吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第八回釣行
6月15日(月)

三島湖。
桟橋、舟小屋脇。
ともゑ釣り舟店。
晴天、無風。
気温/28度、水色/小濁り、水位/減水1.2m。 

「よかれと思って買い求めた餌は裏目とでた」の巻。

今月(六月)の上旬のことであった。
千葉県市川市にある釣り具屋さんから一通の葉書が届いた。
いつものセール案内かと思い放置していたが、或る日、目を通してみると、それは閉店の案内だった。
これに驚き改めて葉書に目を通すと、その文末はこのように締めくくられていた。
(40年以上の長きにわたり、中略…、ご贔屓、又激励していただき最後は’‘カッコ良く’引退させて頂きまして、本当に有難うございました)、と。※原文より一部を抜粋。
なんという見事な挨拶文だろう…。
この僅か数行に、長く頑張ってこられた、ご主人の感謝の意が込められている。
これは行かねばなるまい…。そう思った。
実は私。このような挨拶状をもらえる立場にない。
以前はクルマで通勤をしていたこともあってか、幾度となく仕事帰りに寄らせてもらっていたが、いつの頃からかそれも電車通勤に替わり、ご無沙汰気味となっている。それだけにセール目当てと誤解されたくないが、そうも言っておれないだろう。
意を決して尋ねてみると、お店は多くの常連客で賑わいをみせていた。店内は昔話やら何やら、閉店を残念がる声で溢れていた。そして否が応にも、ご主人と常連客の会話が耳に入ってくる。
釣具カトウは、こんなにも多くのファンに愛されていたのだ。
そんなごった返すなか、隅っこに陳列してあった小物を置くテーブルを記念に購入。ご主人とは握手までしてもらってきた。
わたしも、そう遠くない将来に同じような挨拶状を配布することになる。
わたしの引き際も、こうでありたいと思った。

六時二十分。
三島湖、ともゑ釣り舟店桟橋。
今回も三島湖にやってきた。
目的は前回瓢箪から駒で、それなりだった桟橋で竿を出すことにある。時間はまだ六時を過ぎたばかり。このような早い時間にきたのにはわけがある。前回の終了間際のチョーチン釣りが、とても印象的だったからだ。あの日は情緒不安定で竿を放り出してしまったが、釣りそのものは面白かった。
浮子をどっぷりとなじませての、チョーチン釣り。これがやりたいのだ。
目標も三十枚に設定した。いつになく強気な数字だ。
十五時に納竿するとして時間は八時間。一時間に四枚釣ると達成出来る。今回は釣果にも拘って頑張る。

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本日の入釣場所の、正面図。
手前に据えてあるテーブルは、釣具カトウでの最後の購入品。

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同上、視線の位置からもう一枚。

 
マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。

☻本日の予定。
・目標 /三十枚。
・釣り方/チョーチン、両団子。
・竿  /朱門峰嵐馬、十尺。
・浮子 /忠相、パイプムクトップ九番。
・道糸 /1号。
・鉤素 /0.4号、450粍+600粍。
・針  /サソリ7号+アスカ7号。
・持参餌/凄麩、粘麩、天々、バラケマッハ。
・納竿 /十五時。

六時四十分。
張り切って投げ込んだ第一投は、あっさりと没してしまった。
餌が重かったせいだ。
うわずり対策にと買ってきた餌、粘麩。
名人が用いると絶大な効果を発揮するであろうこの餌も、わたしには上手く使えない。
重さに違和感を覚えたが、手触りも奇妙だ。なにか、つなぎ粉のようなものが混じっているような気がしてならない。
袋の説明書き(粘麩1+水1+凄麩3)を読んで作ったつもりが、どこでどう間違えたか。わたしの脆弱な浮子では支えることができない。
そこで別種のブレンド(粘麩1+水1+凄麩2+バラケマッハ1)も試してみたが、こちらも思い通りというわけにはいかない。
パチンコ玉より小さく丸めて、そっと、優しく針につけないと沈んでしまう。
これは上級技術者が使う餌ではないか…。
思わぬことで迷路に嵌ってしまった。
手に負えないであればやめればよいのだが、わたしには、おいそれとやめられない事情がある。
それは、先日の職場でのことだ。
スタッフを集めて、つい、エラそうなことを言ってしまった。
みなさんはサッカー選手を目指してワールドカップに出場しようとしているわけはない。また、歌手になって暮れの紅白歌合戦に出演しようとしているわけでもない。うちの事務所で通用するスキルを身につけるくらいのことなら、熱意と情熱。そして創意工夫があれば誰にでも身につけることはできる。一番よくないのは端から諦めて、何もしないことだ。だから頑張って欲しい。と。
ひと様に知ったような能書きを垂れると、おのれ身に振りかかってくることは長い人生で学んできた。しかし、それが魚釣りに影響を及ぼすとは思いもよらなかった。こんなことになるのなら、あんなエラそうなことは言わなければよかった。
そこで浮子をパイプトップに替え、粘麩の含有量を押さえて、なんとか格好をつけてみた。

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本日の入釣場所の、後側面図。
道具の置かれている場所。

十一時。
開始から三時間が経とうとしているのに、なんの進展もない。
そしてここに到り、大きな間違えに気がついた。
わたしは釣りにきたのであって、餌の研究にきたわけではない。わけのわからない頓珍漢な理由で続けていたのでは、いつまで経っても埒はあかない。それにおのれに演説に義理立てして三時間も付き合ったのだから、もういい加減解放してやろう。
やっと粘麩からの撤退を決めたとき、なぜか魚が釣れた。
餌落ち目盛りから下に沈む筈のトップが、上にあがってきた。
どう考えてもこれは魚の仕業に相違ない。そう思って、竿を上げると魚が掛かっていた。合点のいかない魚信であったが、針は魚の上唇の中央を貫通していた。

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本日の第一号。
針は上唇の中央を貫通している。

正午。
本日ただ今の釣果、一枚。
三十枚釣るつもりが、この釣果。
釣果に拘ると言った自分が恥ずかしい。
餌を替えたら釣れると思っていたが、甘かった。
朝の意気込みは何処へやら、とっくに竿を投げ出した私がいる。
そんな捨て鉢となった昼下がり。
浮子の近くにカメが遊びにきてくれた。こんな過疎へわざわざ足を運んでくれた来客を無下に追い返すわけにはいかない。そこで廃棄物と化した粘麩入りの餌を投げ込んでやると、最初は怯えていたが、それが食い物とわかるや、すぐに追いだした。
食ってみると美味かったのだろう。もっとくれ、という。
わたしはプロを目指していたわけではないが、草野球経験者。
老いたりとはいえ、一度覚えたことは体が忘ていない。
そこで鍛えた投球フォームから、ピタッと客人の前に次々と優しく落としてやると、彼も前足を拡げてそれを待つ。その姿があたかも、オーライをしているようにみえきた。
どうやら、コミュニケーションがとれたようだ。
このカメとのやり取りが撒き餌にでもなったのだろうか。
浮子が動いて、二枚目が釣れた。

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浮子の傍に寄ってきた、カメ。

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オーライの体勢で餌を待つ、カメ。

十三時半。
カメが立ち去ると浮子が動かなくなった。
まだ真っ昼間だというのに、今回の釣りも終盤を迎えたようだ。
昔、桟橋で竿を出していた時は遅くまでやらせてもらっていた。
あの頃は番頭さんがいて、いろいろな話をしてくれた。
最盛期の頃の三島湖の話。週末ともなると二百五十艘あった舟が全部出払ったこと。水面が盛り上がるほどいたジャミが消滅したブラックバス登場までの変遷。
そんなことを懐かしむような笑顔で話してくれた。
それに聴き入って夕暮れまで糸を垂らしていた、わたし。
その番頭さんも昨年引退されてしまわれた。
それを知ったのは昨年の今頃。農道跡の釣りから戻ってきた時だった。随分とお世話になったにも係らず挨拶もできなかったが、今はお住まいに戻られて悠々自適に暮らされているらしい。
今回の釣行記は市川の釣具屋さんのことを前文としたが、釣りを再開して八年と少し。これも時の流れか。
番頭さんに思考が流れていると、またも魚が釣れた。
なんで釣れたかわからないが、おそらく番頭さんが釣らせてくれたのだろう。
これをあがりべらとして、一件落着にしよう。
わたしが理想としている釣り。
それは浮子がゆったりと立ち上がり、一瞬の間をおいてから沈み始める。そしてどっぷりと沈み込むまでの間に発生する鋭く強い魚信。この魚信を息をひそめて待つ。これで仕留める快感を求めて釣りをしているのだ。
これに反して今回の釣りは浮子が立つや否や、間髪を入れずに沈み始めた。そして加速度がついて次の瞬間には沈下運動が終わるという、理想とは正反対の釣りをしてしまった。
よかれと思って買い求めた餌は裏目とでた。
いやはや、途は遠い。

最後にもうひとつ。
釣具カトウのご主人、奥さん。そしてスタッフの皆さん。
遅くなりましたが、ともゑ釣り舟店の番頭さん。
お疲れ様でした。
いつまでもお元気で。

お仕舞い。

☻本日の釣況。
・06:40~14:00、10尺 チョーチン/3枚、

☻2015年データ。
・釣行回数/8回
・累計釣果/38枚。


2015年06月27日(土) 。
吉右衛門。



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