吉右衛門へら鮒釣り2015

  ◎第十七回釣行
8月31日(木)。

西湖。
沖ブナイ。
西湖レストハウス。
天候/雨のち曇り、中風時々凪ぎ。
気温/21度、水温/不明、水色/エメラルド、水位/満水。 

「ふたたび、西湖へ」の巻。

またも雨が降っている。
しかも軒を叩く音からして、雨は大粒のようだ。
今日は、ふたたび西湖へ行く日。
滅入るものがあった。
わたしは湖沼の釣りに特化している割には雨具を持っていない。
それは普段天気予報に雨や風のマークが表示されると、すぐに腰が砕けて出掛けるのを回避することにある。今朝も行き先が房総のダム湖であれば悩むことなく中止をきめている。それに雨合羽らしき物も持っていないわけではないが、防水機能などはついていないし、パラシュートのような大傘も悪天候の前にはなんの役にも立たないだろう。
しかし今回は、やめる気などさらさらない。
この程度のことで、へこたれるものではない。
それは前回の釣りですっかりと、西湖に魅せられたことにある。
遠路はるばる行って悪天候なら仕方がない。引き返すことも覚悟のうえだ。とにかく、旺盛なる釣行意欲の前にはどうにもならない自分がいる。身体がずぶ濡れになるのはよしとして、釣り道具だけは濡らさないようにブルーシートを多めに積んで家を出た。

四時半。
西湖、根場地区。
西湖レストハウス。
夜が明ける前についた。
愛車から出ると雨脚が強い。ザアザアと降っていて、家を出たときより酷くなった感さえある。暗闇のなか、浜へ車を寄せたが誰もいない。無人の浜だ。
しかも肝心要の、釣り舟屋が閉まっている。
この時間に開いていないということは、もしかしたら悪天候で、やすみなのかもしれない…。
悪い予感がした。
その確認をしたいが、この時間に戸を叩くわけにはいかない。
しばし様子を見るべく、あたりを彷徨いていると妙な気分がしてきた。わたしはあまり人相のよい方ではない。この顔ですいぶんと損をしている。それだけに暗闇に晒した顔を新聞配達員にでも見られると不審者として通報されかねない。阿漕なことは何もしていないが、まるで犯罪者のような気分だ。
心細く待ちわびていると、やっと店が開いた。
安堵して店に入れてもらったが、後続者が現れない。
今日は例会が組まれていないらしい。となるとフリーの客頼みとなるが、この天気を考えると果たして何人が来るのだろうか。
料金は支払い終えたが、最悪、わたし一人でも営業はしてくれるのだろうか。これはこれで困った気がした。
わたしひとりでは申し訳ない。
その場合は気を利かして引き揚げた方がよいのではないか…。
そんな思案をしていると、バタバタっと幾人か現れた。しかし、みな出舟を躊躇っている。それはそうだろう。雨は我慢するとしても、これに風でも加わろうものなら一巻の終わりだ。が、誰彼ともなく料金を支払うと、浜へと歩きだした。
そんななか、わたしに気さくに話しかけてくれた方がいた。
大宮ナンバーの方だ。
訊けば数日来こちらに滞在されていて、昨日も前浜で竿を出したという。筋金入りの西湖ファンだ。
何処の池にも根強いファンがいるものだと思った。

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真っ暗闇の浜。
喉ッ首の方に灯りが見える。

五時。
西湖、根場地区。
夜が明けきらないなか、出舟。
俄に雨脚が弱くなってきたが、予断はならない。
この天気を考えると前回も狙っていた「エゴ」は、浜から遠く撤収を考えると難儀と思える。
そこで向かったは、「沖ブナイ」。前回と同じ場所だ。
滅多に来れない西湖で二度も続けて同じ場所に入いるのも芸のない話だが、この天候を考えると、竿を出せるだけで有り難いと思わなくてはならない。
沖ブナイには一番早く着いた。
何処にでも入れる状況だが、特に希望があるわけではない。それゆえ、舟を留めるブイは順序よく隅っこのものを選んだ。ブイにはマジックインキで(4)と書いてあった。
舟を留めていると先ほどの筋金入りの方がきて、3番ブイに留められた。改めて挨拶すると、最近市制を施行した白岡市から来られたという。
今回はこの「白岡の名人」と呉越同舟することになった。

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本日の入釣場所の、正面図。
山には雲がかかっている。
先鋒、十六尺。

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同上。
視線の位置からも撮った。

 
マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。

☻本日の予定。
・目 標/二十枚。
・釣り方/チョーチン。
・竿  /特作伊吹16尺。
・浮 子/忠相ムクトップ13号。
・道 糸/1号。
・鉤 素/0.6号、450粍+600粍。
・針  /サソリ7号。
・持参餌/凄麩、天々、PDH、S団子、グルバラ。
 ※PDH、パウダーベイトヘラ。S団、スーパー団子。
・納 竿/15時半。

六時十五分。
西湖。
沖ブナイ、四番ブイ。
前回より遅れること十五分。最初の団子餌を投げ入れた。
遅れた原因は雨具の用意に手間取ったことにある。
前方の山には雲がかかっている。
いつまた本降りになってもおかしくない。救いはあまり風が吹いていないことだが、これから先はわからない。しかし、こうであることは覚悟のうえ。今更、じたばたとはしないが、せめて昼頃までは竿を振らしてもらいたい。
さて今回の竿も、新しい竿。長さは十六尺。
先々月に戸面原ダムで卸したあの「ための効く」竿だ。
あの竿の感触を気に入り、十六尺を手に入れた。なぜゆえ、十六尺かと云えば、この長さがシリーズの最長尺だからだ。
あの日の感触を味わいたいが、それを味わうには、あまりもじりがない。しかし、魚はいる。げんに隣の名人は忙しく玉を濡らしている。わたしにもおこぼれが廻ってくることを願い浮子を眺めていると、ちょこんと動いて、最初の一枚目が釣れた。

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本日の第三号。
一号は撮影寸前に逃げられ、
二号はビジュアル的があまりよくなかった。

九時半。
あまり釣れない。
カウンターに表示されている(4)は、前回より少ない数字。
何とか挽回したいが、その策を持ち合わせていない。
さて、どうするか。
白岡の名人はと云うと、こちらは釣れている。
ある瞬間など、土佐の鰹の一本釣りように釣れていた。
藁にも縋る思いで名人に餌のブレンドを教わりたいが、
「教えてください」とは云いだす勇気がない。
わたしは人さまから物事を教わるのが苦手だ。
釣りの場合が特にそう。生来の理解力に欠けているから相手が熱弁を揮えば揮えるほどに、習得せねばならぬ、との強迫観念に襲われる。それゆえ尚更、真剣に耳を傾けるのだが、この趣味に必要な向上心、センス、器用さの何れも持ち合わせていないから、習得することができない。それに鶏ではないが、大概のことは三日も経つと、忘却の彼方へといってしまう。それがわかっているだけに、申し訳ない気持ちに苛まれて、云いだせないのだ。
しかしこの悪天候なか、千葉から長駆遠征してきた自分のことを考えると、このまま貧果で終わらせるのは、あまりに可哀想だ。
そこで蛮勇を奮い、この可憐とも思える心中を告白してみた。
「あのお、餌を教えて頂けないでしょうか…」
この台詞を吐くのに、どれだけ悩んだことか。
名人はその心中を察してくれたのだろう。こう応えてくれた。
「ちょうど今、餌を作ろうかと思っていたところなのですよ」
そう云うと、わたしの方に餌ボールとカップを向け、
「○○を二杯、△△を一杯。そして□□を一杯入れて、水をこう入れる。少し経ったら、××を振りかけるようにして混ぜる…」
丁寧かつ、親切に教えてくれた。
餌のブレンドもそうだが、その鷹揚なる対応にはブレンド以上の大切なものを教わった気がした。
残念なことにわたしが持ち合わせていない餌もあったが、それはそれ。近似値の餌で代用すると、幾枚か釣ることができた。
大きな魚を、ための効いた竿で釣る。
右腕を天に翳し、仰け反るようにして引き込む。
そして左手一杯に伸ばした玉で掬いあげる。
嗚呼!この快感。
これを味わいたくて、西湖にきているのだ。

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こんなに大きな魚も釣れたが、
残念ながら釣り針は唇の外側に刺さっていた。

十時半。
お陰さまで、カウンターの数字が(9)になった。
ということは、新しい餌で五枚の魚が釣れた。
この数字に安堵していると、どこからともなく楽団が奏でる音楽が聴こえてきた。音色からして未だ練習の域を出ていない。
高校生が夏合宿でも張っているのだろうか。
合宿と云えば思いだすとことがある。
実はわたしも西湖での合宿に参加したことがある。
あれは、1969年の夏のこと。
わたしが高校一年生の時だった。
その時に泊まった宿が、西湖ユースホステル。
あの時、みなで夜、釣りをした。釣った魚はヤマベ。そのときの川が、いまにして思えば、根場の流れ込みだったと思う。
前回お邪魔したとき、女将さんにその話をしたら、すでにユースホステルはなくなって、今は更地になっているという。
ということはあのユースホステルは、魚釣りのポイントとして名を残したことになる。帰りがけ、その跡地にでも寄ってみようかと思案していると、女将さんが登場。弁当の出前にきてくれた。
こちらの女将さんは、とても素敵な方だ。
わたしのような新参者にもきさくに話をしてくれる。戸面原ダムの女将さんもそうだが、釣り船屋には素敵な女性が嫁ぐようだ。

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次峰は、十八尺。

十二時半。
本日のただ今の釣果、九枚。
ずいぶんと前に雨はやんだ。もう降ることはないだろう。
そうなると最初に思い描いた、エゴの方にも足をのばしたいが、名人の傍にもいたい。お話が面白いこともあってか、離れがたいものがある。それにこうして並ばせてもらっているのも、何かの縁。今回はここに骨を埋めることにした。
竿を替えた。
特に意味はない。
ための効いた竿を堪能できたので、長めの竿も出したくなった。
しかしこの選択が、凶と出た。
浮子と穂先が喧嘩を始めた。
頭の上の方でカチカチと音がする。何故かわからないが、浮子が穂先にあたっているのだ。特別風が強いわけでもない。前回も同じ仕掛けで施行したがなんの問題もなかった。そして、その原因を突き止めずに続けたのが拙かった。一枚釣った所で浮子を支えるゴム管を中心に釣り糸がクチャクチャになった。
これは応急措置ではなんともなるまい。
折角の西湖で仕掛け作りに励むことになった。
が、上手くいかない。
睡眠不足がこんなところで顔を出した。ただでさえ老眼で見えないヨリモドシの穴が霞んできた。何度やっても通せない。
これは困った。それでも根気強くトライしているとやっと貫通することができた。これが通じればあとは簡単。そう思って仕上げにかかるが、またもアクシデント。今度は釣り糸がヤケに長い。まるでバカ出し仕掛けのよう。そこで釣り糸をちょん切ったのが痛恨の失敗。完成したと思って竿を立てると、なにかおかしい。よくみると、釣り糸が穂先の先端から穂持ちの方にずれていた。
今度は寸足らずになった。あまりのお粗末さに声も出ない。
暫し呆然としていたが、気を取り直して釣り糸を張り替えると、やっとの思いで完成するに到った。
失った時間は、六十分。
再開はできたが、一人芝居は終わらない。
またも喧嘩が始まり、仕掛けが絡まった。
もう涙も出ない。
とはいえ、この期に及んで仕掛けを作り直す気力もない。
絡まった釣り糸を解きほぐすべく七転八倒するが、老眼に鞭をうったところでどうなるものでもない。
イライラが募ると、おのれの不器用さに怒りがこみあげてきた。
くそぉおーっ!。なんでこうなるのだっ!。
堪忍袋の緒が切れて、釣り糸を思い切り引っ張ったら、何故か解けた。
時計を見ると、十四時半。
終了まで六十分しかない。
おれは何をしていたのだろう…。悲しくなった。
しかし、そう悪いことばかりは続かない。
天はそんな不器用なわたしに優しかった。見放さないでいてくれた。
チリチリになった釣り糸を騙し騙し操り、餌を入れると直ぐに浮子が動いて釣れた。しかも、釣れ続いた。
なにかが舞い降りてきてくれたのか…。
わたしも土佐の鰹の一本釣りを味わえた。
そして終わってみれば、この六十分で十枚の魚が釣れていた。
こうなると、泣いた烏がもう笑って、一件落着。
ご機嫌での、納竿と相成った。
そして笑顔笑顔で白岡の名人へ一日の御礼を述べ、浜へ戻る。
今回も、楽しい一日でした。

お仕舞い。

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ユースホステル跡。
四六年前の少年の頃、ここでの合宿に参加した。

☻本日の釣況。
・06:15~11:00、16尺 チョーチン両団子/10枚、
・12:30~15:30、18尺 チョーチン両団子/10枚、

☻2015年データ。
・釣行回数/17回
・累計釣果/101枚。

2015年09月13日(日) 。
吉右衛門。



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