「バレリーナ」の巻。
三月上旬の昼下がり、私は銀座にいた。
ここで時間を潰すために入いったデパートで、
過去に経験したことのない、甘美な思いができた。
宛もなくのぞいたお店に、とても素敵な靴が飾ってあった。
色は赤。
華麗であった。
正面からだけでなく、右からも左からも眺めてみた。
どの角度から見ても、息をのむような美しさだった。
あまりに出来具合に見惚れていると、
傍にいた女性の販売員さんが話しかけてきてくれた。
説明を訊くと、
靴の名は、「バレリーナ」という。
何と美しい名だろう。
私が職場のスタッフに名付けるHNとは、えらい違いだ。
そして説明を訊けば訊くほどに、
この靴を買わずにはいられなくなった。
孫娘に買おうと思った。
意を決した私は、ふたたび販売員さんに尋ねてみた。
「この靴を、二歳半の孫娘に買ってやりたいです。そして今から、
十五年後。彼女が十八になった時に箱を開けさせたいのですが、
可能でしょうか?」
満面に笑みをたたえた販売員さんは、
ひと呼吸置いて、こう答えてくれた。
「多分ですけど、劣化して難しいと思います」
「……」
残念であった。
あきらめきれない自分がいた。
しかし、一瞬とはいえ、
孫娘が爺さんから贈られた箱を開ける姿を夢想することができた。
そした、成人前の彼女にも逢うことができた。
それは、とてもロマンチックで夢のような時間であった。
ありがとうございました。
お仕舞い。
吉右衛門さま
童話みたいなお話ですね。
歌姫さま。
「外反母趾」、残念です。
吉。
うわあ〜素敵・・・。
私も想像してしまいました。美しい話だー。
靴って、箱に入れて置いておいても
劣化してしまうのですね〜残念。
ひこ坊。
十五年経ったら、営業を教えてやってください。
吉。