吉右衛門へら鮒釣り2011

  ◎第十四回釣行
09月22日(月)

三島ダム。
豚小屋下、看板前。
ともゑ釣り舟店。
曇り日、凪。
気温/26度、水温/25度、水色/薄濁り、減水/7.8米。 

「豚小屋下看板前。竿卸し、こんな釣行記でよいものかと、
 いつも思う」の巻。

それは、ゆっくりとした時間であった。
二歳を過ぎたばかりの孫娘の手を引いて、二人だけで近所のコンビニエンスストアまで歩いた。
二足歩行が身につけたとはいえ、走り出すとまだ転んでしまう。
それだけに手を離さないように慎重に歩いた。
昔、子供たちともこのように歩いたのだろうか…。
「虹々ちゃん。爺ちゃんに歌を唄ってくれる」
しゃがみ込んで、孫娘の目をみながら頼んでみた。
「♫♫♫♫♫(著作権に触れるので歌詞は端折ります)」
(ディズニーの話題曲)を片言で唄ってくれた。
「よく唄えたね」
頭を撫でると、三十数年前に撫でた娘の感触が蘇ってきた。
形状も毛髪の質も同じだった。
私は今まで爺さんが孫の手をひいているのを見ても、ただの街角の一コマにしか見えなかった。しかし、それを我が手でも味わってみると、えも言われぬ至福だった。
コンビニへ到着すると言われるままに菓子を買い与えた。
次はおもちゃ屋でレゴを買ってから、お子様ランチにも挑んでみたいと思う。

今回も竿卸しをする。
前回卸せなかった、新竿の十四尺を卸すのだ。
この竿は戸面原ダムで卸す筈だった。
しかし、予定していたポイントを確保できなかった為、イメージしてきたチョーチン釣りは諦め、もう一本の新竿である十五尺での底釣りに変更せざるを得なかった。釣りそのものは最後の最後でよい思いができたが、卸す筈でなかった竿での竿卸しには不満が残った。
この経験を踏まえて、今回は三島湖へ行く。
三島湖ならチョーチン釣りができるポイントが幾らでもあるからだ。そのなかでも数年ぶりに、ポンプロープの最下流にある大オダの脇に舟を結ぼうと思う。
そんな漠然とした考えで、ともゑ釣り舟店さんの扉を開けると、若旦那から、「豚小屋が貸切」と言われた。
豚小屋か…。
昔、随分と世話になったポイントだ。
三島湖に通い始めた時分、私はいつも豚小屋と桟橋ばかりで竿を出していた。それだけに郷愁は言い過ぎだが、それを拒む理由は見つからなかった。

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豚小屋地区の減水風景。
桟橋を出航して直ぐに撮った。

六時半。
三島湖、ともゑ桟橋。
なるほど、おっしゃる通り、あたりには人っ子一人いない。
そんな豚小屋地区だけに、舟は何処にでも結ぶことができる。選びたい放題だ。しかし、どうせ竿を出すなら看板升がよい。それも看板の真下(真正面)がベストだ。
この場所を選ぶのは魚影が濃密だからではない。愛着があるからだ。その愛着とは何度も竿を出したこと以外にある。
何を隠そう、この看板を作って寄贈したのは、この私だ。
確か六、七年前のことだったと思う。それまでの看板が老朽化していたので当時、職場に入りたての美術大学出のお嬢さんに作ってもらい寄贈した。
彼女は専門学科である美術以外は右も左も分からない娘で、その指導には往生させられたが、歳月を重ねるうちに随分と成長し職場に多大な貢献をしてくれた。しかし、根が芸術家だけにそれだけでは飽き足らなくなったのだろう。六年あまり在籍した昨年、ドイツで美術を学びたいと言って海を渡った。
それを懇願された時は悲しかった。
可愛がってきただけに尚更だった。目の中に入れても痛くないという言葉があるが、それは私にとっては彼女のことだろう。
忸怩たる日が続いた。
しかし、彼女のことを考えると慰留するのは酷とも思えるようになってきた。留学の為、コツコツとお金を貯めて頑張ってきた彼女の思いを遂げさせてやるべきと考えなおした。そして最後は気持ちよく送り出したが、送別会の夜は、貌で笑って心で泣いた。
あらから一年が経った。
時たま、異国に居る彼女からメールが届く。
それによると青い目をした友人もたくさん出来たようだ。
文化が違えば言語も通じない。そんな世界に飛び込み頑張る彼女をみるにつけ思うことがある。私はギブミーチョコレートよりは下の世代だが、それでも外国人に声を掛けられると情けないことに萎縮して緊張が走る。それだけに時代の変遷を感じられずにはいられない。
今日はその彼女が作った看板を見上げ、ちょっぴりセンチメンタルな気分になって釣りをしたいと思う。

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本日の減水、7.8m。
遥か頭上にある看板。赤丸印の場所に隠れている。

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同上、拡大図。

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寄贈当時の看板。
調べてみたら、2008年06月20日だった。

◯本日のデータと予定。
・目標/三十枚。時速五枚
・竿 /普天元独歩、十四尺。
・浮子/忠相ムクトップ、十一番。
・道糸/1号。
・鉤素/0.5号、450粍+600粍。
・棚 /天々。
・餌 /三島湖スペシャル。
・納竿/十四時。

八時。
三島湖、豚小屋下看板前。
目標は三十枚に設定した。
納竿時間を十四時にしたので、時速五枚のペースで釣上げると達成できる比較的容易な数字だ。
不安があるとすれば棚が不適当であるのと、豚小屋地区に棲息している魚を一手に引き受けざるを得ないことだ。
棚の方は魚の棲息層より十尺ほど深く餌を入れるので、いつしかトップが潜らなくなるだろう。
また、単独での釣りになることが予想されるから、やがて周辺の魚が大挙して押し寄せてくる危惧もある。そうなってしまうと収拾がつかなくなり、大混乱に陥ることも必至だ。
さあ、釣りを始める。
準備万端整ったと思ったら、私の他にも準備万端の奴らがいた。
いつの間にか竿掛けの下に幾匹ものブラックバスが集結して虎視眈々と獲物を狙っている。図体が馬鹿でかく、相撲取りの二の腕ぐらいの太さの連中が、不気味な目を光らせている。
気味が悪くてセンチメンタルどころではなくなった。
奴らに釣った魚の下半身が喰い千切られでもしたらどうしよう。
血まみれになった魚を釣り上げることなど想像もしたくない。
しかし、私に出来ることと言えば、釣った魚を素早く玉で掬うしかない。とりあえず、玉の柄を一本半に伸ばして、第一投を投げ込んだ。
二十分を経過して一枚目が釣れた。
下のハリスが伸びきった直後に、ツンっと奇麗に入った魚信だった。そしてこれを合図に釣れ始めた。
        

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本日の入釣場所の、正面図。

 
マークした地点は大まかです。
実際とは違っている可能性もあります。
Yahoo!地図より。

十一時。
開始して三時間。
順調に釣れている。
目標が低いとはいえ、時速五枚のペースはしっかりと守られている。
これは消極的な釣りをしているのがよいのだろう。
浮子が立ってトップが沈みきるまでの動きはすべて静観すると決めている。どのような魚信があろうとも見送って我慢する。
そして下のハリスが落ち着いたあとの魚信にしか手を出さない。この調子なら後半戦もうまくいくのではないか。
今日の未来に青信号が灯った。
それと懸念されたブラックバスだが、今のところ悪さをする素振りはみせてない。
竿掛けの下で蠢いていることに変わりはないが、釣った魚に襲いかかってくるようなことはない。しかし、いつ迄もここに待機されていても困る。なによりも気味が悪い。
何年か前にもこのようなことがあった。
あの時は番頭さんが簡易的な仕掛けで、奴らの幾匹かを釣りあげ駆除してくれた。
今日はへら師は不在だが、ブラックバス師なら時たま背後を往来する。彼らに駆除を依頼しよう。
一艘目がやってきた。
呼び止めて、舟の下にいる魚を釣ってくれるように頼んだら、
「へらの方の傍には行けないですよーっ!」
私のヤクザ顔が災いしたに相違ない。
脅されるとでも思ったのだろうか。体よく断られた。
めげずに次の舟を探していると、二人連れの青年が操舵する舟がやってきた。このバス師にお願いすると、
「えっ!いいんですか?」
躊躇いながらも引き受けてくれた。
バス師がボートを寄せてきた。
バス師の釣りを、間近でみるのは初めてだ。
手を休め、興味津々と眺める。
取り出したのは、ブルーギルの形をした疑似餌であった。
バス師はこの、疑似餌を慎重に入れた。
すると凄まじい水しぶきが起こった。私の目の前で奴らが争うように、疑似餌を奪いあった。そこで釣れたのは、なんと驚くなかれ、五六糎の大物であった。
バス師の喜び様といったらなかった。
三島湖にきて六年目で初めて釣った大物だという。
その笑顔があまりにも素敵だったので、記念写真も撮って差し上げた。
青年がほくほく顔で立ち去ったあとは、ボスが捕獲されて怖じ気づいたのだろう。奴らを追っ払うことができた。

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本日の入釣場所の、上流図。

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本日の入釣場所の、下流図。

十三時半。
本日ただ今の釣果、二三枚。
開始してから六時間を過ぎても、ひとりぼっちに変わりはない。
ここは天下の豚小屋下。
関八州を代表する、へら鮒釣りのメッカだ。
今日は平日ゆえに、へら師の数が少ないのだろうが、心の寂しは拭えない。かく言う私もこちらにお邪魔するのは今季四度目だからえらそうなことは言えないが、野べら釣りのファンが七年前と比して減少しているような気がしてならない。
景色はよいし、魚影も濃い。それに釣宿の人たちも素敵な方ときているから、いつしか往事に戻ることを、ひとりのファンとして切に願いたい。
さて肝心の釣りの方だが、ブラックバスは追っ払えたが、皮肉なことに釣れなくなった。この二時間半で八枚しか釣れていない。
原因はわかっている。思い当たることがある。
邪魔者がいなくなった開放感から、積極的な釣りに転じたのが、凶と出たのだ。
開放感に誘われ魚信を片っ端から合わせたのが拙かった。
これだけ空振をすれば、湖面の下はバラケが舞い散ってるに相違ない。
その匂いを嗅ぎ付けて豚小屋中の魚が大挙してやってきた。
浮子が踊りだして収拾がつかなくなった。
浮子は立つ暇さえもない。右に左に連れ去られるだけだ。
指先に最大級の力を込めた餌も、立った瞬間に水中に引きづり込まれる。
もはやこうなると、私の技量ではどうにもならない。
そう、懸念していた、いつもの大混乱に陥ったのだ。
先ほど、魚が散るのを期待して三十分ほど床休めもしてみたが、なかなか退散などしてくれない。これは沢庵石を投げ込むか、川鵜にでも登場願わない限り事態の打開はできないだろう。
竿を短かくして鉤素も詰めれば結果も違おうが、それは今回の趣旨から外れるのでやめておく。
そうなるとギブアップということになるが、それでもよいか、と自分に尋ねると、それでもよいという。
またもお粗末な釣りになったが、斯くなるうえは、一件落着も致し方ないだろう。
今回の釣行記も竿卸しと題したが、新竿についての感想やらは一切書けなかった。
いやはや。こんな釣行記でよいものかと、いつも思う。

お仕舞い。
○本日の釣況。
・08:00~13:30、14尺チョーチン/二三枚、両団子。

○2014年データ。
・釣行回数/十四回
・累計釣果/161枚(ま鮒2匹、半べら1匹を含む)。


2014年11月02日(日) 。
吉右衛門。



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