戸面原ダム。
前島立木。
戸面原ボートセンター。
曇り時々土砂降り、凪時々風。
気温29度、減水5.1m、水温不詳、水色澄み。
男の純情、
ふたたび前島へ、の巻。
どうしても、もう一度、前島で竿が出したくなった。
おかしな例えだが、今、逢いに行かないと二度と逢えなくなる、昔の女にでも逢いに行くような心境。
事の起こりは、こう。
前回前島から本湖立木に移動し、最後の最後で竿を8尺から12尺に替えて、思いがけず釣果を得る事が出来た。
然し、皮肉にもここで釣果を得た事が禍根を残す事となり、帰路の館山道で、こう思った。
「前島でも竿を長くしていれば、釣れたのではないか」、と。
この瞬間から前島への思いが、またも強く湧き上がり、前回、風で止む無く撤退した時の「また来年までお預け」などと、悠長に待つ事など到底出来なくなった。とすれば、水位が回復して島が姿を消す前に、カタをつけねばなるまい。
というわけで、この強い思いを遂げる為、今回の釣行となった。
其れ故に、今日は気合いが入っている。
雨が降ろうが風が吹こうが撤退する事など、絶対に無い。
男の純情にかけて、
骨が舎利に成ってでも、オレは釣り上げるのだ。
…………。
なんで前島で釣りをするのに、男の純情、と表現したのか自分でもよくわからない。わからないが、すごくロマンチックなのだ。
春、冬眠から抜け出した生き物たちが躍動し始める頃、田圃では田植えが始まる。するとダムの水位は下がり始め、壱尺程度の減水で島は頂きを湖面に現す。やがて風に運ばれた草花の種子が舞い落ちると島は緑色の夏化粧を施し、蝉時雨が木霊する頃に成ると島はより大きく姿を現す。そして秋、新米が出回る季節に成ると島は、哀しく姿を消す。
とても稚拙であるが、島の一生を文字で書き並べるとこんな処だろう。
午前六時五八分。
写真判定気味だが、どうにか七時には間に合った。
既に桟橋の喧噪は六〇分前に終わったであろうから、別に七時の前でも後でもよいのだが、オレもへら師の端くれのつもり。ワケがあってこのような時間に出勤しているが、本来は出舟前の現場入りが理想のへら鮒釣り。故に、七時台では何とも格好が悪い。
おはようございます。入店の挨拶と共に「前島、再挑戦」を告げる。然し、よく考えてみたらオレが何処で竿を出そうと、あちらにはどうでもいい事だから、敢えて告白する必要などなかった。どうも、オレは幾つに成っても、軽薄だ。
先ずは管理人である相沢さんに、前回障害物のため移動した付近の写真を見せ、着舟方法の助言をもらう。
そう、ココが今回の大勝負の舞台と成るのだ。
そして、説明に頷いていると、奥さんからも島の最新情報をもらえた。それに依ると、オレ以外にも前島が好きな方がいて、昨日短時間の間に15尺で四枚釣った、との事。
へぇーっ!、これには驚いた。
釣果も然る事ながら、他にもあの筋金入りのマイナーポイントの愛好者がいた事が……。
午前七時四五分、颱風ハ逸脱シダガ天気ハ不安定。
舟に道具を積載し、「ヨーソローッ!」。
相沢さんに、骨を拾ってくれるよう、お願いをし、
大きな掛け声と共に、二週連続で前島攻略に向かう。
数分で、現場到着。
今回は先週の体験に加え、ロープ(10m)も三本持参してきたから、安易に着舟が出来た。
ココで改めて具体的な着舟場所を説明したい。
島の頂から岩盤方面に向かって隆起したラインが稜線*と成って延びている。これは想像半分期待半分であるが、この隆起が水中まで続いていれば、そこは馬の背に成っているのではないか。そのように己に都合良く仮定して、舟を浮かべた。
今日はいざと成ったら、出来もしない底釣りでも何でもヤルつもり。(自分の文章力では上手く説明が出来ていないので、後ろに並べた写真をご覧ください)
*この稜線なる表現は間違っていると思いますが、便宜上使わせてもらいました。
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本日入釣場所の、正面図。
今回は魚眼レンズで撮った。 |
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本日入釣場所の、正面図其の弐。
コチラの撮影時間は、午後。 |
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本日入釣場所の、背面図。
上述で説明したのは、この稜線の事。 |
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◯本日のデータと予定。
・目標/一枚。
・竿 /朱門峰凌.11尺。
・浮子/忠相グラスムクトップ.8番。
・鉤素/600粍+750粍。
・餌 /天々.1+グルバラ.1+GTS.1+水.1+スーパー団子1。
(数字の1は100cc)
・納竿/一枚釣りまで。
午前八時十五分。
高鳴る期待を胸に、第一投。
決戦の火蓋が切られる。
今朝は決戦に相応しい天気。房総半島はハズレたようだが、颱風(12号)が列島の間を行ったり来たりしているせいで、落ち着かない。空を見上げると、青と白の合間を不気味な黒い雲が西南西(光生園側)の方角から流れてくる。そしてこの雲が大粒の雨も運んでくるから、時折、土砂降りと成って、七人の侍の野武士の襲撃シーンのようになる。
九〇分経過、400cc攻撃を二回敢行するも無反応。次の三度目も無反応であったら15尺に変更するつもり。
二時間経過。
今日のオレは明らかに違う!。普段は蝉時雨やトンビの飛翔に気がいくのに、浮子をジッと凝視している。こんなオレに感じ入ったか、天が褒美をくれた。褒美というのはモジリ。穂先の向こう約15尺の辺りで、この日初めて魚の姿を目にする事が出来た。
これで竿を持つ手に力が入るが、浮子はピクリとも動かない。
そして、そろそろ三度目の攻撃を終えようとしている時に、トップの沈下速度に変化が起きてきた。
漸く、何かが起きつつあるようだが、竿替えはどうしよう。無反応であったら15尺にするつもりでいたのだが……。
結局、竿を替えている間に魚が居なく成ってしまう事を恐れて、最初の竿で続行。これが吉と出て初めて浮子がチロッと動いた。このチロッとの動きだが、魚が不二家のペコちゃんのような大きな舌を出し、ペロリとエサをひと嘗めしたようなもの。
午前十時三〇分。
天から授かったご褒美とはブルーギルであったのか……?。だとしたら、そんなものはいらない。
それにしても、力感の無い微弱な動きばかり。果して浮子の下にへら鮒は居るのであろうか……?。男の純情がおちょくられているようで癪に障るが、これしきの事ではへこたれない。緊張を持続させながら浮子を凝視していたらドキッ、待ち人来る。遂に、浮子の直ぐ横でへら鮒がモジったではないか……。
これで確認が出来た、浮子を動かしている犯人はわからないが、へら鮒が接近してきた事だけは間違えない。ひとり舟上で喜んでいると、微動だったチロッが初めて力感あるツン!に変わった。
待ってました!、空かさず合わせてみたが、敢えなく空振り。
然し、空振した無念よりも魚信に出逢えた事の方が嬉しい。
これこそ、二時間半(十時四五分)も頑張ってきた、ご褒美だ。
…………。
数回に一度は魚信が出るようになった。然し、なかなか針には掛かってくれない。エサを小さくしても軟らかくしてもだ。
然らば、そろそろ決着をつけるべく粘力に登場願い、更に軟らかくしてみたが思惑通りにはいかない。
さあ、困った。合わせども合わせども空振りのヤマ。それにもめげず、ひたすらに人事を尽くして天命を待っていたら、iPhoneがメールの着信を知らせ、更に呼び出し音までもを奏でてきた。
オイオイ、ここは通話圏外の筈だが、この取り込み中に何だ!。
今は絶対の勝負所。電話に出るわけにはいかない。勘弁願って放置していたら直ぐに鳴り止んだが、新規開拓中の顧客であったらどうしよう、との不安が頭を過った。
…………。
タカが釣り、されど釣り。
今日に限っては特にそう。今、相手をしてもらっている魚たちの現住所は知らないが、前島一丁目でない事だけは間違えない。居着きの住人(魚)であらば、じっくり腰を据えてと言う事もあるが、如何せんココに居るヤツらはオレのエサの匂いを嗅ぎ付けて寄ってきたヨソ者ばかり。だから早くしないと平気で隣町へ回遊してしまう。
午前十一時四五分。
初魚信から六〇分、「緊張の一時間」が終わった。
どの魚信に合わせも釣れてくれない。力感あるツン、落ち込みからのズルッ、それにさっきなんか消し込みもあったに、だ。
斯くなる上は、必殺の角麩でとも考えたが、今日に限ってはヤメておこう。あくまでへら鮒釣りの王道、両団子で仕留めたい。
いつものように、ひとり舟上でブツクサ言っていると、トップの動きが変だ。エサが途中で割れ落ちたのか……?。首を傾げながら上げてみたら、
おおおおおおおおおおおおっーーーーーと!。大きな手応え。
そして可成りの抵抗を受けながらも、無事仕留める事が出来た。
嬉しい。感動の上に、また感動!。
気絶しそうなほどの快感を覚える。
そして興奮冷めやらぬ、歓喜の思いを噛み締めながら写真撮影。
この我が釣行史に残る記録的な一枚を、前島一号と命名した。
これは、十一時五十五分の出来事だ。
十二時半。
三十分の休憩の間、弁当を頬張り電話とメールを処理。ここから再開と成るのだが、その前に悲しい出来事があったので書き留めておく。
前島一号の記念写真を撮るべく魚体に触れた瞬間、一号に七転八倒され、玉網置きと万力が湖の藻くずとなるべく沈んで行った。
彼奴等は四年前の釣行開始以来、ズッと傍にいた戦友のようなものだから、悲しい。
四年数ヶ月の間、どうもありがとう。
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在りし日の、玉網置き。
2009年第17回釣行、三島湖三ツ沢にて。 |
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再開。
大願成就した事も有り、何だか気が抜けた。そしてそんな思いが魚にも伝染して既に水の中は、モヌケの殻。六〇分エサを打ち続けたが、状況は双六で言う、振り出しに戻った。
戻ったのであれば、午前中に出番の無かった15尺でやってみよう。そう思うや否や、徐に袋から竿を出していたら、今朝の奥さんの言葉を思い出した。
昨日15尺で釣った方は底釣りであったのではなかろうか、と。
それならそれで底釣りに挑戦してみてもいい。そう思い、棚取りゴムを付けて放り込んでみたらが、勢いよく水中に呑み込まれてしまう。うーん、底はもっと深いらしい。
一瞬、底釣りもしてみたいな、とも思ったが、17尺に替ええてまでやる情熱は持ち合わせていない。
十四時。
15尺に替えて三十分が経過した午後十四時。浮子に待望の変化が現れた。前島一号は魚信無しで釣れたので、今度はしっかりとした魚信で釣りたい。
そして更に三十分、明確なツン!、で二枚目を釣り上げた。
前島一号ほどの感激は無かったが、これも嬉しかった。
これにて、本日の釣りに悔いは無し。
大満足の十四時半、納竿と相成る。
道具を仕舞いながら、今日の喜びを思う。
それは矢張り頑張り抜いて事を成し遂げたという自己満足が最大の要因だろう。
今日の釣りは生涯忘れる事の出来ない、最高の釣りであった。
喜びを胸に一件落着、桟橋へと舟を漕ぐ。
お仕舞い。
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相も変わらぬ馬鹿面の、オレです。
今度がフラシを買ってきて、魚と撮りたい。
Photo by Aizawa |
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○本日の釣況。
・前島。
08:00〜11:55、11尺天々/一枚、両団子。
12:30〜13:20、11尺天々/零枚、両団子。
13:30〜14:30、15尺天々/一枚、両団子。
・合計 二枚。
壱尺零寸零分〜壱尺壱寸五分。
○この日の釣果データ。
○2011年データ。
・釣行回数/9回
・累計釣果/365枚、平均/40.6枚。
2011年09月16日(金) 。
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