亀山湖。
トンネル下。
亀山水産センター。
天候/曇り日、無風。
気温/28度、水温/不明、水色/小濁り、水位/減水1m。
「やっぱり、奴の貌には髭が生えていた」の巻。
亀山湖には釣り船屋が一斉休業する日があるという。
わたしがこの情報を知り得たのは、釣行を翌日に控え日。渋谷のサンスイ釣具店さんへ大べら用の玉網を引取に行った時だった。早速、手元の端末でその一斉休業日とやらを調べてみると、なんと明日。このタイミングの悪さに頭を抱えると、武重店長が貴重な情報を提供してくれた。
その情報とは、一斉休業日にも関わらず営業している店が、一件だけあるというのだ。
わたしは亀山湖の新参者。
釣り舟屋の数(あとで調べたら七件だった)さえも知らない。
それだけに、それがどのような仕組みになっているのかわからない。最初は輪番制で店を開けているのかとも思ったが、そうではないらしい。
広い亀山湖で営業している店が一軒だけであれば、さぞかし空いているだろうが、果たして肝心の舟があるかどうか。今度はそのことが心配になってきた。それを確認しようにも、手元の時計は十九時を廻ったところ。予約の電話を入れたくても、すでに店が閉まった後だろう。
一抹の不安がないわけではないが、最近、熱に浮かされつつある釣行意欲の前にはどうしようもない。
とにかく、駄目で元々。ここは一番、行ってみることだ。
六時。
亀山湖。
亀山水産センター桟橋。
店主はご親切な年配の方だった。
亀山湖だか小櫃川だとかの漁協長(組合長だったかもしれない)をされているとも窺った。
その漁協長から近隣のポイントの説明を受けて桟橋へ降り立ったのだが、またもやらかしてしまった。
舟底に栓をするのを忘れて荷物を積載したら、浸水の憂き目にあった。これは前回にも犯した失敗だから、今後は嫌でも覚えなければならない必須項目だ。そして舟底に溜った水をやっとの思いで搔き出し、桟橋の隅からオールを持ってくると、今度はオールクラッチが無いのに気がついた。
オールクラッチが装着されてない舟があるなんて…。
呆然とする、わたし。
しかし、よく考えてみれば他の釣り客はみんな船外機で移動するのだから、オールクラッチなどは不要だ。こんなところにも、ブラックバス主体の池で釣りをすることがどういうことか、実感せずにはいられなかった。
七時。
朝からとんだ目に遭ったが、気を取り直して出航。
今朝すでに出漁した同業者の数は、定刻に出た二名と、わたしが桟橋で悪戦苦闘している間に出た二名の都合、四名だ。
こちらの近隣にあるポイントは二カ所。
桟橋の東南東の方向に小さな窪みがある。そこが湾処となっていて、へら師はいつもその入口付近で竿を出しているようだ。
そしてもう一ヶ所は先ほどまで、わたしが立っていた桟橋。
しかし、桟橋から直接竿を出すのは掟破りで、あくまで、舟着けをしてから竿を出すのが規則と訊かされた。
先ずは湾処の方へ漕いで行ったが、ブラックバスの釣り客(以降の表記はバス師)の往来が頻繁で釣りになりそうもない。それに「ホテルワンド」なる名称も野暮っぽくてつまらない。それなら桟橋と言うことになるが、こちらはこれから出航しようというバス師で賑わっている。
さて、困った。
何処に行けばよいものやら…。
事前に何も調べてこなかった行き当たりばったりの釣りだから、途方に暮れた。
釣行意欲に浮かされたあまり、事を急いてしまった感がある。
そこで長考一番、頭に浮かんだのは、前回と同じ川面台の方に舟を進めること。
しかし、わたしの頭には地図・地形はおろか北マーク(方位)さえも入っていない。それゆえ、川面台の方角くらいはボンヤリとわかるが、距離まではわかろう筈もない。
それに亀山湖は、「湖」の名称が付いているとはいえ、その実態は幾本もの河川が入り混じった集合体。
昔、三島湖の鯨島の辺りで迷子になって、島の周りを何度も彷徨した御仁の話を訊いたことがあるが、川面台へ旅立つなら、わたしもそうならないように気をつけて行くことだ。
八時。
亀山湖。
トンネル下。
辿り着いて陣を張ったのは、トンネル下。
水産センターからみて川面台の向こう側に位置するポイントだ。
このトンネル下まで来るのに、旅立つなる表現は大袈裟だった。そうは遠くなかった。舟が大きくて漕ぐのに往生したくらいのことですんだ。漕いできた距離は戸面原ダムに換算すると、桟橋から前宇藤木を経て宇藤木川を遡った西川淵の辺り。三島湖ではともゑ桟橋から最果てのダムサイドと言ったところか。
そしてその道のりは、こうだった。
桟橋を出てゆるりと舟を漕いで行くと、右手に竹薮があった。ここが前回世話になったボートハウス松下さんの釣果表に出てくる「竹薮」だろうか。その竹薮に沿って時計回りに廻ると、そこが「川面台」。前回竿を出したポイントだ。川面台をさらに進み、再び時計回りに廻ると「サッタ下」なるポイントがある筈だが、そこが何処であるか迄はわからなかった。
仕方なく、ひと休みして周囲を見渡すと、お待ちしていました、とでも言わんばかりに立木が並んでいる場所があった。
そこが今、わたしが舟を結んだ、「トンネル下」だ。
このように水産センターを出てからトンネル下に到る経過を文字にしてみたが、どうにかやってこれたのは、前回の記事でも記させてもらった、「とーちんさん」のブログのお陰だ。
(http://ameblo.jp/love-herabuna-fishing/)
前回の釣行のあとも今回の亀山行きに備えて、夜な夜な、何度も読み返させてもらった。
さらにわたしが記したメッセージが幸運にも、とーちんさんの目にとまり、とーちんからもメッセージ(十月十一日の片倉ダムの記事)をもらうことができた。
とーちんさん、改めて、ありがとうございました。
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マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。
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☻本日の予定。
・目標 /鮒属の型をみること。
・釣り方/チョーチン両マッシュ。
・釣り竿/剛舟、二一尺。
・浮子 /杉山、パイプトップ六号。
・釣り糸/2号。
・鉤素 /1.2号、400粍+600粍。
・釣り針/巨べら針16号、12号。
・持参餌/マッシュポテト、マッシュ団子、軽麩、凄麩。
・納竿 /十五時。
九時半。
桟橋に立ってから、二時間十五分。
可成りの紆余曲折があったが、最初のマッシュを投げ入れた。
今日は竿と玉網の進水式。
新たにわたしの道具となった竿と玉網に魚の感触を味あわせてやりたいが、そうは問屋が卸してくれるかどうか。
正直言って、見通しは可成り暗い。
先ずは、もじりがない。
この周辺もそうだが、ここへやってくる道中も一度だって拝むことができかった。そして竿の長さにも疑念がある。
三十分ほど前のことだ。
仕掛け作りに励んでいたら、こちらを探りたそうな顔をしていたバス師の青年と目が合った。
「おれは未だ始めないから、遠慮しないでおいでよっ」
そう声を掛けると、我が意を得たりとわたしの周辺を探りにきた青年が、疑似餌を投げ終えた帰りに謝礼とともに、こう言った。
「ありがとうございました。御礼で言うわけではないですけど、魚は十四尺の棚に居ますよ。昨夜からの冷たい雨でターンオーバーしたようです」
バス師の世界も釣り竿の長さは、「尺」で表現するのか?
それを尋ねてみると、
「いや、オレ。へらもやるんですよ。この前はあちらの対岸で五十糎を釣りました…」。
彼は親切心で近代装備の魚群探知機を使ってくれたのだろうが、そのことは、訊かなかった方がよかった気がしないでもない。
この数日は不調のようだが、それまで釣れていたのは十八尺から二一尺。それに合わせて、勇躍、振り始めた新竿に不安がもたげてきたからだ。
それにターンオーバーなる言葉の意味もわからない。
よく武重さんや戸面原の相沢さんも使われるが、好条件の時には
出てこない単語だから、今日は条件がよいとは、とても言い難いのだろう。
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本日の入釣場所を対岸から撮った、近景図。
帰路に対岸から撮った。 |
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十時。
浮子が動きだした。
あまりの静かな湖面からオデコも覚悟していたが、そう捨てたものでもない。しかも、マッシュを打てば打つほどに動きが活発化してきたから、今では、期待感すら沸いている。
そして次の瞬間、その期待に応えるかのように強く鋭く沈んだ。
この魚信りにドンピシャリのタイミングで合わせると、
やった!。
しかし、左手が玉網に伸びようとした時、俄に手応えが怪しくなってきた。それなりに抵抗はされるが、その反応に疑念を抱き始めると、矢張りだ。
湖面に顔を出したのは、ブルーギル。
それにしても、亀山湖のブルーギルは大きい。そして大きいばかりではない。南蛮渡来の色をしている。
わたしが少年の頃。二子玉川の橋の下で追っていた日本古来の魚とは、まるでちがう色だ。
十一時。
それにしても閑散とした、静かな湖面だ。
遠くの方でへら師がぽつりぽつりと見える。そしてこちらの主人公であるバス師の舟も、時たま往来するだけだ。
これは、ほぼ無人と言ってもよいだろう。
これならバス師に迷惑を掛けることもあるまい…。
亀山湖へ来るには、この日に限ると思った。
そんな長閑な雰囲気を味わっている時だった。
突然、事が起きた。
浮子がこつ然と湖面から、かき消された。
空かさず合わせると、ゴツンっ!。
この手応えは、奴だ!。奴が現れたのだ。
その奴とは、ズウダ親水公園で穂先を引き抜いていった奴。
川面台では仕掛けを引きちぎっていった奴。
あの怪力無双のならず者だ。
見てろッ!。
今日こそ、ツラを暴いて、正体を突き止めてやる!。
奴との格闘が始まった。
奴の正体は、おおよそ想像がつく。
しかし、大べらの可能性だって微かにだが、捨てたわけはない。
今日こそ、それを確認したい。
過去数回は一方的に竿がのされるか、竿が折られる恐怖から腰が引けたが、今日は違う。
何が違うって、竿が違う。
今日卸した新竿は、ならず者と勝負出来る、強靭な竿だ。
この竿を使って奴とわたしとの勝負になった。
しかし、なかなか勝負がつかない。
グッと力を入れて引き揚げるが、次の瞬間、また潜られる。
先ほどから、その一進一退を繰り返している。
この闘いに終わりはあるのだろうか…。
竿は強靭かもしれないが、仕掛けが伸びきって切れはしないか。
焦燥感が出てきた。
いっそのこと、立ち上がって一気に引き抜くことも考えたが、へたに立ち上がってバランスでも崩そうものなら、こちらが湖底に引きずり込まれるような気がしたから、それはやめた。
そして十数分が経過した頃だろか。
奴に疲れがみえ始めた。抵抗が幾分かやみだした。
この機を逃してはならない。勝負に出た。
ウォオオーっ!
全力で竿を天にかざすと、遂に勝負がついた。
わたしが勝った。奴を湖面に引きづり出した。
しかし、そのツラを暴いた瞬間。
わたしの微かな期待は吹き飛んだ。
正午。
本日ただ今の釣果、零。
やっぱり、奴の貌には髭が生えてきた。
髭がないことも微かに期待していたが、その正体を暴きだすと、今後はあまり関わりたくないと思った。
そして、竿を替えた。
次峰は、十七尺。
遅ればせながら朝のバス師の情報に合わせたのと、深い棚には奴の仲間が未だ潜んでいるような気がしたからだ。
棚を十四尺にすべく、五本継の竿を四本にして再開。
ひと呼吸おいた頃から、魚信が戻ってきた。
そして数投に一度は、釣り針が魚を捕らえる。
しかし、釣れてくるのは、南蛮渡来の色をした雑魚ばかり。
こいつが、これでもかとばかり釣れてくるが、不思議と腹が立たない。これは何故だろうか…。
それはおそらく、今日の長閑な雰囲気と、ここでは浮子が動くことさえが希少と思っているからだろう。
そして棚を四本から三本。そしてチョーチンへと落ち着く間もないほどに動かしてみるが、どこの棚でも雑魚が顔を出す。
これを延々と繰り返しているうちに可成りの時間が経った。
時計を見ると、十五時。
もっと続けたい気分であるが、これから恒例の「対岸から見た風景写真」を撮らねばならないし、初めての船宿であることから、厄介者扱いされないように振る舞わねばならない。
今日は大べらを拝むことは叶わなかったが、ならず者の正体を暴くことができた。それにバス師にも気を遣わずにすんだ。
よい日に来れたものだと思った。
その確認できると、一件落着。
釣り竿を写真機に持ち替えて、桟橋へと舟を漕ぐ。
お仕舞い。
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小月橋、笹川に架かっている橋。
本日の入釣場所は、この先にあるトンネルの下。 |
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☻本日の釣況。
・09:20~11:40、21尺 チョーチン、両団子/〇枚、
・12:00~15:00、17尺 三本~チョーチン、両団子/〇枚。
☻2015年データ。
・釣行回数/16回
・累計釣果/81枚。
2015年09月06日(日) 。
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