怪獣捕獲日誌、弐。


16年10月5日(水)。


18時に帰宅すると同時に、ショートメールが届いた。

一昨日、海辺の公園で出会った青年からだった。

たった今、尻尾に火が点いている蜥蜴の大親分が出現したという。

この貴重な情報にスクラブル発進をかけようかと思ったが、

今日は週の中日で、クルマがない。

一台は事務所に置いてあるし、もう一台は修理中。

これはダメかと諦めた時、あることを思い出した。

そうだそうだった、自転車があるのだ。

二日前に試運転したばかりで甚だ自信はないが、

そんなことは言っていられない。

事故に遭えば、それはその時のこと。

家内に用意させて急発進。向かうは海辺の公園。

自宅からの距離はおおむね、四キロ半。

怪獣が消滅するまでを二十分として、

ロスタイムが五分はあっただろうから、残りは十五分。

それをわたしのようなレーサーが漕いで間に合うのだろうか。

普通に考えたら絶望的なことだが、

救いは、田舎道であること。

下り坂を駆け抜けること。

地元であるだけに道を熟知していることだ。

兎にも角にも、競輪選手にでもなったような気持ちで、前へ前へと進む。

あるまじきことだが、信号を一つ無視をした。

すみませーっん、通してくださーっい、と叫びながら女子高生を交わす。

そうして国道に架かった陸橋を越えると、海沿い街に着く。

この辺で時計を覗きたいところだが、

片手を離すと転倒しそうで出来やしない。

元々そんな器用な芸当はできやしないのだから。

兎に角、ペダルを漕ぐ。一生懸命漕ぐ。


オレは何としてでも、蜥蜴の大親分を捕まえたいっ!、


絶叫しながら進むと信号を見えてきた。

あの信号を曲がれば、残りは40m。最後の直線コースに出る。

そして信号を曲がると彼方に見えた信号が真っ赤に点灯している。

あれが青に変わるまで漕ぐぞ。

最後は立ち漕ぎで突っ走り、青信号を無事に通過。

公園に入り浜へと向かう。

そして自転車を降りるもスタンドの立て方も、ライトの消し方もわからない。

もう、なんでもいい!。

自転車を転がし、全力疾走で浜へ突進する。

そして、アプリケーションを立ち上げるも、

残念でした。

立ち上げた画面のそこには、蜥蜴の大親分の姿はなかった。

ダメだったか…。

しばし天を仰ぎ、

傍に居た連絡をくれた青年に御礼を言いつつ経過を訊くと、

すでに五分くらい前に消滅していたそうだ。


それでも、何年ぶりかで懸命に自転車を漕いだこと。

浜辺を全力で疾走したこと。

妙な清々しさに包まれて、額の汗を拭っていると、

青年とその友人たちが、

「お疲れさま」声をかけてくれた。

どうもありがとう。

そう言って、一件落着。

浜を後にする。


八月十三日からゲームを始めてから、おおよそ五十日。

かつてない経験ができて、おのれの中の何かが沸々と蘇ってきた。


続く。


2016年10月4日。


殴り書のままで未校正です。

誤字脱字等がございましても、

寛大に対処くださいますよう、よろしくお願いします。


吉右衛門。


コメント / トラックバック3件

  • hikoukigumo:

    なんと疾走感のあるブログ。

    それにしても、事故だけはお気をつけ下さいね・・・。

  • chibasanako:

    なんと!
    ハラハラ、ドキドキの自転車の旅ですね!

    蜥蜴の大親分。。。次こそは!!!

  • 白鳥ダンク:

    すれつがった人々は、
    みんな急いで何処へ行くんだろうと
    不思議に思っていそうですね。笑
    にしても、惜しい!次にリベンジですね!

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