吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第五回釣行
4月29日(水)

戸面原ダム。
石田島、桟橋側。
戸面原ボートセンター。
曇天、微風時々風。
気温/19度、水温/15度、水色/小濁り、水位/減水0.68m。 

「カラツンの原因が糸づれとわかって、一件落着」の巻。

今期は業績が芳しくない。
その為、このゴールデンウィークが明けたら、わたしも営業に出ることになった。
わたしの事務所の決算月は、十一月。
暮れに仕事がないこともあって、新年度は毎年赤字から始まる。それを一月、二月で徐々に補填し、書き入れ時の三月で一気に挽回するのだが、今年はそうはならなかった。
最初は静観してスタッフの頑張りを期待していたが、どうにも好転しない。そこで私の出番となったわけだが、気持ちは複雑だ。
元々嫌いではないから、それをすること自体に抵抗はない。
しかし、還暦を過ぎた今となって新規顧客の獲得廻りをすることになるとは思ってもみなかった。それだけに不安もある。
肉体だけでなく精神的にも贅肉の付いた白髪頭を、世間さまが迎えてくれるかどうか。悲観的に考えると不安は尽きない。そんな私だが、なんと言えばよいか、ふたたびリングに上がれることへの喜びを感じているのも事実だ。
昔取った杵柄ではないが、最近、売り方や語彙を並べてシュミレーションを始めると、これが案外うまくいって、気持ちの方は大分できてきた。昔の自分には遠く及ばないが、あとは弛みきった気持ちを引き締めれば、まったく上達の兆しをみせない釣りとは違い、なんとか勝負になるだろう。

七時半。
戸面原ダム、桟橋。
桟橋に出たが、未だ、行き先が決まらない。
今日は昭和の日。ゴールデンウィークの初日とあってか、見渡す本湖に釣り人が多い。駐車場に留まっていた車輛の数からして、四十人くらいが既に出漁したと考えられる。
前回、私がこの桟橋に立ったのは、一昨日のこと。
あの日は本湖の景色を隅っこの川又から見渡した。今回は違う景色の本湖も楽しみたい。それとさらに欲を言えば、前回予想外に面白かった、浅棚釣りの続きもやれればと思う。
それやこれやを、ぼんやりと考えていたら、
「石田島は、どうですか…」
声を掛けてくれた人がいる。こちらの池主の相沢さんだ。
先日、ここで底釣りをやった釣り客が、地魚を一枚釣り上げたそうだ。そろそろ石田島にも兆しがみえてきたのか。しかし、詳しく訊いてみると、釣果はこれだけだったらしい。
そこで改めて石田島に目をやると、沖合の立木で先客がひとり、竿を振っている。
オデコ覚悟の際どい釣りになろうが、期待もある。
今回は石田島に陣を張ろう…。
そう決めるや、出航。
石田島へと旅立つ。

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曇り日の、朝の本湖。
写真中央に二つ並んでいる島が、石田島。

島に接近すると立木にいた先客が片付けをしていた。
どうやら、移動支度をしているようだ。
釣況を尋ねてると、十二尺で天々から一本半迄の間を探ってみたが何の反応もなかったらしい。
なるほど…。
私が今、舟を結ぼうとしているのは、石田島の表側(桟橋側)。
この島表よりメジャーな立木が不釣とあっては、今日の先行きは決まったも同然。大苦戦は必至だろう。
しかし、「大」が付こうが、苦戦は覚悟の上。
四の五の言わずに舟を結ぶ。
竿は十二尺を選んだ。
十尺でもよさそうな気もするが、ここでよくお会いする名人が、魚の警戒を解くために少しでも長い竿を使う、と言ったのをおもいだしたからだ。

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本日の入釣場所の、正面図。
崩落した戸面山が痛々しい。

 
マークした地点は大まかです。
実際とは違っている可能性もあります。
Yahoo!地図より。

☻本日の予定。
・目標 /五枚。
・釣り方/一本半、グルテンセット釣り。
・竿  /朱門峰嵐馬、十二尺。
・浮子 /杉山、四番。
・道糸 /1号。
・鉤素 /0.4号、300粍+500粍。
・針  /サソリ6号+アスカ7号。
・納竿 /十五時。

九時十五分。
浮き下を二本にセットして、今季五度目の釣りが始まった。
餌を打ち出して十五分も経った頃だろうか。
ブーーッン、ブーーッン。
何処からともなく、妙な羽音が耳に入ってくる。
見上げてみると羽音の正体は、虻(あぶ)。
虻が私の頭上でホバリングをしながら、じっと様子を窺っていたのだ。
ここは虻の棲家か…。
だとすれば、私は虻にとっての、不法侵入者ということになる。
そうとは知らず迂闊にも、舟を結んでしまった。
虻は不法侵入者を警戒しているのだろう。
しかし、警戒しているだけならよいが、攻撃に転じてきたらどうすればよいのか。
そもそも、虻は人を刺したりするのか…?。
そんなことも知らない私だが、刺すとすればひとたまりもない。
あの位置から急降下攻撃でもされたら、躱す術がない。
そう考えると、こちらから先制攻撃を仕掛けるしかないが、仕掛けようにも私の持つ武器といえば、口の開いた玉網だけだ。
それにどう考えても、わたしに方が侵略者だけに、立場が弱い。
玉網を振り回して捕獲できたとしても、水に沈めて殺しては、無法者のそしりを免れない。
どうしたものか…。
思案に暮れていたら意外な、救世主が現れた。
いずこからともなく、ひと回り小さな虻が飛来してきて虻と向かい合う。何事か話し込んでいるようにも見える。
この二匹は顔見知りのようだ。或は、夫婦者かもしれない。
釣りを休んでこの光景を見守っていたら、小さな虻に促された虻は遠い彼方へと消えていった。

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本日の入釣場所を、対岸から見た図。
写真は納竿後に撮った。

十一時。
餌を打ち出してから、二時間近くが経った。
予想通り浮子に変化はない。微動だにしない。
開始当初は虻に悩まされながらも退屈を凌いでいたが、それが居なくなると思考は来週からの営業に流れた。
そんな風だから、その間の釣りといえばルーティンワークそのもの。とても身が入っていたとは言い難い。しかし、餌だけはそれなりのピッチで打ち込んでいた。
そろそろ、浮子下を短縮するか…。
一本半を考えると、浮子に変化が現れた。
そして、小さく揺れだしたものが、段々と活発化してきた。
しかし、緊張するには到らない。
それはわたしが、犯人の正体を知っているからだ。
浮子を動かす犯人は、ヤマベだ。
その心は、一昨日、同じ動きからヤマベを釣上げたことにある。ヤマベと知りつつ、餌を打ち続けるていると、浮子の沈下速度が遅くなり、ナジミ幅も小さくなった。餌を所定の位置に届けられなくなってきた。
どうやら群れが大きくなってきたようだ。
この群れの下に、本命が居るとよいのだが…。
何の根拠もない願望だが、所在を確かめる為にはグルテンを大きくして、群れを突破する必要がある。
そこで、パチンコ球にしてみると、ズンっ!。
おっっと!。
竿を合わすと、ゴツンっ!。
図星だった。願望が願望でなくなった。
そして掛けた魚は、大きかった。
今回も魚籠か…。
脳裏を魚籠(ふらし)がかすめた。
しかし欲を出すものではない。その瞬間、プツーッン!。
無情にもバレた。

正午。
本日ただ今の釣果、零枚。
お昼のチャイムを、オデコで聞いた。
唯一の魚を逃すと、ヤマベもいなくなった。
こうなってくると、オデコが現実味を帯びてくる。
竿を投げ出して本湖を眺めていると、もじりがあった。
もじりといっても、わたしが陣を張る石田島と前島の中間辺りだから、可成り遠い。
この遠くのもじりを頼みに、最後の足掻きを始める。
浮子を一本半にして、餌打ちのピッチをあげてみた。
しかし、この程度の努力で功を奏せば世話はない。
そろそろ捨て鉢になりかけた頃。突然、浮子が消し込んだ。
合わせてみると、これが大当たり。
三五糎(センチ)程度の、地魚を釣り上げた。
意外な形の釣果だが、贅沢を言うものではない。
カウンターのボタンを動かすと、数字が「1」になり、オデコから逃れることができた。

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本日の第一号。サイズは推定、三五糎。
本湖を背景に撮った。

十四時。
竿の先、十尺程度の位置で、もじりがあった。
そして、それが断続的に続いて、今度は浮子を跨ぐように大きな魚が顔を出した。
クライマックスがやってきた。
消し込みが頻発するようになった。
これは一昨日と同じ展開だ。
あの時は五枚を釣上げ釣果への執着がなかったが、今日はある。なんとか仕留めたい。
浮子が沈むタイミングを計って竿を合わせる。
しかし、空振りばかりで、かすりもしない。
こうも釣れないとタイミングだけではなく、もっと根本的な問題ではなかろうか。
そもそも、これはカラツンなのか…?。
糸ずれではないのか…?。
そんな疑問に埋め尽くされたまま追釣ならず、納竿と相成る。
しかし、桟橋に戻ってからも疑問は燻ったままだ。
このままでは、帰るに帰れない。
そこで朝、相沢さんに紹介して戴いた名人の所へ確認に行くと丁寧に教えてくれた。そして、その対策についても熱っぽく語ってくれた。どうやら私の推測は当たっていたようだ。
そんなことでカラツンの原因が糸づれとわかって、一件落着。
糸づれ対策を胸に、山をくだる。

お仕舞い。

☻本日の釣況。
・09:15~15:00、12尺1本半/1枚、バラケ+グルテン。

☻2015年データ。
・釣行回数/5回
・累計釣果/25枚。

2015年04月12日(日) 。
吉右衛門。



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