吉右衛門の営業日誌、嬉しくもあり寂しくもあり、の巻。


「お疲れ様です!

スミレ、到着しました!

思い出の土地でフラフラしています。

お昼は召し上がりましたか?

近くに神戸屋キッチンがありますが、

サンドイッチでも買っていきましょうか?」

(名前以外は原文のまま)


15時半、

国立駅南口、

このメールの主は、恩田スミレ。

オレの最愛にして唯一の直属スタッフだ。


彼女と向かうは、狭山丘陵にあるイベント会場。

彼女がスタッフとして参加していたこのイベントも、今日が千秋楽。

名残惜しいが、これからその撤去作業に行くのだ。


このイベントと彼女のことを、もう少し書く。

この仕事。

昔、オレが営業して請負い始めてから、今年で七年目。

そして彼女は二代目の担当者。

普通、二代目は初代が敷設したレールを無難に走ることだけで、

個性は発揮しないものだが、彼女は違う。頑張る。

なによりも主催者から可愛がられているのが、嬉しい。

今日は、そんな彼女の張り切りように釣られて、

つい、千葉からノコノコと着いてきてしまった。

……、

愛車ベガ号での彼女は、饒舌。

不眠不休が続く辛い数日間であった筈なのに、

楽日を迎えた安堵感からか、破顔一笑。

あんなこと、こんなことを穏やかに語ってくれる。

グラフィック担当の、激写が頑張ってくれたこと、

職人さんが遅くまで嫌な顔もせずに、作業をしてくれたこと、

自分と同じ様な年齢でも、男性の方が大変そうなこと、

担当者が、最後まで優しくしてくれたこと、

そして、今回も多岐に渡って可成り勉強出来たこと……等々。

「楽しさ、苦しさも楽日まで」とはよく言ったものだ。*1

(*の説明は文末)。


17時半、

蛍の光が流れるなか、彼女を連れて集合地点へと向かう。

その道すがら、ヤケに知らない人達がオレに挨拶をしてくる。

果て、何処の何方さまであったか…?。

頭のなかを捜索するが、分からない。

ス「さっきから何を難しい顔、しているのですか…?」

吉「いろんな人が挨拶してくれるんだけどサ、思い出せなくて…」

ス「あの方はA社のBさんで、先ほど方はC社のDさんですよ」


えッ?、そうだったのか。オレじゃなくて、彼女にしていたのか。

道理でね…。何ともお粗末な話。

それにしても、コイツはいつの間に人間関係を拡げたのだろう。

勝手が違ってきた世界への変遷に、戸惑うオレ。

そんななか今回、助っ人で来てもらった職人さん達とも合流し、

撤去が始まる。

看板、パネルの類の取り外し、サインスタンドの引揚げ…等。

……中略……。

アっと言う間の2時間半で作業は、無事終了。

お疲れさまでした。


20時半、

主催者さんに、御礼のご挨拶。

今年も所沢に呼んでもらったとこ、

不束な娘がひとり、お世話になったこと、

来年も頑張って勉強してくるので、使ってもらいたいこと。

感謝感謝、深謝深謝。

ありがとうございました。


さあ、終わった。スミレちゃん、帰ろうッ。

帰ろうよッ!。

スミレの袖を引っ張るも、ヤツは帰らない。

彼女は彼女で、人間関係が忙しい。

あっちに挨拶、こっちに挨拶と動き廻っている。

ハハーン!、そうか、そうだったのか!。

ココでやっと気付いた!。


彼女は最早、

オレのボーヤではなくて、

このムラの住人に成ったのだ、と。*2


コレをみて、

嬉しくもあり寂しくもありの、オレでした。


お仕舞い。


弐阡壱拾弐年伍月弐拾日、in西武ドーム。

吉右衛門。


次回は「ペンキ屋との逢引、in 都寿司の巻」を書く。


文中のクレジット、

*1、この格言を言ったのは何を隠そう、オレ。

*2、ボーヤとは、付き人の事。


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