水温9度 満水 澄み。
三島湖 三ツ沢.豚小屋下ニ番升。
三島湖 ともゑ釣舟店。
彷徨の末、行き着いた所はやっぱり豚小屋下だった。の巻。
球春到来。
野球が始まった。
実は自分は野球狂で東映フライヤーズ(現北海道日本ハムファイターズ)ファンの生き残り。応援を初めて半世紀。この球団を語らせたら朝迄喋る程の熱烈なファンなのだ。
今でこそ強く成ったが、昔は東映ファンと言うだけで変人扱いをされた。そんな弱小球団のファンに成ったのは、幼少年時代を世田谷の用賀で過ごしたから。当時.球団の前身の親会社が東急電鉄であった関係で本拠地が世田谷.駒沢に有った。そして監督も水原茂さんで強かったのだ。故に、あの辺りの子供はみなフライヤーズのファンに成った。
今、球場に行くのは東京興行の数試合とシーズン終盤に札幌へ行くだけで、寧ろ二軍の鎌ヶ谷に行く事が多い。女房と二人で入場料と駐車代に弁当も含めて三千円で楽しんでこれる。去年迄は中田君が居たから尚更だった。
これから十月迄の半年間、熱い声援を送りたいと思う。
野球は熱いが、こちらはお寒い限り。
今年に成って過去三回の釣果合計が二〇枚でしかない。
そんな不振を挽回すべく、今回は豊英湖に挑みたい。
然し、今週の天気予報には傘マークが並んでいる。
そのなかで唯一.マークが無いのは今日だけ。
例会の開催も事前に問い合せをしてみたら無いようだし、多少の事なら出掛けてみたい。
出舟時間の六時に間に合うよう自宅を四時半に出発。すると穴川から館山道に突入した途端、不穏な一日を予言するかのような雨がパラパラと落ちてきた。過去にもこのような展開で強行し、結果が凶と出た事が幾度と有り、躊躇いはしたが蘇我の辺りで上がってくれたので、そのまま決行。然し、ニクイ事に麓の雑貨屋さんに到着すると同時に、再び落ちてきた。而も、こらから登坂する方向を見上げると山裾辺り迄雲が降りてきている。又も躊躇いを感じるが、引返す勇気も無く、通り雨である事を祈りながら九十九道をヒタヒタと豊英湖へと向う。
五時半。
豊英湖到着。
ゲッ ! 。唖然、呆然、ビックリした。バスが駐車している。思わぬ事に我が目を疑い、慌てて、木和田橋から確認をしてみると、桟橋は大勢の釣り人でごった返している。
「オイオイ、オレは例会の有無を電話でキチンと確認して、無い ! 、と聞いたから、雨の中をやって来たんだぞ ! 」
文句を言ってもはじまらない。
現実は、見ての通り、ご覧の通り、なのだから……。
落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせ乍ら冷静に思案してみると、相手が単純に翌週の予定を見て答えたのかもしれないし、自分が間違えて水曜日と言ってしまったのかもしれない。兎に角、言った言わないの事だから……もう、どうでもいい、って事にするしかない。
然し、どうでもよくないのは、今日のコレからの事。
さて、どうする 。帰宅してから仕事にいくか ? 。
いやいや、そんな可哀想な事は出来ない。折角.夜中に起きて来たのだから真似事だけでも.させてやりたい。
そうと決まれば、速やかに緊急避難の出来る所に退避しなくては成らない。取りあえず、三島湖のダムサイドに移動して取水塔付近で湖面を覗いてみる。すると.なかなか魅力的な光景。これならば……と高島屋さんにお世話に成る事も脳裏を掠めたが、自分の鬱陶しい性格が阻害して、これが出来ない。
「三島湖で釣りをする時は.ともゑ釣舟店」と言う、他人からみれば.どうでもいいような不文律を己に課しているからだ。別に先方は自分を待っているわけではないし、無所属のひとり者を客とも思っていないだろうから、何処へでも自由に行けばよさそうなものだが、それが出来ない。敢えて言えば、「これが、ズッと昔からのオレの生き方」だからだ。
今日もこれから.ともゑ釣舟店に行って草蛙を脱いでしまえば、雨のそぼ降る中を最果てのダムサイド迄来る事は出来ないだろう……。
五時五十分。
ともゑ釣舟店到着。そして同時に雨もやむ。
入店するなり奥さんが「今日は貸切よ」だって……。なんだか申し訳ない気分だが、来ちゃったんだから仕方無い。
「雨が降ったら引揚げますから」と言うと
「じゃあ今のウチ持ってって」だって……。早くもお土産の玉子をいただいた。これを持って帰ると女房が喜ぶ。
貸切であれば看板升で糸を垂らすか、と愚図愚図思案していたら、若旦那に「上流から例会の三人が下りてきたよ」と云われしまった。
矢張り、頼みの綱の看板升は売切れた。それを確認し乍ら.とぼとぼと桟橋へ。
舟に道具を積載して行くアテも無く下流へと出航。
看板升は二名。脇に入れてもらえばよいのだが、今日はヤメておこう。そして喉首の辺り迄来てみると、段々畑の前に航跡があった。而も、キッチリとインの経済コースを漕いだ跡だ。この航跡から推理をするに多分幾度と遠征経験の有る常連さんが下流に向ったに違いない。
三ツ沢には魚影無し。ココは駄目。
然らばと、そのまま鳥小屋の辺り迄漕いでダムサイド方面に目をやると桟橋に人影……あれは漁師か管理人か? 。ココからでは自分のショボイ視力では判別出来ない。そこで桟橋付近迄移動してみると、全容を知る事が出来た。中央ロープにひとりと宮下には一輪の傘の花が咲いている。あれが常連に違いない。
意を固めた。ココ迄来るつもりはなかったが、中央ロープの取水塔側か魚屋下に舟を留めよう。そう思い、櫓に手をやると再び雨。而も、本日最大の雨粒。これが頭に降注いできた。ココ迄来て雨か……。このまま酷く成ってズブ濡れに成る事迄考慮すると、三ツ沢迄後退した方が良さそうだ。
オレは一体何をしているのだろう。
魚影が無く、絶望感漂う三ツ沢岩盤ロープに舟を留める。
本来、この時間は希望に胸を膨らませて準備をするのに、それが無い。而も、追い打ちをかける様に万力が破損しているのを知る。これは玉網置きの部品を流用して難は逃れたが、更に後方から下見に来た人から竿は24尺でも短いと助言をされ、慌てて25尺を竿袋から出そうとすると忘れているのに気がつく。まさに泣きっ面にハチ。運も悪いが姿勢も悪い。
七時半。
・目標釣果/今回は定めず。
・竿、仕掛/21尺、鉤素.100粍+750粍。
・納竿予定/大凡14:00。
但し、大雨に成ったら撤収。
上記の設定で始動。
いろいろあったけれど、やっと釣りが出来る。と安堵したものの、一難去って又一難。
ココから、更なる不幸に遭遇する事に成る。
誰かがラジオのスイッチを入れた。そしてオレの苦手なAM放送が流れてくる。
音源は島の向こうの林の中か ? 、一本松の方角か ? 。
うるさいなー、誰だろう、非常識なヤツは……気が散るじゃないか。なんで静寂な筈の湖面で交通情報を聴かなきゃ成らないんだ。
森の中に職員が入って測量でもしているのか ? 。
それとも、一本松辺りにワカサギ釣りの舟が数杯集まってワイワイやっているのか ? 。
八時。
開始三〇分。浮子は動かず、騒音は止まずで、早くもギブアップ寸前。ラジオのニュースで、選抜高校野球で島根県代表の監督が……、と聴こえて来る。
八時半。
この日初めての、嬉しい誤算。
お天道様が顔を出し、青空も広がってきた。
九時。
これから解消しなくては成らない事は二つ。
一つ目は魚を釣ること。二つ目はラジオのボリュームを下げてもらう事。
そして十五分後、一つ目の解消に向けての初めて浮きに反応があった。
犯人は誰だ ! 。鮒かブルーギルか将又ワカサギか 。
この力の無い魚信はワカサギだろう。そう決めつけて、たいして期待もせずに浮子を眺めていたら、トップのナジミ速度に加速度がついた。 「 ? 」。この魚信を半信半疑で合わせてみると、オッ ! と、鮒だった。
釣ったぞ ! 。
矢張り、名ポイント.三ツ沢岩盤ロープ揺れ止めロープ脇は釣り人を裏切らない。尺位の鰭の綺麗な鮒を釣上げた。
正直オデコを覚悟していたので、ちょっと感激。
さぁ、残るはラジオのボリュームを下げてもらう事。
手始めに「すみませーん。ラジオの音を小さくしてくださーい」と隣の検量台方向に叫んでみるが「…………」無反応。次ぎも無反応。仕方ない。今度は「オーイ。ラジオの音を下てくれよー」大声で叫んでも「…………」応答無し。
聞こえてないのか、黙殺されているのか、もしかしたら、大音量で聴く位だから難聴なのか……。
なんでもいい。最早.直談判しか無い。舟のロープを解いて抗議に向う。そして行ってみると……。
アレ ? 。誰も居ない。茫然自失。
オレは無人の空間に向って何度も叫んでいたのか。音源は何処だろう ?。ハッキリと言えるのはポンプロープの下流方向から聴こえてくる事。
恥ずかしながら、自分は学問が無いから、音波や音の流れについては皆目見当もつかない。然し、無風なのに風に乗って音声が流れてきている事だけは事実。
結局、この騒音の解消は出来ず。
出来なければ仕方無い。これ以上はラジオに付合う事は出来ないからヤメるしかない。
不本意乍ら、止む無く、三ツ沢を後にして再び彷徨の旅に出る。
十時半。
彷徨の末、辿り着いたのはヤッパリ豚小屋下。背後が桟橋の突端辺りの二番目の升。
やっと安住の地に戻って来た。
もう魚が釣れなくったって、魚信がなくたっていい。
心を落ち着けて、静かに浮子を眺める事が出来れば、それだけでいい。そんな殊勝な心掛けで再開。
上の針がなじんで、ちょっと間が空き下の針がなじむ。
この単調な動きの繰り返しを、息を殺して飽く事なくズッとズッと眺める。
十一時半。
再開して一時間。
魚信がなくたっていい、なんて言わなきゃよかった。
言葉通り、ホントに何も無し。
序でに、お隣のボートには人影も無し。
十二時半。
更に一時間経過。
静寂な湖面を眺めているだけ。
十三時。
参りました……投了です。
お仕舞い。
三ツ沢
21尺天々バラケ+グルテン 1枚(07:30〜09:40)
豚小屋下二番升
21尺天々バラケ+グルテン 零枚(10:30〜13:00)
合計 一枚。
一尺。
◯2010年データ。
・釣行回数/4回。
・釣果/21枚。平均/5.25枚。
・次回は04月05日からの週に戸面原ダム。
2010年3月26日(金)
吉右衛門
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