戸面原ダム。
キャンプ場奥・桟橋。
戸面原ボートセンター。
天候/曇天、無風。
水色/小濁り、水位/0.55m。
「魚群だっ! 魚群であった」の巻。
またも遅刻をした。
舟は六十分前に出た筈だから、すでに着舟も終わり、へら鮒釣りが始まった時間だ。
この時期の戸面原ダムは遅刻をすると、大きなハンディキャップを背負うことになる。へら鮒が棲息している場所が限られているからだ。それゆえ、これからの出舟となると、めぼしいポイントは売り切れていて、売れ残りからの選択となる。
池主の相沢さんに入釣場所を相談してみた。
いろいろと候補をあげてもらった。
そのなかに(寮下)があった。(キャンプ場)も残っていた。
寮下に入れば、まず間違えはないだろう。
うまくすれば、わたしでも二十枚くらいの釣果は見込める筈だ。
キャンプ場も捨てがたい。
旬を過ぎたとはいえ、先日まで釣果表を賑わせていた場所だし、わたしにとっての未踏の場所でもある。
寮下とキャンプ場。
どちらが釣れるかとなると軍配は寮下に上がるが、そこはわたしの釣り。キャンプ場を目指して離岸した。
離岸する前のこと。
小舟に道具を積載するおり、例年ならこれからが旬となる桟橋裏(正式名称は駐車場下)附近をパトロールしてきた。
どなたかが努力をされたのだろう。
ゴミの侵入を完封すべく竹枠が見事に組んであった。この場所に精通した釣り人の芸当と思われるが、わたしにはとてもできない職人技だ。
定刻を八十分おくれて、出航。
今朝は目的地へ向かう前に寄らねばならぬ場所がある。
それは光生園下だ。こちらで戸面原ダムの大御所、新宿の山田さん(以降の表記、新宿の名人)が竿を振っている。
わたしは過日、この名人に大変お世話になった。
予報が大風の前日、名人に宇藤木川で竿を出せる場所があるかを尋ねた。すると懇切丁寧に教えてくださり、秘中のポイントまで伝授してくれた。あいにく、雨が降って中止にしたが、その名人にどうしても挨拶をしておきたい。
そんなことで、石田島まできた。
ここまでくると光生園下が一望できる。しかし釣り人が複数いて名人を選別することができない。致し方なく電話を鳴らすと、大きく手を振ってくださった。
キャンプ場は、わたしにとって初めての場所。
ボートセンターへ行く途中の戸逆橋附近に施設へ渡る架け橋があり、近くにはダムサイドもある。戸面原ダムの最下流とも云える場所だ。
さて、キャンプ場。
そのキャンプ場に到着してみると、今日の釣りの明暗をわける難事に遭遇した。
舟を固定する術がわからない。
相沢さんから説明をうけて、理解してきたつもりだった。
歩道橋のすぐ下で、橋と平行に竿を出す。
そのように訊いた筈だが、ロープを結ぶ手掛かり、足掛かりになるようなものがない。
場所を間違えているのか…。
相沢さんに電話で尋ねればすむ話だが、それだけはしたくない。
そんなことをすれば相沢さんのこと、すぐに駆けつけてくれるにちがいない。わたしは普段から必要以上に手を煩わせているだけに、これ以上世話を掛けると、厄介者リストに入れられる。
それが嫌ならここを諦め、次の候補地である寮下へ転進すればよかったのだが、ここに留まることにした。
後にして思えば、その決断が、今日の運命を別けた。
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マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。
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☻本日の予定。
・目 標/五枚。
・釣り方/チョーチン(バラケ+グルテン)。
・釣り竿/朱門峰嵐馬、十八尺。
・浮 子/亀二郎、四番。
・釣り糸/1号。
・鉤 素/0.4号、100粍+600粍。
・釣り針/アスカ針 7号+4号。
・持参餌/CD、Gt、BM、α21。
・納 竿/十五時。
八時。
キャンプ場。
あれは二月のことだった。
大風の日。あんこうさんに会うべく、ここにきたことがあった。
が、あんこうさんとの時間を優先して竿を出さずに引き揚げた。
そこで今回は、あの時のあの場所で、続きをやろうかと思う。
場所は釣果表に表記される処の、(キャンプ場奥)。
文字通り奥へと移動し、ここで竿を出すことに決めた。
しかしこの場所は、もはや旬をすぎている。魚がもぬけの殻になっていないとも限らない。それだけに不安もあるが、可能性がないともいい切れない。大半の魚は次なる目的地へと巣立ったかもしれないが、群れから離脱したり、取り残された連中がたむろしているかもしれない。そいつらを狙ってやろうと考えた。
竿は十八尺を出した。
そして、へんぴな場所に舟を付けたハンデを補うべく、最初から積極的に餌を打ち出した。
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本日の入釣場所を対岸から撮った図。
帰船後に偶然居合わせた、羽田の名人曰く、
さらに奥の方がよかったらしい。 |
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十時。
竿を振り始めて二時間。
張り切って餌を打ったものの、なんの反応もない。
浮子が素っ気なく沈降していくのを眺めるだけだった。
きょうもオデコか…。
そう胸中に、つぶやいた。
失望感に落胆していると、新宿の名人が電話をくれた。そして幾つかの助言をくださった。
寮下が空いていて、あそこに移動すれば必ず釣れること。
昨夜の雨で濁りが入った影響からか、あまりよくないこと。
今日は十五尺程度の浅いタナが釣れていること。等々。
さて、どうするか。
座して昼まで続けてダメなら、そそくさと帰るか。
移動して、もうひと戦さしてみるか。
さらに打開案として竿を替えるという手もあるが、それをやるなら名人の言っていた、十五尺ということになる。あまり気乗りはしないが、それからやってみることにした。とはいえ、竿を替えるのが面倒でもある。そこで浮子下だけを三尺縮めてみた。
もしや、との期待もしたが何の進展もない。
このまま続けてもどうにもならないだろう。
すっかり、あきらめがついた。
時計をみると、十一時前。
もうひと戦さしてみるか…。
移動を決めたはよいが、何処へゆくか。
なぜか、寮下へはゆく気になれない。
癪な気がするのと、いまさらの感が強い。それならと思いついたのが、桟橋裏。
あの奇麗に整備された竹枠の中で竿を出そうと考えた。
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本日の入釣場所の側面図。
帰路に戸逆橋の上から撮った。 |
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十一時半。
桟橋付近。
それは桟橋を迂回して、裏側へ廻り込もうとした時だった。
湖面を魚が跳ねるような、ざわついた音が耳にはいってきた。
わたしがいつも桟橋で竿を出す辺りからだ。
なんであろうか…。
抜き足、差し足、忍び足…。
音を立てずに舟で近づいてみると、そこに見たのは、
魚群だっ!。魚群であった。
天は我を見捨てず。思わぬ所で、魚群と遭遇できた。
多くのへら鮒が背鰭を湖面に出しながら蠢いている。
うっかり物音を立てても逃げようともしない。係留してある舟陰と漂流してきたゴミの辺りで、魚の群れが上になったり下になったりしている。
これは春の営みであるのか…?。
もしや大変な幸運と巡り会ったのかもしれない。
こうしてはいられないっ!。
急ぎ桟橋の突端に道具を降ろし釣り台を取りに戻る、わたしだった。
正午。
桟橋。
胸の鼓動が治まらない。
これは慌ただしく準備に励んだことばかりではないようだ。
何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとするが、どうにも興奮が覚めやらない。
心臓に病を抱えるわたし。
こんなことで死んだら、カッコ悪いな…。
そんなバカなことを考えたら、なんとなく落ち着いてきた。
竿は十四尺。
もっと短い竿を出したかったが、これが本日の最短竿だから仕様がない。
とにもかくにも、チョーチン釣りで再開。
第一投、第二投、そして三投目で、へら鮒が釣れた。
よくはわからないが、とにかく釣れた。
これは大漁謡節になるのではないか!。
大いなる夢を見て、視界もぐっと拓けてきた。
十四時半。
本日ただ今の釣果、一枚。
夢は散った。果敢なくも散った。
あれから糸づれらしきものがあるだけで、魚は釣れなかった。
浮子を目の前に落としても、舟溜まりの脇にも落としても、何もなかった。それにいつのまにやら、魚もいなくなった。
こんな筈ではなかっただけに、あの興奮は何だったのかとさえ思えてくる。
何度もため息をつくと、虚脱感が襲ってきた。
そしてすっかり落ち着きを取り戻すと、あの魚を釣果に入れてよいものかと考えだした。あの魚とは三投目で釣った魚だ。
あの魚を釣り上げるに、わたしは魚信の確認をしていない。
よそ見をしていたわけではない。しっかりと浮子が沈降する様を凝視していた。そこで沈降が終わり竿を上げたら、釣り針を銜えたへら鮒が釣れてきた。針は魚の分厚い唇を貫通していたから、すれがかりではない。
迷う所である。
これが朝のキャンプ場あれば、迷わずカウントする。なぜなら、無人の荒野を耕す処から始めたからだ。
しかし今回の釣果は、魚が蠢く所で竿を出したのだから、集魚努力をしていない。
さて、どうするか…。
わたしはこの魚をカウントしないと、オデコになる。
だからと言って、この魚を釣果にするのはあまりに寂しい。
釣技がない処へもってきて自尊心すらもなくしてしまうと、へら鮒釣りが趣味とはいえなくなる。
そう考えると、判定は無効とした方がよさそうだ。
残念ではあるが、そうしようと思う。
訂正、本日ただ今の釣果、○枚。
そんなことで本日の釣果を訂正すると、一件落着。
いろいろとあった一日を終える。
戦いすんで日が昏れて。
新宿の名人に改めて挨拶をすべく、桟橋の上がり際のベンチに腰を下ろして待つ。
隣に坐った奥さんはあがってくる釣り人のひとりひとりから、釣果表に載せるデータの収集に励んでいる。
饒舌に今日の釣果を話す人。
二本の指で、Vの字を作る人。
ぶっきらぼうにかぶりを振って立ち去る人。
今日の悲喜交交とでもいうべき時間だ。
それしてもわたしときたら今日のオデコで、今季の戸面原ダムでの戦績が、五度中、三度を記録してしまった。
なんでいつもこうなるのか。
そんなことに悩んでいると、メモを取り終えてた奥さんは慌ただしく、駅の方へと向かわれた。
みんな一生懸命生きているのだ。
それにひきかえわたしは、いったい何をしているのだろう。
お仕舞い。
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幻に終わった釣果は、抱卵魚だった。
背景は崩れの残る戸面山。 |
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☻本日の釣果。
・へら鮒、〇枚、
☻2016年データ。
・釣行回数/7回
・累計釣果/46枚。
※お断り。
この釣行記はAppleの端末、iPad等に合わせて編集しています。
2016年04月10日(日) 。
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