晴天。
水温不明 満水。
豊英湖 峠下。
豊英湖ボートセンター。
豊英湖、ひとりぼっちの峠坂。赤松の下で最後の最後迄頑張り抜いて釣ったのは、大きな感動だった。の巻。
今回の釣行は群馬の藤岡に有る三名湖を予定していた。
それが偶然にも、明日.三名湖の先.富岡への出張に成ってしまった。正直二日続けて群馬迄.車を走らせるのはキツい。よって今回の三名湖遠征は先送りにして、三島湖の下流域に入釣すべく自宅を出立した。
不吉な予感。館山道君津インターを降りてから、何故か車が多い。こんな時間に車を走らせているのは、鮒釣りの漁師以外には考え難い。胸騒ぎを覚え乍ら麓の雑貨屋さんで、釣り人情報を仕入れるとバスが二台立寄ったとの事。
ナヌっ!バスが二台!。朝から衝撃を受ける。
目眩を感じ乍ら車に戻り、この不測の事態への善後策を思案する。
- 甲案。このまま帰宅して仕事に行く。
- 乙案。予定通り、ともゑ釣舟店に向かい、バスが無の時は下流に入釣、有の時は他店で草蛙を脱ぎ上流へ行く。
- 丙案。戸面原に行く。
三択と云うほどでもなかった。悩むまでもく車を真南に向けて発進、戸面原へと向う。
これで二週連続の戸面原と成る筈だったが、8km程進んだ所でハタと思い出した事が有った。午前中に取引先に電話をする約束をしていたのだ。自分の携帯電話は戸面原地区では圏外だ。
さて、参った。最悪の展開に成ってしまった。再び停車して天を仰ぐ。―――今日は魚釣りには縁が無かった、と云う事で帰宅しようか。いやココ迄来ていて帰るのでは余りにも自分が可哀想だ。では馬鹿面を下げてともゑさんに行ってみるか。―――
こんな事をウダウダと考えていると、フと頭に浮かんだ事が有る。豊英湖だ。―――そうだ!、考えても仕方がない。豊英へ行こう。豊英に行ってバスが停車していたら、改めてともゑさんに行く事。電波が圏外で有れば、もう一度善後策を講じるとしよう。―――
今度は車を東に向けて発進。豊英湖へと向う。
ホっ、遠回りをしたが図星だった。バスも居なければ電波も立つ。停まっている車輛も7台だけだ。
入れ込むのを宥め乍ら事務所に入ると、アレっ誰も居ない。仕方が無いので桟橋迄探しに行くが居ない。まさか料金を後払いにしてボートに乗るわけにはいくまい。ブツブツ云い乍ら事務所に戻ってみると、溢れんばかりの笑みのオバちゃんが居た。
この人は誰だろう?、関係者なのか?。この際、誰でもいいや。この愛嬌有るご婦人に料金を支払い、帰舟の時間を聞いて桟橋へと降りる。
思いがけず豊英湖で竿を出す事に成った。
さて、何処に行けばよいのだ。昨春に来た時は川又を折れて橋を潜った右側のワンドに着けたが失敗で、更に向うの出っ張りへと移動した。
今回も同じで行くか。釣況は途中で誰かに出会えば聞けばいい。こんな刹那的な事では拙いと思うが、今回の場合は仕方がないだろう。
午前六時。いざ出陣。
川又の出っ張りは空席だった。ココは名ポイントらしいのだが着舟の仕方がわからないので、残念乍らパス。橋の有る方向へと向かう。
自分は渓谷を上っているのか、下っているのか、と問われれば、遡って漕いでいるのだとは思うが、よくはわからない。
右手に倒木、ココは着け易そうだ。候補として考慮しておこう。更に進み橋を潜ると、まさにココに留めてください、とでも云わんばかりの松が有った。
迷わず決めた、ココにしよう。
本日の入釣場所が決まった。名ポイント、赤松だ。
準備が出来た。
出舟が遅かったから、こんな時間に成ってしまった。
午前七時〇〇分、竿は13尺、仕掛けは天々、餌はベーシック系の両団子で、只今より魚釣りを始める。
餌を打ち始めたが全くの無反応、生物の気配は無し。
開始二〇分、ひと気も無い。此処にはオオクチバスも生息していないのか。
浮子は動かず、ひと気も無しで、ドンヨリとした不安が立ち籠めてきた。―――ひょっとしたら、ココは春のポイントで今は魚が居ないのではないか。だって誰も居ないぞ。昨春に来た時は大賑わいだったではないか・・・・。―――
それともうひとつ、縁起でもない事だが、もしも発作が起きてしまったら、どうなるのだ。誰も居ないし、本日の漁師人口は駐車場の車の数から推測して十名くらいだと思う。当然、同業者には出会せないし管理側も緊張が緩んでいるであろうから、時間がくれば店仕舞をしてしまうのではなかろうか。今朝のオバちゃんが「遅く来たデブが帰って来ない」と気づいてくれれば良いのだが・・・・。
そうだ、心配だから女房に電話をしておこう。
電話に出た女房に「あのさ、今日はお土産に玉子をくれる所が混雑していたので、トヨフサって所に居るから・・・・。もし事故が起きて帰れなかったら、警察か消防に電話をして、『トヨフサコのカワマタの奥の橋の向うの松の木の下で釣りをしている亭主が死んでいるかもしれません』って電話をしろ」と言ったら、まったく相手にされず「馬鹿な事言ってないで、今晩はカレーを作るから六時迄に帰って来な!」だって・・・・。
思考がこんな事に流れつつ、惰性で浮子を眺めていると、やっと魚信が有った。その五分後、魚信の正体の魚を釣りあげた。いやはや、助かった。ああ、良かった。何だか生き返った様な気分。
八時二〇分。今迄オレは何を考えていたんだろう。思考が正に転じてきた。俄然やる気が出てきて、バンバンと餌を打込む。
九時。なんだ、冷やしだけの一匹だけか・・・・。
仕方がない。この膠着状態を打破すべく竿を17尺に替える。
ニッチもサッチも行かない。釣れる気配は零。然し、何だろう、このヤル気は、素晴らしい景色と天気に触発されたのか、鉤素を替え餌も作り替え、己が出来得る、ありとあらゆる工夫をして魚を釣り上げるべく努力をする。
其の甲斐が有ったのか、ちょっとデブな二枚目が釣れた。一枚目から百二十分経過の十時二〇分の出来事。
段々、今日と云う日がわかってきた。魚に活性が無い。浮子の動きも消極的な微動だけだ。
然し、魚は餌の周辺には居るのだから、名人なら魚を騙してでも釣りあげる事が出来るのかもしれない。
口惜しいなぁ、オレはヘボだから手をこまねいているだけだ。手も足も出なく成って、休息時間の十一時三〇分を迎える。
食事をし、周辺の景色を写真機に収め乍ら、午前中の釣果が二枚に終わった惨状から、午後の釣りを予測すると見通しは限りなく暗い。
正午。竿を11尺に替える。今回は角麩の力は借りない。最後迄団子で勝負をする。
十五分も打込んだであろうか、ムズっとした冴えない動きではあるが、釣れた。今迄は空振りだった魚信。続いて浮子がナジミ終わってから一節上がったところで餌を切ったら魚が付いてきた。魚信は無しだが連荘。所謂結果オーライってヤツ。
続けて釣れたので、敗者復活かと思っていたら、違った。
またも雲行きが怪しく成ってきた。魚が眠りに入ってしまった気配だ。
さぁ、どうする。竿も替えた、鉤素も替えた。餌のNGは山の様に有る。自分の技量では万策尽きた。斯くなる上は、最後の砦、19尺を出そう。
十三時。何とか一矢報いんが為、仕掛け作りに励む。
十三時半、やっと仕掛けが出来た。残り時間は納竿予定の十五時迄の九〇分、最後の勝負に挑む。
只管に餌切りを繰り返していると、遂に明確なツンが出た。時計を見たら十四時ピッタし。最後のツンは二枚目を釣った時だったから、実に三時間半の出来事だ。
やれば出来るじゃないの。何とか目処が立ったぞ。意気が上がって今迄以上に頑張るが、天は更に試練を与える。
魚信は復活したが、釣り上げることが出来ない。針には掛けるが水面迄上げられない。四度もバラした。空振りも山の様に築いた。
十五時。納竿時間なんか糞喰らえだ!。絶対に釣るぞ!。
不退転の決意で続行すると、ツンっ、駄目だ、緊張して手が動かない。又もツンっ、駄目、今度も手が動かない。もうひとつツンっ、ドンピシャ!、ガツンっと確かな手応え。大きな魚を数十秒の格闘の末に、やっと仕留めた。最後は玉網で掬わず、糸を持ち手元の写真機で撮影してから丁重に針を外す。「どーもありがとう」何度もツンを連発してくれた魚に礼を言って一件落着。十五時二〇分。
必死だった。息が整ってきたら、急に感情が激してきた。体中からえも言われない満足感がこみ上げてきた。この喜びは何だ…。やはり頑張り抜いで事を成し遂げたという自己満足なのだろうか・・・・。
高が魚釣り、と言うなかれ。この時間、この瞬間、この快感、こんな大きな感動を得られるのが、へら鮒釣りなのだ。
釣ったぞー!!!っと、大きな声で叫びたい。
最高の気分で凱旋をする。
興奮状態が醒めやらぬまま、桟橋へ上がり、渋めの管理人さんに挨拶。
一件落着かと思いきや、奥にいた笑顔のご婦人が「11月に放流するから、またおいで」だって。「ハイハイ!、喜んで来ますとも」。
お仕舞い。
13尺天々両団子 1枚(07:00〜08:50)
17尺天々両団子 1枚(09:00〜11:30)
11尺天々両団子 2枚(12:00〜13:00)
19尺天々両団子 1枚(13:30〜15:10)
合計 五枚。
八寸〜尺弐寸。
次回は九月二十八日、三名湖。
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