吉右衛門へら鮒釣り2011

  ◎第十三回釣行
09月15日(月)、敬老の日。

戸面原ダム。
石田島、北西側立木。
戸面原ボートセンター。
曇り日、凪。
気温/25度、水温/不明、水色/薄濁り、減水/3.8米。 

「石田島北東側立木。竿卸し、五十枚対四枚の衝撃!」の巻。

今回の戸面原ダムへの釣行には、いつもと違う目的がある。
先日手に入れたばかりの、竿を卸すのだ。
私にとって、竿卸しは進水式のような記念イベントだから、それなりの一日にしてきたい。
場所はそのイベントに相応しく前島を選んだ。
前島と言っても桟橋を向くメジャーな方ではない。石田島の先端から対岸の岩盤までを望むマイナーな方だ。ここは三年前に「渾身の一枚」と題した釣りをした場所でもある。
それにしても実入りが厳しくなり、懐が困窮してきた今に到って何故、竿を買うようなことをしたのか。それこそ財布からカードを出した瞬間は、清水の舞台から飛び降りたようだった。
事の起こりは、玉網の枠を壊したことに始まる。
道具の修理は本来購入した店に依頼するのが筋だと思う。
しかし、玉網の購入以来、長らくご無沙汰しているのと距離も遠く離れているので、いつもお世話になっている渋谷のサンスイ釣具店さんにお願いした。
サンスイさんは他店の購入品にも関わらず気持ちよく引き受けてくれたのだが、どうにも恐縮感が拭えなかった。そこで御礼の意味も含めて、玉の柄を購入させてもらったのだ。
この玉の柄を購入したことが引き金となった。
動機が動機だっただけにろくに見もせず選んだが、この玉の柄を農道跡でデビューさせると、その意匠(デザイン)に惹かれた。大袈裟に言うと見惚れてしまったのだ。
意匠に惚れると同じ柄の竿掛けと並べて、番い(つがい)にしたくなった。
玉の柄と竿掛けが番いになると、竿も欲しくなるのが人情というものだ。経済的な打撃はわかっていたが、辛抱堪らず、昨今において矢鱈と出動回数が多かった十四尺の購入を決めた。
竿を求めに出向くと、いつも胴調子に悩まされている赤い竿の新製品が出たと訊かされた。私の物より先調子だという。
それも見せてもらうと、これも欲しくなった。
こうなると自制が効かなくなり、いろいろと見せてもらっているうちに、意匠が気に入った別の竿も、つい予約してしまった。
数年ぶりの竿の購入だけに、気持ちが昂った。
しかし、興奮から醒め冷静さを取り戻すと、三本の竿に玉の柄と竿掛けを加えた金額の重さに打ちひしがれた。それに追い打ちをかけるように片倉ダムで穂先を失った竿の後継竿を他店に予約していたのも思い出した。
この年齢になって欲望に負けた自分には呆れるばかりだが、残り少ない人生の楽しみを考えると致し方ないとも思う。
私は酒もゴルフもやらない。
愛人もいなければ、不純異性行遊すらもしたことがない。
地味で日陰な人生だ。
それだけに生涯、この趣味を続けたいとの思いもある。
高価な買い物をしただけに、精々、竿卸しを楽しんできたい。

六時。
戸面原ダム、ボート桟橋。
進水式に備えて朝早く来たのに、とんだドジを踏んでしまった。
もたもたしていたら、前島が売り切れてしまったのだ。
油断していたわけではない。前島を朝一番で確保する人物がいようとは思ってもみなかったのだ。
このことに慌てふためくと、愉しい筈の一日が頭の中でガラガラと崩れる音がした。
しかし、急ぎ立て直す必要がある。十四尺で宙釣りが出来る場所を探さねばならない。脳裏に杉林が浮かんだ。空かさず急行したが、こちらも二人のへら師が準備に掛かっている最中だった。
参った。困った。早くも窮地に陥った。
水位が四米(メートル)近く減っている現在、十四尺で宙釣りが出来る場所はそうはない。しょんぼりしながら本湖に戻ってくると、主要なポイントはどこも売り切れていた。
こうなると上郷地区にでも行かない限り、売れ残った場所は先日入ったばかりの、石田島のマイナーな立木しかない。
しかし、あそこで十四尺となると底釣りになってしまう。
石田島で底釣りか…。
直ぐに貧果が頭をよぎった。
しかし、行き場を失った今となって、贅沢は言えまい。

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本日の入釣場所の、正面図。

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本日の入釣場所の、背景図。

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本日の入釣場所。
Google地図より。

◯本日のデータと予定。
・目標/特に無し。
・竿 /朱門峰本式、15尺。
・浮子/忠相パイプトップ、13番。
・道糸/1号。
・鉤素/0.5号、400粍+470粍。
・棚 /天々。
・餌 /ペレ道+粒戦細粒+バラケマッハ+つなぎグルテン。
・納竿/十五時。

八時。
石田島北東側立木。
餌を打ち始めたが、準備に可成り苦労した。
前回この場所で出した竿は十五尺。穂先と浮子の間には可成りの余裕があった。減水も手元の端末で調べると四米強だった。
それに比して、今朝の減水は四米弱。一尺ほど増水している。
それでも新竿の十四尺で足りると思い出してみた。
しかし、残念ながら底には届かなかった。
この場所では、十四尺の進水式が叶わないことを知った。
今更ながら、前島を確保できなかったことを悔やんだ。
落胆したが、やむを得えない。
十四尺は諦め、次回卸す予定だったもう一本の新竿。赤の十五尺を出すことにした。
しかし、この竿でもギリギリだった。いつもよりハリスを100粍延ばしてやっと底に届いた。
出鼻を挫かれたが、ここで頑張るしかない。
それに今日は祝日だけあって、それなりに人も多い。
川又から落合にかけては無人だが、私の右手の前島には小さな島を囲むように三名が入っている。そして左後方の石田島のメジャーな立木にも二名いる。それだけではない。その対岸の岩盤と本湖の立木にも二名いて、私を取り囲むように陣取っている。

九時半。
開始から九十分。浮子は沈黙を続けている。
そんな時だ。
パシャ!パシャ!パシャ!。
あちらこちらから、魚を玉で掬う音が聞こえてきた。
周囲を見やると、誰もが短い竿の浅い棚で、ご機嫌の釣りをしている。どうやらどこも豊漁らしい。
しかし、底釣りをやっている奴なんぞ、何処にもいない。
私はその場に適合しない釣りをしているのか…。
こうなると十五尺で頑に底釣りを頑張る自分の行く末が、ぼんやりと見えてきた。
世間さまに取り残されるのは毎度のことだ。
今更気にはならないが、出来ることなら今回卸すこの竿に、あまり惨めな思いはさせたくない。
そう思っていたら、上げた竿に魚が掛かっていた。
どうやらスレであったらしい。
魚は顔を見る前に外れたが、肝心の浮子に動きはなかった。

十時半。
竿を卸して最初に掛かけたのが、スレ。
なんだか竿に申し訳ない…。
忸怩たる思いで工業製品に謝っていたら、遅ればせながら私の浮子にも変化が出てきた。
変化といっても、写真で例えるならピンボケばかりでシャープネスには欠ける、冴えない動きだ。
そんな動きでも竿を合わせていたら、放流べらが釣れてきた。
魚は釣れたが確信があったわけではない。へたな鉄砲撃ちが、まぐれで釣ったようなものだ。
餌の配合を替えてみた。硬軟にも変化をつけてみた。
しかし、その程度の修正でどうにかなる問題ではなかった。
毎度のことで申し訳ないが、サンスイさんに助けを求めた。
ピンボケばかりでシャープネスな魚信がないことを告げると、電話に出てくれた村上さんから、浮子下を十粍程度詰めるように言われた。それで効果がなければ更に十粍とも言う。
謝礼を述べて試してみると、一枚は釣れたが、直ぐに釣れなくなった。そして更に詰めたが、同じことだった。
こんな事を繰り返していたら、衝撃的な事実に出会して、奈落の底へ突き落とされた。
前島で竿を出していた御仁が縄を解いた。移動するのか竿を納めたのかは判からないが、お仲間らしい方から釣果を尋ねられ、去り際になんと、「五十枚」と答えたのだ。
五十枚…。
この衝撃的な釣果に驚くと、己の釣果も知りたくなった。
恐いもの見たさでカウンターの数字を覗いてみると、こちらの方は、「四枚」であった。
キャリアが違う。開始時間が違う。場所が違う。いろいろとあるにせよ、五十枚に対して四枚では、あまりにも惨めだ。
冒頭にも記したが、私はこの趣味を生涯続けたい。
しかし、突きつけられたこの事実には、呆れるしかなかった。

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やっと釣れた第一号は、放流べら。
背景は事務所の裏側から戸逆橋。

正午。
餌を作るたびに気持ちが暗くなるのは何故だ。
それに今日は、敬老の日。
私も昨年で還暦を超えたというのに誰からも何もない。
お父さん。これで竿を買う足しにしてください…。
心密かにこのような気の効いたメールを待ち望んでいたが、浮子と同じく、こちらも沈黙したままだ。
子供たちも自分の生活でいっぱいなのだろう。
それに昨年、相沢さんのご厚意に甘えさせてもらって、こちらで家族と記念撮影をさせてもらった。それだけで充分と思わなくはならない。
家族のことはそれでよいが、釣りの方は未だに、五十対四の衝撃から抜けだせずにいる。
へたの横好き、ここに極まった感が強い。
今朝もサンスイさんから浮子下を十粍詰めるように言われたが、トップの目盛りが変わることはなかった。
これは浮子下の初期設定に誤りがあるか、餌の着底位置に問題があるかだろう。

十四時。
本日ただ今の釣果、八枚。
とんだ竿卸しの日になってしまった。
しかし、納竿が近づいたこの時間になって、ちょっとしたことが起こった。ラックの種が流れてきたのだ。
投じた餌がいつもの位置に届かず、少し手前に落ちた。
普段であればすぐにやり直すのだが、半ば捨て鉢になっていたこともあり、そのままにしておいた。するとどうだ。私の文章力では上手く表現出来ないが、何と言うか、穂先と浮子の間の緊張が解けた、とでも言えばよいのか、とにかく、浮子と着底した餌の関係が自然な気がしてきたのだ。
そこで浮子下を再度調整して、同じ位置に落とし込むと、始めて浮子と餌の垂直が達成できたような気になれた。
こういうことなのか…。
餌は道糸が張らない程度に、穂先の先へ落とせばよいのか…。
怪我の光明なのか、一筋の光が射し込んできた。
なんだか、新鮮に気分になった。
荒んだ心が洗われたような清々しさも覚えた。
そんな清廉な心で、凪いだ湖面を見つめるていると、ツンッ!。
浮子が動いた。
渇望していたシャープネスな動きだ。
当然のことながら、魚が釣れた。
ちょっとだけ、感動も覚えた。
いま迄のようなインチキ底釣りでなく、真面目な底釣りをしている実感が湧いてきた。
そして釣れ続いた。
六十分で九匹も釣れて、合計釣果が十七枚になった。
魚も釣れたが、何か明日に繋がる大きなものが釣れたような気にもなれた。これなら泣きながら帰る筈だった館山道も、ルンルン気分で帰れそうだ。
すっかりご機嫌になると、往年のアイドル南沙織ちゃんのデビュー曲、十七歳を口ずさんで、一件落着。
敬老の日は収穫在る竿卸しの日となって、よかった。よかった。

お仕舞い。

○本日の釣況。
・08:30~15:00、十五尺底/十七枚、両団子。

○2014年データ。
・釣行回数/十三回
・累計釣果/138枚(ま鮒2匹、半べら1匹を含む)。


2014年10月12日(日)
吉右衛門。



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