなくなった。かれこれ九十分も釣れていない。大漁に浮かれている時は四十枚もの釣果を夢見たが、いまはすっかりと、わたしの釣りに戻った。
とりあえず二十枚目を釣上げ、三十枚を目指そうかとしている時だった。突然、浮子が沖へ攫われるかのように沈んで、その二十枚目がやってきた。
それにしても重い。
今日の魚で一番重い。その重量級の魚が沖に向かって走るのを堪えながら引き寄せると、澄んだ水にわたしの釣り針を銜えた魚が姿を現した。これはっ !?。
この魚は、へら鮒ではない。
凶暴で悪党面をした魚がわたしの釣り針に鼻面を抑えられて逃げ惑っている。こいつは、ブラックバスだっ!。
一瞬、鉤素を切ることも考えたが、そうするとこの魚の口に刺さった釣り針は誰が外すのだ。
針を外して釣った魚を元に戻すのは、釣り人の義務だろう…。
そう考えると、舟に引き揚げざるを得ない。
歯がありそうだから、指を喰い千切られたら嫌だな。
ちょっと怖かったが、引き揚げるとさすがに観念したのか、されるがままになったいる。まさに、まな板のブラックバスだ。
記念写真を撮り、計測を済ませると、壱尺七寸もあった。
さあ、どうしてくれよう。
おそらくヒメマスを採餌にきて、わたしの麩餌を誤飲したと思われるが、よくみると抱卵をしているのに気がついた。それになんとなく悲しそうな目をしている。
こいつを放せばこいつの子らに、へら鮒が虐められる。
せめて拳骨の一発でもくれてやりたいが、こいつも好きでこの国にやってきて棲みついたわけではない。すべては人間の身勝手に振り回されてのことだ。それにわたしも二人の子どもと三頭の犬の父親でもある。それを思うと、なにもせず湖面に戻すしかなかった。

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格闘の末に釣上げた、ブラックバス。

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計測すると、50cm以上もあった。

十四時半。
ブラックバスの騒動で水中が荒れたのがよかったのか、へら鮒が釣れだして、カウンターの数字が(29)まで進んできた。
わたしにとって地魚が三十枚となると、豊漁の部類だ。
その豊漁まであと一枚に迫ったが、大願成就はそう容易くないと睨んでいる。またもヒメマスの猛攻が始まり停滞してきたのだ。そして今では浮子のなじみ幅を確保することすら難しくなってきた。おそらく浮子の下では幾層にも折り重なってヒメマスが密集していることだろう。これを突破するのは至難だ。それに朝のヒメマス対策も、あの時は功を奏したと悦に入っていたが、実は大して効果がなったとの認識に改めざるを得ない。
いっそのこと、十四尺でヒメマスの本陣を突いてやろうか。
そこにへら鮒を引き寄せれば、ヒメマスを蹴散らすことができるのではなかろうか。
先ほどからそんなことまで考えているが、一歩間違えば、火に油を注ぐようなことにもなりかねない。そこで竿を振り切り餌を遠くに落としたり、竿掛けの下辺りに落としてヒメマスを回避しようと企んだが、そんな姑息なことではどうなるものでもない。
そんな時だった。朝のあの場所に家族連れが現れた。
ご両親と子どもが二人、それにお爺ちゃんもいる。彼らがヒメマス釣りを始めると、わいわいと辺りが賑々しくなってきた。
こうなると気が散りだして、ますます釣果が遠くなる。
さて、わたしのこの後の段取りであるが、今夜は精進湖の釣宿の厄介になる。その宿の女将らしき人物から食事をするなら十七時半、素泊まりなら十八時までにくるように指定を受けた。無難な線で素泊まりコースを選択したが、その分、何処かで腹拵えをしなければならない。それを考えると案外時間がない。早く一枚釣って、やめたくなった。
そして、あと一枚、あと一枚、と呪文でも唱えるかのように呟いていると、お父さんが子どもらに話してるのが聴こえてきた。
「こんなに釣れるのは、あのオジさんがへら鮒釣りで寄せ餌を撒いているからなんだよ。だからこんなに魚が集っているんだ」
「へぇー。オジさんはへら鮒って魚を釣ってるんだ。でもさっきから、あのオジさん、ヒメマスしか釣らないよっ」
「しーっ!」、慌てて子どもの口を塞ぐお父さん。
時計をみると、十五時半にもなろうかとしている。
前半戦の好調はどこへやら、三十枚の壁は厚かった。
しかし、充分すぎるほどに楽しめた。
それに子どもにも、ヘボがバレたことだし、もうやめよう。
三十枚は次回のお楽しみとして、一件落着。
精進湖へと急ぐ。
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本日の入釣場所を対岸から撮った、近景図。
帰路に対岸から撮った。
写り込んでいた家族は肖像権に触れるので加工した。

戦いすんで日が昏れて。
最後は失速したが、環境、釣果とも大満足の釣りであった。
いまこうして釣行記を書いていても、いろいろな場面が蘇ってくる。わたしが経験した釣りのなかでも、おそらく上位何番目かの
釣りになりそうだ。
この時期に西湖へゆくのは、おっかなびっくりであったが、釣行してよかった。来月もゆく。

お仕舞い。

☻本日の釣果。
・へら鮒、29枚、
・ブラックバス、1本、
・ヒメマス、多数。

☻2016年データ。
・釣行回数/8回
・累計釣果/75枚。

※お断り。
この釣行記はiPad等の端末に合わせて編集しています。


2016年04月24日(日) 。
吉右衛門。



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