吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第九回釣行
4月19日(火)。

精進湖。
浮き島附近。
ニューあかいけ。
天候/晴天一時曇天、中風。
水色/澄み、水位/不明。 

「待望の精進湖で竿を出した」の巻。

朝もやの向こうに湖がみえる。
わたしが今いるのは、精進湖の南東に位置する赤池地区の湖畔。そこに立ちこれを眺めている。
昨日西湖の釣りを終えたわたしは、こちらへ移動してきた。
お世話になっているのは、ニューあかいけさん。
昨夕から、ずいぶんと親切にしてもらえている。
こちらに到着するなり若旦那らしき青年が、数日前に大釣りがあったポイントを事細かに教えてくれた。そしてさらに、お風呂が沸いていますよ、こう優しく声を掛けてくれたのは船宿の女将さんであろうか。こんな単独釣行の流れ者への気遣いには恐縮するしかない。そもそも、わたしのような初老の男がひとりで宿泊を願いでても、概ね、敬遠される。現に西湖周辺の民宿にはひと通り断られた。それはそうだろう。温情で泊めたはよいが、青木ヶ原にでも入られた日には堪ったものではない。それだけにこのように扱ってもらえるとは思ってもみなかった。
さて、精進湖のこと。
ここで竿を出すのは、おそらく三五年ぶり位のことかと思う。
振り返ってみると、つつじ野べら会の幹部が浅草へら鮒会の例会に参加するというので連れてきてもらったことがある。さらに、山中湖との泊まりできたことも二回あった。
その何れもが湖畔荘から出てコタツに舟を留めた。
釣果は浅草の時が二枚で、残る二回はオデコだった。
しかし、そんな古ぼけた記憶を呼び覚ましたところで、何の役にも立ちはしない。竿を出したといっても局地的でしかないから、肝心の本湖すら見たこともない。それだけに、右も左もわからぬ新参者のようなものだ。

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精進湖、赤池地区の朝。


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お世話になった、ニューあかいけさん。

六時。
精進湖、赤池地区。
ニューあかいけ桟橋。
出舟。
若旦那に何度もポイントを確認して舟をだす。
目的地が近いこともあって、ほんの僅か漕いだだけで現場に着いた。ここで気づかされたのは、ロープが一本しか張られていないこと。一本ロープへの着舟は初めて経験するが、天気予報が日中の強風を告げているだけに、大丈夫であろうか。
これは余談だが、わたしは或る方から西湖の前浜での舟留めの仕方を教えてもらったことがある。前浜と云えば強風の代名詞のような所だが、こちらもロープは一本しか張られていないらしい。しかし一本でも舳先からロープを二本出して三角形ができるように結べば充分に固定できるようだ。それを訊かされたわたしは感心するばかりで、自分にはとてもできない芸当だと思った。
が、折角の機会。それに挑んでみようかとも思ってみたが、やはり上手くできそうにないのでやめておいた。

その一本ロープに舟を留めていると、釣り人が現れた。
「おはようございますっ!」
いかにも上級者とお見受けしたこの方。挨拶を交わすと、わたしより浮き島寄りのブイの脇に舟を留め始めた。
準備に勤しんでいると迂闊にも、帽子がないのに気がついた。
おそらく車中に忘れてきたのだろう。
春先の日差しを考えると帽子などなくともよさそうなものだが、どうにも気になって仕方がない。そう帽子を被らないと、へら鮒釣りをしている気分になれないのだ。
面倒くさいなあ…。
おのれの鬱陶しい性格に閉口しながらもロープを離れたが、世の中のどこに幸運が転がっているかわからない。この面倒な性格が吉を呼ぶことになった。

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本日の入釣場所の、正面図。
先鋒、十二尺。


 
マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。

☻本日の予定。
・目 標/二十枚。
・釣り方/チョーチン(散け+ グルテン)。
・釣り竿/普天元独歩、十二尺。
・浮 子/忠相パイプムクトップ、十一号。
・釣り糸/1号。
・鉤 素/0.4号、200粍+600粍。
・釣り針/アスカ針 7号+5号。
・持参餌/CD、Gt、GB、BM、αG。
・納 竿/十五時半。

六時半。
精進湖、浮き島付近。
帽子を被り戻ってくると上級者とおぼしき方が、こちらの揺れ留めロープの附近においで、と親切に呼んでくれている。それは昼間に吹くであろう、強風を予測してのことだった。
しかし、躊躇うものがある。
わたしのは釣技がないだけに並ばせてもらっても高いレベルの、釣り談義ができない。とはいえ、風に吹かれて舟が右往左往するのに堪えられるかといえば、それも困る。それではどちらのダメージが大きいかと問えば、どう考えても舟が揺れる方だから恐縮しながらも、ご厚意に甘えさせてもらうことにした。
ぺこぺこと頭をさげ、いろいろと窺うと、こちらの常連さんであって、今日は束釣りを目指しているとのことだった。
そしてわたしには、底釣りを薦めてくれた。
しかしわたしは恥ずかしながらも、底釣りができない。
それをやんわりと云うと、底釣りの方が宙釣りより簡単、と、おっしゃる。そんな会話があった後、いずれからお越しかを尋ねると、八王子とのことだった。
帽子を忘れたことが、吉を呼んだと云ったのはこのことだ。
今日はこの、八王子の名人、と並ばせてもらうことになった。

改めて舟を留めてみると、真正面の道路を大型車が頻繁に行き交うのが見える。気になりiPhoneの地図で調べてみると、この道路は国道だった。さらに地図を辿って北へゆくと中心街である甲府にまで繋がっていた。
なるほど交通量が多いわけだ。地元の方々には不可欠な幹線道路なのだろう。
それゆえ、不満などこぼしてはならないが、これが釣趣を損なっているのも事実。まさか国道と向かい合うことになろうとは思ってもみなかった。ちょっと残念である。
準備を始めているうちだった。
名人の竿が早くも曲がる。
なるほど束釣りを豪語しているだけのことはある。
そして釣果を伸ばし始めたのを横目に、やっと準備ができた。時計の針は、七時を回ったところ。
遅ればせながらも、待望の精進湖でへら鮒釣りを始める。
手始めに両針ともに散け(バラケ)を付けて打ち始めると、わずか数投で浮子が動いた。こんなに早く反応があるのなら、餌をマイナーチェンジして両団子も試そうかと思った。が、それは後の楽しみとして下針にグルテンを付けると、わたしにも釣ることができた。

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本日の第一号。
背景は、ゴザンゲの鼻。

十時。
ずいぶんと釣れている。すでに二十枚以上も釣った。
放流べらが濃密に棲息している場所で竿を出しているのだから、時速七枚強の数字はそれほどのことではない。しかし普段が普段だけに、出来過ぎ感は否めない。
おもしろいから、いろいろとやってみた。
基本スタイルは業界でいうところのセット釣り。
それに加えて両団子、両グルテン、それに力玉も試してみた。
両団子は浮子は動けど魚の口へは入れられない。両グルテンは連続釣果もあったが空振りが多くなってきた。で、意外だったのが力玉。ダイナミックな消し込みもあって、幾つか釣ることができた。しかし、どうにも味気ない。このようなものは切羽詰まった時のものとして餌箱の隅にでも戻しておく。

舟の周りを大きな真鯉が取り囲んでいる。
若旦那が出前に来てくれた弁当を頬張っていると、心なしかその数が増えたようだ。その彼らに餌を与えると、我先に、と飛沫をあげながらの争いが始まった。
これを眺めていると、昔、ニュースで視ていた故田中角栄総理が目白の邸宅で緋鯉に給餌していた姿が思い出される。懐かしき昭和の一コマだ。
その鯉たちのなかに、のろまな奴がいた。
よく見ると奇形でもある。
オーバーに表現すると平仮名の(く)の字のような体型をしている。コイツがわたしの舟縁までやっていて、メシをくれっ、とばかりねだりにくる。
こうまでされては応えないわけにはいかない。
そこでコイツの目の前に餌を落とすのだが、のろまなコイツは傍にいた奴にあっけなく横取りされてしまう。その姿が愛らしくて何度も試みるが、どうにも上手くいかない。さらに口を開けた瞬間にも狙ってみたが、それすら空振りをしてしまう。
このよう姿を眺めていると、おのれの少年時代が想い出されてくる。不器用なわたしは何をやらせても、いつも級友のおくれをとっていた。
そこで最後の手段とばかり、できたてのグルテンを直接、口に入れ、なんとか食べさすことができた。

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集ってきた真鯉の群れ。

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のろまな奴はコイツ。

正午。
本日ただ今の釣果、二九枚。
地魚が一枚混ざったほかは放流ものが占めている。
先ほど名人が六十枚目を釣ったから、こんなものだと思う。
自嘲するわけではないが、わたしは同舟した方の半分もしくは、三分の一程度しか釣ることができないのが常。それを考えると順当ともいえる。
とはいえ、どうしてこうも差がつくのか。
まずは釣技に大きな差がある所へ持ってきて、姿勢が違う。
名人は鯉とは遊ばないし、へら鮒釣りと真摯に向き合っている。それに毎回、竿を同調させて釣上げているから間が空かない。
それに引き換えわたしときたら鯉はさておき、臨機応変が必要なへら鮒釣りの根本ができていないから、釣れる時は一気に釣果を伸ばせるが、断続的で、大きく間が空くことが暫しある。
その間が空いて、困っている。
そこで改めて、名人の釣りを観察させてもらっている。
見れば見るほど、その技には唖然とするしかない。
とにかく、浮子が立ってから沈降するまでの間に、毎回、竿を同調させている。わたしには、えっ?、と思うような動きにも反応して、魚を釣り上げている。ツンっと動いた時にしか同調さないわたしの釣りとは明白に違う。そのことを尋ねると、そのような魚信はあまりない、との答えだった。

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本日の入釣場所を対岸から撮った、近景図。
帰路に対岸から撮った

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同上、遠景図。

十三時。
再開。
わたしも積極果敢に竿を動かしてみようかと思った。
そこで、これまでは見送っていたような動きにも挑んでみると、おこぼれでも拾うような形で釣果につながりだした。
なるほと…。
名人のお陰で釣れ始めた。そしてまた息を吹き返した。
こうして釣れだしてみると、今までずいぶんと損をしていたような気がしないでもない。
わたしが好む釣りのスタイルは、釣り方はチョーチン釣りであること。餌は両団子であること。そして魚信はツンっであること。
これを三原則としてきたが、このような釣りにも魅力を感じ始めてきた。

そんな楽しい釣りに興じていると、釣り舟屋のご主人が舟を出してきた。そして釣り客ひとりひとりに声を掛けながら、自身も舟を留めて竿を出した。
時計は針は十四時半にもなろうかとしている。
名人はご主人に今季の最高釣果を確認し、それをそそくさと更新するや、道具を仕舞い始めた。
とても残念ではあるが、どうやらお別れの時がきたようだ。
今日は名人のお陰で、とても楽しい時間を過ごせた。
ありがとうございました。謝謝です。
さて、わたしも今日は千葉へ帰らなくてはならない。
しかし、もう少し続けさせてもらいたい。
カウンターの数字を覗くと、ちょうど(50)を指している。
これが(60)になったらやめにするか。
こうして続けているとバラした弾みで、鉤素がクチャクチャになってしまった。急ぎハサミを使うと、今度は間違えて道糸を切る始末。どうやら、根気まで切れてしまったようだ。
ふたたびカウンターを覗くと、(56)を指している。
これだけ釣れば大満足の、大漁謡節だ。
それにしても楽しい旅の二日間であった。
陸へ上がりニューあかいけさんへ挨拶。そして見晴し台から富士山の写真を撮って、一件落着。
千葉へ帰る。

お仕舞い。

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見晴し台から撮った、富士山。

戦いすんで日が昏れて。
今回の旅の釣りでは、横浜の名人のお世話になった。
西湖でも精進湖でも何度も電話やメールをくださった。
横浜の名人の、山は早い。
初釣りは零下二度のゴザンゲの鼻での陸釣りから始められた。
このご様子を幾度もメールで教えてくださった。
それに触発されたこともあって出掛けていった。
また横浜の名人からは、いつも底釣りを薦めてもらっている。
今日の八王子の名人からも、それを薦められた。
底釣りはわたしがこの釣りをするにあたっての大きな壁になって立ちはだかっている。越すに越されぬ湖底の釣りだ。
しかし、よく考えてみれば、宙釣りだって満足に出来ていないのだから、同じ事だろう。
次回は春の浅場の底釣りに挑んでみる。

☻本日の釣況。
・へら鮒、56枚。

☻2016年データ。
・釣行回数/9回
・累計釣果/131枚。

※お断り。
この釣行記はiPad等の端末に合わせて編集しています。


2016年04月30日(土) 。
吉右衛門。



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