「きっと待ってたんですよッ!」の巻。後編。
あらから、一ヶ月が経った。
代替品を入手できたとはいえ、決して諦めてたわけではない。
そんなわたしに天は好機を与えてくれた。
あの日の現場を訪れる機会が生まれたのだ。
見当をつけていた訪問先が違った今、残す可能性は三ヶ所。
営業先の二カ所と食事に寄ったハンバーガー屋だ。
ハンバーガー屋に関しては当日問合せてみたが、
対応してくれたのは年端もいかないアルバイト。
コーデュロイのハンティング、と、云っても、
まったく理解してはもらえなかった。
そこで今日は、木更津で入手した代替品を持参してきた。
これを見せて有無を確認するのだ。
ここは西東京の、とある町。
ひと仕事を終え帽子の探索に向かうが、あいにくの悪天候。
朝から大雨が降っている。
それだけに視界が悪い。
車での走行には腰がひける状況だ。
しかし、そんなことを云っている場合ではない。
今日を逃すと、今度、何時ここに来れるかがわかない。
ハンバーガー屋はその町の、小さな駅の傍に或る。
この駅は郊外であるにもかかわらず、各駅停車しか停まらない。
そんな環境だから当然のごとく、駐車場などはない。
それゆえ、近所の駐車場に停めるのだが、
この駐車場は細長いウナギの寝床のような形状をしているから、
運転がへたなわたしには、とても停めにくい状況だ。
前回も苦労したが、この日もそうだった。
進入は前向きで入るのだが、駐車スペースは後ろ向き。
当然の事ながら、途中で転回する必要がある。
何度も何度も切り返して、方向転換をしていた時だった。
ルームミラーに異物が映っているのに気がついた。
あれは、何だろう…?。
不吉な予感が脳裏を過る。
車庫入れが終わった大雨のなか、確認に向かう、わたし。
ずぶ濡れになったが、そんなことには構っていられない。
異物は裏返しになっていた。
まるでボロ雑巾のようだった。
しかし、その雑巾にはロゴがある。
読みづらくはあったが、読み事ができた。
ロゴは、Papas、とあった。
異物の正体が確認できた。
やはり、そうであった。
それは愛しの帽子の、変わり果てた姿であった。
推測だが、あの日、
運転席から転がり落ちて、そのままになっていたのではないか。
そう考えると、このひと月の間、風雨にさらされながら、
尚かつ、何十台、いや、百数十台の車に踏みつけられたのではないか。
可哀想な事をしてしまった。
帽子を抱きかかえるようにして、車に連れ戻った。
とりあえず、
心配を掛けたスタッフと家族に無料通信アプリのLINEで、
「帽子発見!」の速報を出した。
事務所では飛行機雲と南海の美人剣士に送った。
すぐに返信がきた。
それは何れも、心温まるものだった。
こんなにも周囲の人に喜んでもらえた帽子は、果報者だと思った。
今度は電話を入れた。
飛行機雲が出た。
帽子の無事を伝えると、
「きっと待ってたんですよッ!」
そこまで云った飛行機雲の声が聴き取りづらくなった。
どうやら感激のあまり、嗚咽してくれているようであった。
飛行機雲のことを想った。
なんて優しい心の持ち主かと思った。
村一番の花嫁になれると思った。
そして女優の二階堂ふみさんに似ていると思った。
こうして散々な目にあわせた帽子であったが、
無事に帽子を自宅へ連れて帰ることができた。
お仕舞い。
附記。
最後に写真を掲載して終わりにします。
三週連続の駄文をお読み頂きまして、ありがとうございました。
2016年04月08日。
吉右衛門。
写真キャプション、
上から、
発見当時、
蘇生手術後の陰干し、
記念に刺繍を入れた、
木更津での購入品と記念写真。
とんでもない大嘘がふたつばかりありましたが(笑)、
とにかく、探偵帽が無事保護されて良かったです!
なんと!
どちらが迷子になっていた帽子なのか、
わからないぐらいに元どおりになってますね。
保護されて、よかった、よかった!
見つけた瞬間の、吉右衛門様の笑顔が
頭に浮かびます。
学生時代の時、携帯電話を落とし、警察署で届けがあると聞き、
嬉しくて急いで取りに向かったら、自分の携帯電話が
無残な形になっていた時のことを、ふと思い出しました。
帽子は無事で良かったです。
四街道ぶん様
いろいろとご苦労をされているようで、お疲れさまです。
来月はお酒でも呑みにいきましょう。
吉爺拝。
南海の美人剣士様
先週行った、
あそこのハンバーガー屋の駐車場が現場です。
わたしが記した通りだったでしょ。
吉爺拝。
白鳥ダンク様
今日は待ちに待った特別の日でした。
あいにくの天気でしたが、頑張れましたか。
今度聴かせてくださいね。
吉爺拝。