吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第十五回釣行
10月17日(金)

片倉ダム。
ダムサイド。
笹川ボート。
晴天、凪。
気温/21度、水温/20度、水色/澄み、減水/満水。 

「ダムサイド。遂にヤキが回ってしまった」の巻。

映画俳優の高倉健さんが亡くなられた。
その突然の訃報に接した時は驚きのあまり声も出なかった。
私が高倉健さん(以下、健さん)の映画を初めて観たのは高校生の時にまで遡る。
悪友に誘われたパチンコで得た泡銭で映画を観ることになり、たまたま入った小屋で上映されていたのが健さんの映画だった。
以来、私は健さんのファンとなった。
そして、その存在は青春時代の憧れともなり、新作が封切られる時などは、学校にも行かず映画館へ出向いたものだ。
当時鑑賞した作品は、「網走番外地」と「昭和残侠伝」。
どちらも任侠映画だった。
尊敬する親分と可愛い弟分が理不尽な目に遭う。最初のうちは健さんも我慢に我慢を重ねるのだが、最後は堪忍袋の緒が切れてヒロインが泣いて止めるのも振り切り、主題歌が流れるなか殴り込みに行く。そして悪党どもと、その親玉を叩き切って映画は終わり溜飲を下げるという、どれも似たような筋書きなのだが、わかっていても気分が昂ったものだ。
健さんの映画が終わると、それこそ、肩を怒らせて映画館を後にした。義理と人情に厚く、礼儀正しい。それでいてちょっと暴力的なところにも強く惹かれた。
私のカラオケの十八番は、網走番外地。
そして、頭髪を短くしているのもそこにある。
これまで幾人かの散髪職人に世話を掛けたが、いつの場合も、
健さんに、と言ってから刈ってもらっている。
しかし、真似れたのは格好だけで、本質的には何も近づくことは出来なかった。ただの憧れだけでしかなかった。
また、いつの日か、オホーツクの海を見たいもと思った。
それを実現させるには、あの青春時代から三十年の歳月を要したが、オホーツクの海を目にした時は強烈だった。
健さんの思い出と共に、青春時代のあれこれも蘇ってきた。
恐らく、ご本人と映画の役柄を混同させているのであろうが、それを感じさせないのが、俳優としての力量だと思う。
私がこれから、書こうとしているのは釣行記。
それゆえ、この辺りでもうやめにするが、改めて高倉健さんのご冥福をお祈りしたいと思う。安らかにお眠りください。
合掌。

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オホーツク海。
遠くに見えるのは、国後島です。

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網走海岸より、オホーツク海を望む。

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主題歌にも出てくる、浜茄子の花。

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網走駅。

七時。
片倉ダム、笹川ボート桟橋。
桟橋へ出ると、朝霧が冷たい。
季節はすでに十月の半ば。当然のことながら蝉時雨はない。
もう夏はとっくに終わったということだ。
空を見上げると、どんよりとした雲が低く立ちこめている。
この雲は晴れるのだろうか。
そんななか、霧をついて出航。
今朝、漁に出たへら師の数はふたり。そのうちのひとりが、岬の突端附近に陣取っている。
片倉ダムで最初に巨べらを釣上げた方だ。
背筋の伸びた、とても威厳のある方で、片倉ダムのへら師の第一人者と言っても過言ではないだろう。
それだけに私のような軽輩には、近寄りがたい存在でもある。
しかし、目的地であるダムサイドへ行くには、どうしてもこの方の前を通らねばならない。
どう対処すればよいか…。
私は現役時代、営業の真似事をしていたから、誰彼無しに積極的な外交を繰り広げることが出来る。しかし、それは仕事上のことであって、私的には人見知りのきつい方だ。したがって、外向きの日もあれば内向きの日もある。それに今朝はあいにくと内向きの日だから、出来ることなら難儀は避けて通りたい。それゆえ、小さな呵責を感じつつも、挨拶することなく、舟を静かに、そして大きく迂回させて櫓を漕いだ。

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うっすらと霧が残る、本日の目的地。
赤丸印附近に舟を結ぶつもりだ。

待望の目的地である、ダムサイドのブイが見えてきた。
今、待望と書いたのは、過去にもこの場所を目的として叶わなかったのが、漸く叶うことになったからだ。
この場所は夏(第9回釣行記)の釣りで、名人が舟を結んでいた場所でもある。
実は今回の釣りに先だち、その名人の元へ挨拶に行ってきた。
名人は全国規模で展開している大手釣具店の店長をされている。依頼してあった竿の引取りも兼ね、片倉ダムについての、あれこれも伺ってきた。
それによると、この場所で竿を出す留意点は、あまりブイに近づくと風向きに拠ってはブイが迫り出してきて邪魔をされること。そして、水中には隠れオダが潜んでいることだ。

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本日の入釣場所の、正面図。
この写真を撮ったのは霧が晴れた、九時頃。

 
マークした地点は大まかです。
実際とは違っている可能性もあります。
Yahoo!地図より。

☻本日のデータと予定。
・目標/一枚でもよいから、鮒属を釣り上げること
・竿 /剛舟、十七尺。
・浮子/萱製、太パイプトップ(名称無し)。
・道糸/2号。
・鉤素/1.2号、450粍+600粍。
・針 /巨ベラ16号。
・棚 /三本。
・餌 /マッシュポテト+マッシュダンゴ+BBフラッシュ。
・納竿/十五時。

八時半。
意気揚々と現場に到着。
名人からの助言通り、ブイから遠慮がちに舳先を結んだ。
ここまで手前に下げれば、たとえ風が吹いても大丈夫だろう。
舟の固定作業を終えると、名人から購入した竿を繋ぐ。
竿は剛舟。先調子の十七尺だ。
夏の釣りで名人は、浮子下を二本から三本で操っていた。
あの日の水位は三十糎の減水。それに比して今朝の水位は満水だがら、あまり差はない。それを頭に入れると、水中に潜むオダを避けられそうな、三本より深くはしない方が無難だろう。
さて、準備万端整った。
釣り場を前にする、このワクワク感は、なんだ。
今日は初の壱尺半のへら鮒を仕留める、夢が叶うのではないか。
先ほどから、そんな映像が脳裏にチラついている。
夢よ、叶え!。
大いなる希望を抱いて、第一投を投げ込んだ。

十時半。
一投、そしてまた一投。
慎重に餌を打ち込む。
静かに、そして心をときめかせながら、浮子が動くのを待ち侘びていた時だった。
ふとした動作で、とんでもない事に気がついた。
竿を間違えている!。
竿を間違えているのだ。
私が先ほどから振っている竿は、名人から購入した竿でない。
この竿は前々回、石田島で卸した竿だ。
私は竿を間違えて持ってきて、それに気づかず振っていたのだ。
何と言うことだ。
悲しくて言葉もでない。
あまり思いたくはないが、俺も遂にヤキが回ってしまったのか。
意気揚々と始めた釣りが、暗澹たる気分に陥った。
☻本日のデータの訂正。
・竿/朱門峰本式、十五尺。
悲しんでばかりもいられない。
今日のこれからをどうするかだ。
このような事態は想像もしてこなかった。それだけに予備の竿すら持ってきていない。そして、さらに困ったことは、この竿は以前使っていた赤い竿ほどではないが、胴調子ということだ。
胴調子の竿で巨べら釣りに挑む…。
それはあまりにも無謀ではないか。
もしも魚が掛かっても、取り込むことは出来るのか。
いやいや、それどころではない。折れでもしたらどうするのだ。
折れる箇所が穂先であればそれだけで済むが、竿が満月にしなった時、真ん中辺りで折れれば、それこそ買い直しになる。
このところの釣具への散財を考えると、それは悲しい。
さすれば残された道は、撤収ということになるが、それも辛い。今、ここで放棄すると今度、いつこの黄金ポイントに入釣できるかわからない。
今日は運がよかった。遅くに来て、この場所に入れた。
朝早く来ようと場所取り合戦にでもなれば、私は簡単に負けてしまう。常連はみな船外機を装備しているから、スタートの瞬間に置いてきぼりを喰うのが関の山だ。それを考えると、そう簡単に撤収というわけにはいかない。
        

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本日の入釣場所を、対岸から見た図。
納竿後に撮った。

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本日の入釣場所の、鳥瞰図。
帰路に片倉橋から撮った。

十二時半。
果て、どうしたものか…。
禍根が残ったまま続行していた、昼下がり。
ぼんやりと眺めていた湖面から、浮子が突然姿を消した。
このいきなりの出来事に驚きつつも、間髪を入れず竿を合わせると、強烈な手応えが伝わってきた。
緊張が走った。
竿を持つ手に力が入る。
しかし、不意に脳裏を掠めるものがあった。
竿が折られるのでないか…。
怯えを感じた。
そして怯えが躊躇いに変わると、力が弛んて、隙が出来た。
その瞬間だった。
主導権が魚に渡ると、一気に左岸へと走られた。
こうなると脆い。ほとんど抵抗も出来ずいると、プッツーン。
藻にまみれた空針が跳ね上がるように、空を舞った。
千載一遇の好機を逃した。
あの一瞬の躊躇いが、悔いを残した。
釣りに来て、腰が砕けていた自分が情けなかった。
しばらく佇んでいたが、いつもでも、こうしているわけにもいかない。
漸く前を向いて、頑張ろうと言う気になった。
買ったばかりの竿には気の毒だが、何としても釣上げよう。
そう思い直すと餌を打つテンポが上がり、真剣な眼差しで浮子を見つめるようになった。

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本日の入釣場所から見た、過去の入釣場所。
①、2013年09月09日。
②、2014年07月23日。
③、2014年09月10日。

十三時半。
本日ただ今の釣果、零枚。
そして魚信は、一回。
残り時間は少ないが、最善を尽くそう。
そう思って頑張ってみたが、魚がこちらの都合に合わせてくれる筈もなく時間ばかりが過ぎて行く。そして何も起こらず、納竿予定時間を迎えることとなった。
さて、どうするか。
時計の針は、十五時。
西の空が黄昏れるには、まだ数時間ある。
しかし、気持ちの方はすっかりと黄昏れている。
これでは延長戦というわけにもいくまい。
肩を落として道具を仕舞いだす。
そして仕舞い終えた後も舟上に佇み、今日の釣りを思った。
私は何をしていたのだろう…。
竿を間違えたことに気落ちして、たった一度の好機を自ら放棄してしまった。
なんとつまらない釣りをしたものか…。
ため息をつきながら、傷心ともいえる釣りを終え、一件落着。
ダムサイドを後にする。

お仕舞い。
○本日の釣況。
・09:00~15:00、15尺二本半/零枚、両団子。

○2014年データ。
・釣行回数/十五回
・累計釣果/161枚(ま鮒2匹、半べら1匹を含む)。


2014年11月25日(日) 。
吉右衛門。



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