水温不詳 満水 澄み。
豊英湖 タツボ検量台。
豊英湖ボートセンター。
猫に小判、豚に真珠、オレに検量台。
どんな名ポイントでもオレが竿を出すと……。の巻。
あれは前回の釣行記を書いた日の事だったと思う。
今年は豊英湖にも年に4〜5回……、と記したのが頭に残っていたのか、赤松の下で浮子が鮮明に動いた夢を見た。
これを見たからには、居ても立っても居られない。
着舟に苦労するのは覚悟の上。花も嵐も踏み越えて、今回は豊英湖に、夢に出ててきた魚を釣上げに行くのだ。
昔の恋人にでも逢いに行く様な気分。
そんなルンルン気分で千葉の自宅を出発したのが午前五時。今回は出舟前に現場について出舟状況も見届けたい。自宅から69.4kmの道程を麓の雑貨屋さん経由で現場には六時十五分、到着。
事務所に入ると、先に来られていた、千葉の名人に声をかけてもらった。「こっちにも来るんだ」
「今年から少しずつ、来ようと思ってます」
「前に会った時は、雨が降っきて雨宿りしてたよね。ともゑからテントを借りてやればよかったのに」だって……。
こんな会話の後、管理人さんに料金を支払い挨拶をしていたら、真後ろで名人のグループの話す声が耳に入ってきた。何やら入釣先を相談している様子。
あかまつ……が、どうとか言っている。
ナヌ ッ赤松 ! 。
……さて、参ったぞ。行き先が重複してしまった。先に行って権利取りを主張するか。しかしなぁ、同じ地域で結構な頻度でお逢いするのだから知らん顔をして、先に舟を着けるわけにもいくまい。では、どうすれば正解なのだ……。出舟前から窮地に陥ってしまった。
六時三〇分。
桟橋に立ったのは、名人のグループ五名、オレ、知らないオジさん、の計七名。そして駐車場にも一名いる。
そして、赤松に強行するかを悩んでいるオレに名人が、
「いやね。ココが初めてで、舟が苦手なのが居るのよ。だから赤松に案内しようかと思って。お宅は ? 」
「オレは、タ、タ、タツボです」
「そう。今日はタツボはひとりだよ。頑張って」だって……。
しまった。思わず「タツボ」なんて言ってしまった。先週金曜日に、サンスイの武重店長に初心者向けの場所を教えてもらったのが頭に残っていたのだ。
結果、今の不用意なひと言で赤松に別れをつける事に成ってしまった。
六時四〇分。
朝靄の中、桟橋を出立。
名人のグループは桟橋で未だ和気あいあいとやっている。「仲良き事は美しき哉」
さて、自分はと言うと、ひとり旅なので体の向きを前方に向けて景色を楽しみながらゆるりと、処女地のタツボへと向う。
タツボの看板付近には水面に立木が出ていて着舟しやすい場所が有るとの事。それと其の先の検量台付近は名ポイントらしい。
………………………………………………
川又を過ぎ、上って行くと、川が大きく右側に折れている。ココで取舵を切ると、インの位置に「野中」と記載されている看板。そして左手に群生した立木が見えてきた。
なるほど、彼処ならオレでも容易に着舟出来るかもしれない……。ひとしきり思案していたら後続から舟が一艘やって来た。駐車場に居た方だ。抜かれザマに検量台の位置を聞くと、間もなく、との事。では検量台の方も後学の為に見学に行ってみるとするか。
……検量台到着。
うーん。これは難しい……。着舟の仕方が見当もつかない。
暫くボウ然としていたら、向うの方で準備をしていた先ほどの方が、手を止めて教えてくれた。
舳先を沖に出ている木に結んで、左は岩盤下の枝から出ているビニールのヒモに、右は岩盤と検量台を結んでいるロープに結ぶ、これがこの場所の基本だ、と。
合点承知、頑張れオレ ! 。と己を励ましながら実行してみると案外容易に完成。そして同時に、先ずは大声で御礼。
ありがとうございました ! 。
正面を見ると掘立小屋が有って.なかなかのロケーション。
やったぞ ! 。名ポイント.タツボの検量台に入釣出来た。
湧き上がるワクワク感に準備を急ぐ。
……準備が出来て写真を撮っていたら下流から釣人登場。挨拶をもらい.お返しをすると奥畑に行くとの事。
頑張ってください。これでコチラ方面は三人と成った。
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入釣場所の上流側。
岩盤の下のボートがお世話に成った方。 |
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七時五〇分。
・目標釣果/夢は大きく三〇枚、minは二桁。
・竿、仕掛/25尺、鉤素.壱尺+弐尺。
・納竿予定/上流の見学もしたいので十四時頃。
に設定して始動。
暫く打込むも何の変化も無し。
そして何事も起らず、打込み九〇分。一次攻撃(粉550cc+水100cc)終了。
九時三〇分。
新たなバラケを付けた二次攻撃の一投目、ナジミ過ぎてトップが水没してしまった。……圧をかけ過ぎたか ?
。
餌の付け直しをすべく竿を上げたら、オッ ! と魚が釣れた。針にかかったのは目測九寸の放流へら。
ヤレヤレ、不思議な釣れ方だったが、釣果零に別れを告げる事が出来た。そしてカウンターに「1」が点灯した。
十時〇〇分。
魚信零の釣果壱。
釣果も寒いが気温も上がらない。予報では、桜が咲くような陽気、と聞いていたのだが、たまに上流からヒューっ吹く風にクビを竦めている有様。防寒着のフードを被り襟巻を月光仮面の如く顔に巻付け、ひたすらに浮子が動くのを待つ。
そう言えば、朝から一度も浮子の変化を見ていない。この不動の浮子は.はたして動くのであろうか。
取りあえず、何かをしなくては何も起きない。先ずはバラケの投入ピッチを上げてみる。結果、第二次攻撃は六〇分で終了。
十時三〇分。
闇雲に餌を打つばかりが能では有るまい。
今度は下の鉤素を二尺半迄延長してみる。すると…………お待たせしました。第三次攻撃開始.間もなく、浮きに変化が出てきた。然し、空振り、空振り、空振り、の三球三振。
豊英湖にもワカサギは生息しているのか…… 。
疑問への答えは直ぐに出た。直後の魚信を捉えて玉網で掬えたのは先ほどと同サイズ。
更に十分後、再び浮子が動いて三枚目。
豊英湖のへら鮒はヘボに優しい、そして裏切らない。
十一時〇〇分。
今朝方、奥畑へ行く、と通過した方が戻って来た。
上流の様子をうかがうと「魚信零」との事。これには衝撃を受けた。其の余波であろうか、又も魚信が無くなった。
十一時三〇分。
大昔に聞いた、四時限目の終了、を知らせるようなチャイムが流れて来た。てっきり正午かと思ったら十一時半。三島湖も同時刻に流れるから、この地方はこの時間を以て、昼とするのか
? 。今年は減量中なので昼は食べないで続行。
……何だか、さっきから魚信が復活してきた様だ。而も、「いかにも」って感じの魚信だ。
頻発しだした魚信から、力感有るのを選択して二連荘。
やったぞ。遂に時代がやって来た。
魚が沢山集まってきたに違いない。
これが、この日最大のヤマ場かもしれない ! 。
舟上でひとり興奮し緊張がはしる。
然し、
突然だが、今日の釣りは事実上ココで終ってしまう。
……………………………………………………………続く。
続き……………………………………………………………。
ココで大それた事をたくらむ。
ダブルで釣上げたい。そして成就した処を写真に撮りたい。
ちょっと自信有り。両方の針にグルテンを付け、クビには写真機迄ブラ下げて準備万端、魚信を待つ。
緊張して竿を握るも……、アレッ ?、浮子が動かない。次ぎも、次ぎも、その次ぎも、ビクともしない。
もしかしたら魂胆がバレたのではないか ? 。とでも思いたく成るような変わり様。
何だか悪い夢でも見ているのではないか。
何が何だかわからないまま、魚信は消えた。
腑に落ちないが、諦めるしかない。いつまでも夢を追っていられない。上針はバラケに戻し写真機も外す。一人芝居前の状態に戻して、再度、陽が昇るのを待つ。
十二時三〇分。
お世話に成ったお隣の方が撤収。
「朝から一度も魚信が無くて」だって……。
再度御礼を述べ、立ち漕ぎしている後ろ姿を見送っていたら、ハッと気がついた。もしかしたら、あの方はオレの入釣した場所に舟を留めたかったのではないか……
。だとしたら、罪な事をしたものだ。検量台の位置なんぞ聞かなきゃよかった。
オレなんか何処に入っても釣れないし……。
思えば、三島湖で豚小屋の看板前に入っても、ココで検量台に舟を留めても、どんな名ポイントでもオレが入れば、ただのポイントに転落してしまう。
マサに猫に小判、豚に真珠、オレに検量台だ。
十三時三〇分。
忸怩たる思いを噛み締めていたら、事態は更に悪化してきた。背後の岩盤からお天道様が顔を出すと水面に映る掘建小屋に、浮子が同化してトップが見えなく成った。
それでも、もう一度浮子が動くのを見たい ! 。ただその一心で頑張る。
……駄目だ。竿を振る手が疲れてきた。それに緊張も切れ餌の着水ポイントが乱れ、鉤素がクチャクチャに成る事が多く成ってきた。
そして時計は十四時を回り、更に十四時三〇分。己の行為が、無駄な抵抗、だと思い知らされた。
結局、あれから、ただの一度も魚信が無くギブアップ。
待望の赤松には入れなかったが、処女地のタツボ検量台に入釣して、釣果も五を数える事が出来た。
今回はこれで良しとしよう。
十四時三〇分。納竿撤収。
桟橋へと向う。
次回に備えて入釣可能な場所の着舟シミュレーションをしたり記念撮影をしていたら、次回もココに来たく成った。
矢張り、処女地で竿出すのは初々しくて良い。
陸に上がり事務所で、渋い管理人さんと愛嬌のある女性に、ひと事ふた事挨拶をして一件落着。
豊英大橋を見学して帰路に赴く。
お仕舞い。
25尺天々バラケ+グルテン
5枚(07:50〜14:30)
合計 五枚。
九寸〜九寸半。
次回は3月8日からの週のどこかで再度豊英湖。
後記。
箱根駅伝をテレビで観戦していた頃、年賀状に混ざって大きくて分厚い郵便物が届いた。
差出人は、私のトルに足らない釣行記をお読みいただいている方。中を開ける「暖かく成るまでの余暇にでも利用してください」との手紙に房総三湖の資料が入っていた。キッと自分なんかの為に一枚一枚丁寧に写しをとってくれたのだと思う。どうも、ありがとうございます。
心より御礼申し上げます。
この様な貴重なものをご提供いただいたり、行く先々で助言を頂戴しているにもかかわらず、今回も駄目だった。
駄目の原因は、根本的に餌が間違っていたのかもしれない。最近は夏の角麩で用いるバラケを使っている。これが水中に没する軌跡を追うと、周囲に粉を撒き散らしながら沈下して行くのが見える。
昨年夏に、ともゑの桟橋で大名人が教えてくれた。
「今、両団子で練習すると冬の釣りに必ず役立つと……」
そんな言葉を思いだして、次回も又.豊英湖に挑みたいと思う。
最後に、
釣場で私の馬鹿面を見かけましたらお声がけください。
赤い毛糸の帽子を被って貧果に喘いでいる、デブです。
2010年2月28日
吉右衛門
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