宮沢湖。
ベロ。
宮沢湖管理事務所。
天候/晴天、無風。
水色/澄み、水位/減水0.12m。
「宮沢湖へ挨拶に行ってきた」の巻。
宮沢湖の営業が明後日で終了となる。
すいぶんと古い話になるが、わたしはこの大きな灌漑用水池に通っていたことがある。それは昭和五十年代の頃で、舟を固定するにも、現在のような張り巡らされたロープに結ぶのではなく、四個のアンカーを沈めていた。そして釣り舟の数は五十艘。この舟の確保が大変だった。二週間前の午前十時に予約の電話を入れるのだが、大人気の釣り場だけに、数回に一度しか確保できなかった。
その宮沢湖がへら釣りの営業をやめてしまうとは思ってもみなかった。これも時代の流れといってしまえばそれまでだが、へら師の減少がそのまま釣り場の縮小につながっていくようで、とても寂しい。
その宮沢湖にゆくかゆくまいか迷っている。
宮沢湖へゆくことは年の始めから計画をしていた。
が、困ったことが起きた。
ここにきて体調があまりよろしくない。
女房が拾ってきて伝染された流行病の余韻か、はたまた、花粉の仕業かは定かでないが、どうにも体がだるくて仕方がない。
さらに滅入るのが、今の時期が年度末ということだ。今日も仕事の都合で中央自動車道の八王子まで行ってきたが、上り車線の渋滞といったらなかった。また、通勤帰りに擦れ違った東関東自動車道の西行きも同じだった。
私の住まいから宮沢湖のある飯能市までの距離をはかると、往復にして250キロもある。それだけに、この体調と鬼のような渋滞を考えると気が滅入ってくる。
とはいえ、感傷的になっている自分もいて、最後の機会に竿を出したいとの願望も強くある。
さて、どうするか。
すでに八割方、腰がひけてるが、決行の如何は、あす起きてからにして床に入った。
朝になった。
未だ考えがまとまらない。
実は二時間前に起きて、すでに中止を決めていた。
そしてふたたび眠りについたが、またも目が覚めて、うじうじと考えだした。こうして踏ん切れないところをみると、おそらく未練を断ち切れないのだろう。
あれは昭和五一年か、五二年の頃かと思う。
当時のわたしは町工場の工員だった。
その時の同僚に誘われて初めて舟に乗ったのが宮沢湖だった。
アンカーで舟を留めることさえも知らずに、ベロで竿を出した。
確か四、五枚のへら鮒を釣り上げたかと思うが、大興奮したのを覚えている。
それに所属していた、つつじ野べら会でもよく通った。
前号に続いてつつじ野べら会の名が出たが、あの頃のメンバーで今もへら鮒釣りを続けているのは三、四人しかいない。
過日先輩が天神の入り江附近でよい釣りをされたとの連絡を受けたが、現役も含めて、だれかひとりでもゆくのだろうか。
わたしのような既によそ者と化した分際が行った処で栓のない話だが、世話になった釣り場だけに、挨拶にゆくべきではないか。
それにこの機を逃しては、もう竿を出す機会はない。
それを思うと妙な義務感のようなものが湧いてきて、ゆく気になってきた。
花も嵐も踏み越えようと思った。
今さらながら、やっと考えがまとまり床から這い出たが、時計の針は間もなく六時を指そうとしている。
出舟は確か七時だから、大遅刻は必定。
今度は舟の確保が心配になったきた。
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マークした地点は大まかです。
正確性は欠如しております。
Yahoo!地図より。
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☻本日の予定。
・目 標/宮沢湖のへら鮒に挨拶をすること。
・釣り方/チョーチン(バラケ+グルテン)。
・釣り竿/普天元独歩、十二尺。
・浮 子/忠相パイプムクトップ、十二号。
・釣り糸/1号。
・鉤 素/0.4号、200粍+600粍。
・釣り針/アスカ針 7号+5号。
・持参餌/バラケマッハ、ガッテン、天々、α21、力玉。
・納 竿/十四時半。
九時二十分。
宮沢湖。
ベロ。
運がよかった。
(ベロ)が空いていた。
ちょうど一艘分のスペースがあった。
宮沢湖に到着できたのは八時。公式出舟時間の一時間後だった。
それでもベロで竿を出せるのは、わたしの為に空けてくれていたようなものだ。
前日まで希望していた本命の場所は、このベロだった。
それが叶わぬ時の(天神の入り江)附近はすでに売り切れていたから、この喜びは大きい。さらにいえば、桟橋釣りも覚悟してきただけに、尚更だ。
体調不良と鬼渋滞を押して来た甲斐があった。
さて、ベロ。
ベロを希望していたのは前記の通り、懐古の情にある。
そんな理由だけに、端から豊漁などは期待していない。
それでなくてもベロは、まったく釣れていないらしい。
出舟時にも、(西の入り江)附近に割り込むことを薦められた。
そんな経緯で始めた釣りだが、思わぬ展開が待ち受けていた。
沈黙を守ると思われた、浮子が動きだした。
オデコと一枚のせめぎ合いになると決めつけていただけに、これは意外だった。
もしや、ひょっとするかもしれない…。
身を乗り出して、竿尻を強く握りしめた。
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本日の入釣場所の、側面図。
ベロから竹薮、そして西の入り江までズラッと並ぶ常連さん。
また、後方の浅場にも別れを惜しむ釣り人が並んでいる。 |
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十一時。
本日ただ今の釣果、○枚。
浮子が動いたことに胸を踊らせたが、何の成果もないまま、九十分が過ぎた。
浮子は今でも動く。
頻度は少ないが、ピクリっ、と、一節だけ沈む。
しかし今となっては、浮かれるものはない。
何度竿を合わせても空振りだったから、今はもう、浮子を動かす犯人を、ワカサギと結論づけている。
そんなことで竿は惰性で振っているだけで、思考はとっくにへら鮒釣りから離れて、昔の釣りに流れている
あれは大雨の日だった。
ずぶ濡れのわたしを舟着き場附近の浅場にいた職場の上司が、こっちへ来い、呼んでくれた。そして型を見れた時は嬉しかった。
社内旅行で三宅島へ行った時だった。
宮沢湖の例会にどうしても参加したくて、一日早く抜け出すと、会社からもの凄く嫌な顔をされた。
初めて使った角麩で脳天トンカチを経験したら、一時、角麩の病み付きになった
逆の思いもある。
あの頃の宮沢湖は、釣りボートと遊覧ボートが仕切りのない呉越同舟だった。つつじ野べら会の例会の時、子どもの好奇心にせがまれて、わたしの舟に近づいてきた遊覧ボートの家族に、大きな声をあげてしまったことがあった。
今にして思えば、恥ずかしいことをしたものだ。
へら鮒釣りをしていること。多勢で釣りをしていること。やっとの思いで予約をとれたことなどが、こうした愚行に及んだと思われるが、あの時の家族はとても嫌な思いをしたに相違ない。
まさに若いが為の所為で、
本当に申し訳ないことをしたものと思う。
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本日の入釣場所を、背後から撮った図。
赤○印のブイに着けた。
この写真は帰路に撮ったもので、
入釣時には、もっとたくさんの釣り人がいた。 |
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正午。
昔を懐古している場合ではなくなってきた。
ワカサギと思って諦めていた魚信に変化が起きた。
惰性で合わせていた竿に、ゴツンっ、と手応えがあって、鱗が空を舞った。
これはおもいがけないことだった。
浮子を動かす犯人は、へら鮒だった。
またも緊張が走り、竿尻を強く握りしめた。
しかし緊張したところで、それが釣果に繋がるわけではない。
そこで、わたしにできる精一杯のことをやってみた。
餌の配合を替えた。
鉤素の長さを替えた。
浮子下の長さを替えた。
釣り竿以外で考えられることの、すべてをやってみた。
しかし埒が明かない。なにをやっても空振りが続くだけだ。
こうなると竿も替えるべきだが、これは替えない。
なぜなら、今日がこの竿のデビュー戦だからだ。
そんなことで、もう手も足もでなくなった。
こうなると残された手は、浮子の動きを片っ端から合わせる肉弾戦となるが、それをせずとも、打開策はなかろうか。
舟上で悩んでいると、ひとつだけ手があるのを思いついた。
三名湖で手に入れた、力玉があるのだ。
この力玉。
三名湖では大風の中で五枚の釣果を得たものの、はっきりとした使い方の理解ができてない。そこでサンスイ川釣り館の武重店長にその使い方を尋ねてから投げ入れると、してやったり。
ついに、へら鮒と出会うことができた。
よかった…。
嬉しさよりも、なぜか安堵感の方が大きかった、
散々空振りした挙げ句の釣果だけに、気恥ずかしさから、喜びを現すことができなかった。粛々と記念写真を撮り、遊んくれたへら鮒に別れを告げて池に戻した。
釣果を得られたことで、大きなケジメをつけらえたような充足感が湧いてきた。そして心地よい満足感に包まれた。
どうやら、この一枚だけで満腹になったようだ。
若い頃によく遊びにきた、宮沢湖。
多くの釣り人を魅了した、宮沢湖。
釣り人に悲喜交交を味合わせた、宮沢湖。
その思いを噛み締めると、一件落着。
納竿と相成る。
戦いすんで日が昏れて。
宮沢湖でへら鮒釣りができなくなるのは寂しいが、最後の挨拶にゆくことができた。
これで宮沢湖とはお別れになるが、今後もへら師の減少が、そのままの縮尺で釣り場と釣果を縮ませてゆくと思う。
しかし昔と今とでは、放流量が減少しているとはいえ、まだまだ今の方が釣れる。それに釣れてくるへら鮒も大きくなった。
宮沢湖に限っても、或る年の十二月の月例会で、二十枚の釣果を記録した会員がいてびっくりしたものだ。それに夏場でも十瓩を超えることは滅多になかったと記憶している。
とにかく釣り場を運営している池主さんや管理者の方々には、健全な形で採算ベースにのせてもらう必要がある。
その為には競技会は別としてフラシの限定使用やブラックバス師との呉越同舟も含めて、いろいろなことを甘受しなくては、野釣りに明日はない思う。
わたしのようなオデコ釣り師が生意気を言って、ごめんなさい。
お仕舞い。
☻本日の釣況。
・09:15~13:15、
12尺 チョーチン(バラケと力玉)/1枚、
☻2016年データ。
・釣行回数/6回
・累計釣果/26枚。
※お断り。
この釣行記は、iPad等の端に合わせて編集しています。
2016年04月10日(日) 。
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